第84話 骨系潔癖女子と神聖魔法の考察と謎の本
剣を振り上げてこちらへと迫ってきていたスケルトンが急に止まり、後ずさり始めた。
「……?」
スケルトンはカタカタと顎の骨を鳴らしながらズリズリと下がっていき、暗闇へと消えていく。
「えっ? いや、ちょっと……」
今からホーリーファイアでスケルトンと戦うという難しい事に挑戦しようと意気込んでいたところに、逆の意味で不意を突かれて一瞬、気が緩んでしまう。
気を取り直し、慌てて追いかけていくと、それに合わせるようにスケルトンもどんどん後ろに下がっていった。
「うーん……これは……」
もしかして、ホーリーファイアの白い火の玉を嫌がってる?
いや、それ以外に考えられない。他はさっきと何も変わっていないはずだし。
……もしかすると、実はこのスケルトンが潔癖系女子で、汗臭い男の人は苦手なのですぅ~、とか言いながら逃げてる可能性も無きにしもあらずだが。……いや、くだらない妄想で遊ぶのは止めておこう。
そのままスケルトンを追いかけていると、ついに袋小路までスケルトンを追い詰めた。
逃げ場のなくなったスケルトンがこちらを向き、突き当りの壁に張り付いて、まるで震えているかのようにカタカタと骨を鳴らす。
「もう逃げられないぞ。諦めるんだな」
右手にある白い火の玉に意識を集中させ、スケルトンへと飛ぶように念じる。するとさっきよりはスムーズに飛んでいき、スケルトンの骨盤に付着した。そしてその白い火の玉がメラメラとスケルトンの骨盤を焼き、その周囲の骨からも白い煙が上がる。スケルトンは身もだえるように体を震わせ、カタカタと音をたてた。
しかし……。
「やっぱりこれでは決め手に欠ける……か」
継続的にダメージは与えているっぽいし、それでそのうち倒せそうな気がしないでもないけど、地味に炎を維持するために魔力を使ってるっぽいし、効率的にはよろしくない。
まぁ、大体この魔法の効果については掴めてきたし、もういいかな。そろそろ終わらせよう。
そう考え、白い火の玉に意識を集中させ、次のイメージを頭の中に浮かべる。
そして――
「終わりだ。……
僕が言葉を発した瞬間、白い火の玉がボンッと軽く爆発し、半径一メートルほどに白い炎が拡散した。爆心地にいたスケルトンは白い炎に全身を包まれ、白い煙を上げながらカタカタと骨を震わせる。
それから数秒後、スケルトンはその場に崩れ落ち、骨が散乱した。
「なるほど」
何となくだけど、イメージしやすいかなと思って言葉にして発してみたけど、上手くいった。こうすると、やりやすい感じがする。
また一つ、魔法について何か掴めた気がした。
その事が嬉しくて、自然と笑顔になった。
それにしても――
「何だか、僕の方が悪者っぽくない?」
その問いかけはダンジョンの闇の中へと消えていった。
◆◆◆
気を取り直し、ホーリーファイアについて考察する。
まず思った事が一つ。このホーリーファイアはどういう用途で使うための魔法なのだろうか? という疑問だ。僕は攻撃魔法のように使っていたけど、本当に攻撃魔法なのだろうか?
確かにこの魔法でスケルトンは倒せたけど、攻撃魔法としては使い勝手が悪い気がする。なんせこちらが意識して飛ばそうとしなければ飛んでいかないし、その速度も遅い。爆発もこちらで操作する必要がある。そしてこの白い火の玉が苦手らしいスケルトンでさえ、白い火の玉と接触しただけでは決定的なダメージにはなっていなかった。こちらで爆発させて、全身を炎で覆って焼いてやっと倒せたのだ。
色々と総合して考えてみると、白い炎――聖火を作り出して何かに着火するぐらいが本来の効果な気がする。つまり生活魔法で言うところの火種の魔法のようなモノなのでは? と思う。
生活魔法は、光源、重量軽減、火種、水滴、微風、操土、の六つだと言われている。それぞれ光属性、闇属性、火属性、水属性、風属性、土属性で、魔法の中では一番覚えるのが簡単らしい。
そして、僕が覚えている神聖魔法の中でこの六属性の名前が入っている魔法は、最初に覚えたホーリーライト。次に覚えたホーリーウインド。その次がホーリーアースで、さっき覚えたホーリーファイア。法則的に言えば残っているのはホーリーウォーターとホーリーダークになるはず。……ホーリーダークが存在するかは分からないけどね。
まぁとにかく、ホーリーファイアが生活魔法の火種のようなものなら、もしかすると他のホーリー+六属性の魔法も神聖魔法の中では生活魔法ぐらいの扱いのモノなのではないか? という一つの可能性が浮かび上がる。
現時点ではまだ何の確証もないので断言は出来ないけどね。
とりあえず、これに関しては現時点では何とも言えないので、何か新しい情報が出てくるのを待つしかない。
そして次に気になったのは、このホーリーファイアの効果、つまりモンスターが逃げ出す効果が何にどこまで影響があるか、という事についてだ。
つまり、今回確かめたスケルトンにだけ効果があるのか。アンデッド系全てに効果があるのか。モンスターの全てに効果があるのか。それとも種族とか関係なしに特定の何かの特徴を持つモンスターにだけ効果があるとか。色々と考えられるから、これは一つ一つ調査していく必要がある。
とりあえずアンデッドと魔法に関する調査は終了したし、次はこれについて調べてみようかな。
などと考えていると、目の前に散乱していた骨が消えて魔石と錆びた剣が残る。
そして――
――赤黒い本がそこにあった。
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