第83話 ホーリーファイアと意外な……

 魔法書を拾い上げてみると手に魔法書と繋がる感覚があり、間違いなくこの魔法書が本物だと分かった。

「……」

 魔法書を持ったまま周囲を確認する。

 安全を考えるなら宿に戻ってから魔法書を使うべきだ。……でも、今はアンデッドに対する魔法の効果を調べてるし、どうせなら今からこのホーリーファイアの魔法を覚えて、一緒に効果を調べてしまいたい。

「うーん……どうし……いや、ここで悩む時間があるなら使っちゃおう」

 そう考えて魔法書を開いて読み進めていく。

 いつもより少し早めにパラパラとページをめくり、最後のページを読み切った瞬間、魔法書が白い炎に包まれて消えていった。

 そして頭の中に魔法に関する情報が残る。

「うーん……聖火?」

 聖なる炎? 的なイメージが頭の中に残っているけど、いつものように、詳細な効果などはよく分からない。

 とりあえず使ってみるしかないかな。

 右手を近くの壁に向かってかざし、呪文を詠唱する。

「神聖なる炎よ、その静寂をここに……《ホーリーファイア》」

 呪文を唱えると、腹の奥底から魔力が流れ出し、体の中をグルグルと巡りながら右手へと集まった。そして手のひらから直径一〇センチ程の白くメラメラと燃える火の玉が出現し――

 ――その場に留まった。


「……?……??」

 右手を左右にゆっくり振ってみると、白い火の玉も一緒に付いてくる。

「……」

 何と言えばいいのか……てっきりライトボールみたいに攻撃魔法的な感じで、ひゅんっと飛んでいくのかと思っていたけど、どうもデフォルト状態では手のひらの前に留まるらしい。

 ならばと、今度は白い火の玉に動くように念じてみる。とりあえずは遠くに見えている壁に向かって飛べと念じると、白い火の玉がひょろひょろっと壁に向かって飛んでいき、壁にぴとっとくっついた。そして同じようにメラメラと燃え続ける。

「……」

 いやいやいやいや、そうじゃない。求めてるのはそれじゃないよ!

 そうじゃなくて! こう……攻撃魔法みたいにさ、ヒュンっと飛んでいってボカンっみたいな――

 そう考えた瞬間、壁にひっついていた白い火の玉が、ボンッと爆発し、半径一メートル程の空間に白い炎を撒き散らした。

「うぉおおおっつ! …………えぇぇぇ」

 いきなりの事に驚いて飛び退り、こけそうになったけど何とか踏みとどまって爆心地を見ると、壁と地面に白い炎がまばらにまとわりついていた。


 そのまま一〇秒ほど燃えた後、白い炎はゆっくりと消えていった。爆心地の壁を確認してみたけど、何の痕跡も残っていない。噂通り、ダンジョンは頑丈に出来ているらしい。

 いや、そうではなくて……。

「何だこのニトログリセリンみたいな危なっかしい魔法は……」

 これを完全に……いや安全に使いこなすまでには時間がかかりそうだ。

 少し憂鬱になりながらも、次の獲物のスケルトンを探す事にした。



◆◆◆



 スケルトンを探しながら歩いていると、ふと疑問が頭に浮かぶ。

「そういえば、何でスケルトンからホーリーファイアの魔法書が出たのだろう?」

 考えてみると少し変な気はする。

 このダンジョンのドロップアイテムは、基本的にはそのモンスターに関係ある物が出る。例えばエルラビットからはエルラビットの肉と皮が出るし、デザートカウならデザートカウの肉と牛乳、そして皮もだろうか。

 しかしアンデッドであるスケルトンと神聖魔法の魔法書は、関係があるどころか完全に真逆な気がするのだけど……。

 まぁでも、オークと強化スクロールにどんな関係があるんだ? と言われてしまったらおしまいだし、そもそも……。

「オークとしゃもじの関係もよく分からないしね……」

 まあ強化スクロールやしゃもじと同じように、モンスターとはまったく関係のない物も一定確率でドロップするような仕組みなのかもしれないね。


 そんな事を色々と考えていると前方からカチャカチャと聞き慣れた音が聞こえてきた。

 スケルトンだ。

 よし見付けた。早速、ホーリーファイアを試してみようか。

 音がする方の暗闇へと右手を向け、魔法の準備を始める。

「神聖なる炎よ、その静寂をここに」

 呪文を詠唱し、魔法を発動させずにスケルトンが見えるのを待つ。


 数秒後、スケルトンが暗闇の中からヌッと現れたのを確認し、魔法を発動する。

「《ホーリーファイア》」

 右手に集まっていた魔力が手のひらから解き放たれ、白い火の玉となり――その場に留まった。

「まぁそうなる、よね!」

 予想通りだけど、少し苦笑いが出てしまう。

 さて、ここからが大変だ。スケルトンの攻撃をかわしながら火の玉をスケルトンへと飛ばし、爆発に巻き込まれないように距離を取ってから爆発させる必要がある。魔法をコントロールしながら別の事をやるのは大変だけど、やるっきゃない。


 そう考え、ホーリーファイアをコントロールするために意識を集中させようとしたその時。

 スケルトンが予想外の行動を取ったのだ。

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