第152話 クランの話
「そうか……。親父は元気そうだったか?」
イスに座ったまま僕から手紙を受け取り、じっくりと中を確認したドワーフの男性――ケヴィンさんはそう言った。
ボロックさんが元気そうだったかどうかと聞かれると、まぁ今は元気そうではあったけど、僕が治さなければ死んでしまいそうな感じでもあったし、でもそれは治したから今は元気ともいえるし、一瞬そんなことを考えてしまい、「え? えぇまぁ、そうですね」と半端に返してしまう。
「そうか」
僕の言葉を聞いた彼はそうつぶやき、顎に手をやって黒い髭を触りながら何かを考え始めた。
沈黙の中、その仕草はボロックさんと似ているなぁ流石親子だ、とか考えているとケヴィンさんがこちらを見ながら口を開く。
「よし、クラン入りを認める。細かいことについては――ミミ、任せていいか?」
「分かりました」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってください! なんで入ることになっているんですか!?」
急に話が動き始めたと思ったら意味不明な方向へと走り出したので慌てて止める。ちょっと何がどうなっているのか分からない。
「ん? 手紙には、面倒見てやってくれ、と書かれていたぞ。クラン入りの話じゃないのか?」
「聞いてないですよ! そもそもクランが何かよく分かりません」
「クランが何か分からない? お前、冒険者じゃないのか?」
「冒険者ですよ……Fランクですけど」
いや、Dランクまで行ってたけどさ。でも聞いたことがない……はず。
「Fか……。まぁいい、そこに座れ」
彼はそう言い、応接セットのようにソファーが並ぶ方を指さした。
僕とケヴィンさんが向かい合ってソファーに座り、ここまで案内してくれた女性――ミミと呼ばれたウサ耳の女性がケヴィンさんの後ろに立つ。
「まぁ簡単に説明すると、クランってのは冒険者の集まりだ」
ざっくりしすぎている説明から始まった話に危機感を覚え、ミミさんの絶妙な補足に安堵し、途中で分からないことをつっこみながら彼らの話を聞いた。
まぁ要するに、クランとは冒険者の集まりなのだ。
という説明が一番適切なことに内心、頭を抱えそうになるが……。
いや、正確にいうと冒険者以外もいるらしいのだけど。
この世界には冒険者一人では対処できないことが沢山ある。そしてパーティを組んでいても対処できないことも多い。スタンピードの時なんかがそうだろう。そういう依頼を積極的にこなすためにパーティ以上の大人数を集めたのがクランとよばれる組織らしい。
でも、そういう大人数が必要な仕事ってギルドが取りまとめて人数を集めるんじゃないの? と最初は考えたけど、よく思い返してみると、あのスタンピードの時、良くない状況になったら適当な理由を付けてさっさと逃げ出す冒険者もいた。
本来、冒険者とは自由な存在なのだ。依頼は依頼、強制は出来ない。命を賭ける義理もない。少なくとも建前上はそうなっている。あの時、スタンピードの時、あの場に残ったのはランクフルトに関係のある冒険者がほとんどだった。
「まあそんな感じだな。どうだ、入ってみないか? うちのクランに」
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