第82話 スケルトンと浄化と新しい……

 横からの薙ぎ払いをバックステップでかわし、振り下ろされた剣を槍で横から弾いて受け流し、一突き入れて下がる。

 後ろに下がりすぎて他のモンスターが出てこないようにオークの横に回り込み、オークの突きをサイドステップでかわしながらまた一突き。

 飛び込んできたオークを下がりながらジグザグにステップしてかわしつつ、攻撃を槍で弾いて一突き。

 攻撃が浅くてどれも致命傷にはなっていない。しかし確実にダメージは蓄積されているようで、オークの体は血で染まり、そして息も荒くなってきている。


 それから何度か槍を突き入れるとオークは錆びた剣を取り落とし、地面に膝をついた。

「やっと、か」

 錆びた剣が落ちている方とは逆側からオークに近づいて、肩で息をしているオークの首筋に槍を突き入れる。

 オークは小さく「ブゥ……」と鳴いて地面へと崩れ落ち、消えていった。

 そして地面に魔石と肉の塊と錆びた剣が残り、それと同時に僕の体に光が渦巻いて、僕の中に吸収される。これが一一回目の女神の祝福のはず。


「……ここの人気が一五階より低い理由が分かるね」

 恐らく、オークが持っていたこの錆びた剣はスケルトンのドロップアイテムなんだろう。

 ダンジョンに何か物を置いておくと、ダンジョンに吸収されて消える。でも消えるまでの時間はそこそこ長い。倒したモンスターがすぐに消えるのとは別らしい。

 なので、冒険者がスケルトンを倒し、錆びた剣を放置して去り、そしてそれを見付けたオークが拾う。というサイクルがこの階では出来ているのだろう。

「厄介だなぁ……。でも――」

 訓練にはなる。


 オークのドロップアイテムを拾い、またスケルトンを探して歩き始めた。



◆◆◆



 それから一〇分ほど歩き、スケルトンを発見した。

 さて、次に試す魔法だけど、次は浄化を試してみるつもりだ。

 浄化の魔法は攻撃魔法ではない。けど、それを言うならホーリーライトもそうだし、ホーリーライトはアンデッドに効果があった。だとすればこの浄化の魔法もアンデッドに効果があるのではないか……と言うか、神聖魔法って大体はアンデッドに何かしらの効果があるような気がしてるんだよね。


 カシャンカシャンと暗闇から近づいてくるスケルトンが出てくる前に発動しようとして呪文を詠唱する。

「不浄なるものに、魂の安寧を」

 そして暗闇から出てきたスケルトンに向かって発動するように念じた。

 しかし――何故か魔法が発動する感じがしない。

「え、えっ? ……お、おおっ!」

 そうこうしてる間にスケルトンが目の前まで近づいてきて、剣を振り下ろしてきた。

 焦りながら慌ててそれを槍で受け流していると、魔法が発動出来そうな感じがしてくる。

「何だかよく分からないけど! 《浄化》」

 その瞬間、僕の右手から輝くオーラがスケルトンに向かって飛び出し、スケルトンの全身を包んで神々しく輝き出した。そしてスケルトンの全身から白い煙が吹き上がる。

 数秒後、スケルトンだった骨がカラカラカラと地面に散乱した。


 その骨を見つめながら頭をひねる。

「うーん……。今の間は何だったんだろう?」

 考えながらスケルトンだった骨の前に屈み、よく観察した。

 さっきまで黒ずみや黄ばみがあって、それが嫌な迫力を醸し出していた骨が、浄化の後は綺麗サッパリ白くなって理科室にある骨格標本みたいに見える。

「……何か、変な感じだな」

 何故か、地面に落ちているソレが人骨とは感じなくなってきた。

 いや、そもそもスケルトンは本当に人骨から発生したのだろうか? もしかすると魔法的な何かで生み出された可能性もあるし……。それに、いきなりモンスターが湧き出てきて、倒せば消える、ダンジョンみたいな謎空間の場合、外の世界とは世界のルールが根本から違う気もする。


 ……まぁ、考えても分からない話は横に置いておくとして、さっき浄化が発動出来なかった事の方が重要だ。

 最初は発動出来ず、スケルトンが近づいてきたら発動出来た。つまり――

「あぁ、射程距離的なモノが原因なのかな」

 よく考えると、自分の近くにある物にしか浄化を使った事がない気がする。そもそも神聖魔法を秘密にする以上、おおっぴらには使えないから宿屋の狭い部屋の中ぐらいでしか使う機会がなかったし。

「だとすれば、これを戦闘で使っていくのは厳しいかぁ」

 まぁ仕方がないよね。

 それに浄化は魔力の消費も大きい。レベルが上がったからか、前ほどは魔力を消費している感じはしないけど、それでも二割程度は消費している気がする。

 全体的に神聖魔法って魔力消費が大きいんだよね。それに見合うだけの効果はある魔法だから文句は言えないんだけどさ。


 そんな事を考えながら骨を見ていると、その骨がダンジョンに吸収されるように消えていき、魔石と錆びた剣を残し、そして――


“ホーリーファイアの魔法書”

“神聖魔法の魔法書”


「お、おおー! きたー!」

 その魔法書が残った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る