第261話【閑話】ゴラントンの剣

 ゴラントン最強のクラン『ゴラントンの剣』のリーダー、リスタインは暗闇の中、焚火の前に座っていた。

 周囲には数人の仲間が見張りに立っていて、テントの中では仲間が寝ている。

 ここはアルッポのダンジョン。その九階だ。


「……」


 リスタインは顔全体を覆うようなマスクとゴーグルを横に少しズラし、特殊な形状の容器に入れた水を、中が空洞になっている棒から吸い上げて飲んだ。

 この九階は全面、謎の毒で覆われている。この毒で即死することはないが、長く吸い続けると行動不能に陥ってしまう。

 なので、出来る限りこの毒が体内に入らないよう、防毒マスクとゴーグルは必須だし。食料は外気に出来るだけ触れないようにしないといけないし。食事も外の毒を吸い込まないよう注意する必要がある。

 それらの装備を準備するため、彼等は何年もの月日と多額の金銭を費やした。

 そして彼等の後援をしているグレスポ公爵がそれらの支援をしている以上、アルッポのダンジョンのクリアは絶対に成功させる必要があるのだ。

 リスタインは拳を握りしめる。

 だがダンジョンクリアは簡単ではない。

 今このダンジョン下層にはゴラントンの剣の他に教会による聖騎士団とアルメイル公爵の従士団が入っていると分かっている。彼等より先に最深部を見付け、ボスを倒さなければならない。

 それが出来なければ……。


「……ふぅ」


 リスタインは大きく息を吐いた。

 シューメル公爵家への襲撃が失敗し、逆に大打撃を受けたグレスポ公爵家は既に弱体化が進んでいる。ここで唯一無傷なアルメイル公爵家に新たなアーティファクトが渡り、ダンジョンクリアの名誉も得たならば、このカナディーラ共和国の勢力図は完全に塗り替わってしまう。

 なので、失敗すれば全てが終わる。リスタインも終わるし、グレスポ公爵家も終わる。

 最悪の場合、もし他の陣営に先にクリアされてしまったら。闇討ちしてでも功績を奪い取る必要がある。

 アルメイル公爵家はまだいい。しかし、聖騎士団を襲うとなると……。


「……」


 それを考えて、リスタインは目の前が真っ暗になるような絶望を垣間見た。

 聖騎士団を敵に回すとなると――

 次の瞬間、リスタインは気配を感じて身構え、いきなり飛んできたナニカを剣の鞘で弾く。


「誰だ! 姿を現せ!」

「どうしました!?」

「襲撃か!?」


 見張りをしていた男達が一気に抜剣し、異変を感じた仲間がテントの中から飛び出してくる。


「あっちだ! 追え!」

「おぉぅ!」

「いや、待て! 夜の追撃は危険だ! 罠かもしれない! 追うな!」


 リスタインは今にも闇の中に飛び出しそうな部下を静止し、辺りの気配を探る。

 しかし既に何者かは消えたようで、周囲に人の気配はない。

 この一瞬で消えたとなると、相当な手練である可能性が高い。

 リスタインの頬に汗が流れる。


「警戒を続けろ!」


 そう命令を下しながら考える。

 襲撃者の意図が分からない。

 もし不意を打つなら、最初の一撃は大きな攻撃にする。無防備な相手を自由に攻撃出来る最大のチャンスだからだ。普通なら不意打ちで削れるだけ削りたいはず。しかしこの襲撃者は大して威力のないなにかを投げ込んできただけ。

 リスタインは地面に目を走らせ、投げつけられたソレを見た。


「こ、これは、まさか!」

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