第85話 カオスと考察と背中の住人

 その本に近づき、拾い上げる。

 色は黒っぽい赤。大きさは神聖魔法の魔法書とほとんど一緒だと思う。手に持った感覚からして、少なくとも僕が使える魔法書ではない事が分かる。そして表紙を見てみると、多少の装飾と共にという文字が書かれていた。

「カオスファイア……」

 これは……何だろう? 魔法書なのだろうか? それともただのハズレアイテムなのだろうか?

 僕が知る限り、普通の魔法書は濃い緑色。神聖魔法の魔法書は濃い青、濃紺色をしている。なのでこれは普通の魔法書ではないとは思う。しかし、今までに見た魔法書と色以外の見た目はそっくりだ。

 本を開き、中を見てみる。

 中には意味不明な言葉や記号、見たことがない文字などが並んでいた。これも一般的な魔法書と同じ……。

「うーん……わからないな」

 今の僕にはこれが何なのか判別出来ない。何でも鑑定出来る能力のようなものがあればいいんだけど、どうもこの世界には存在しないか、存在していてもかなり珍しいはず。

 もし何でも鑑定出来る能力やアイテムが出回っているなら神聖魔法の魔法書から神聖魔法の存在が広まっているはずだしね。


 しかし……何かが引っかかる。

 今までに見聞きした情報の中に何かヒントのようなモノがあるような気がする。

 本を抱き抱えるように腕を組み、右手で顎を触りながら思考の海へとどぷりと沈む。

 そして円を書くようにぐるぐると同じ場所を歩き続ける。

 何だ? どこで何を見た? どこにヒントがあった?

 過去の事、今の事、色々と思い出していく。

 カオスファイア……そして同じスケルトンから出たホーリーファイア。神聖魔法はクォーターエンジェルと相性が良い。神聖魔法は聖なる魔法。聖の逆は――


「――あっ」


 そういえば、あの白い場所でという種族を確認したはず。もう何ヶ月も前の事だから完全には覚えていないけど、クォーターデビルはクォーターエンジェルと同じ五〇ポイント消費でインパクトが大きかったし、クォーターエンジェルとは対のような存在に感じたからよく覚えてる。

 で、確かその説明欄に、? か何かと相性が良い、みたいな文章があったような記憶ある。そしてクォーターエンジェルの方の説明欄にはと相性が良い、みたいな文章があったはず。

 あの時は神聖力が何なのかさっぱり分からなかったけど、今ならそれが神聖魔法に関係する何かの力だと分かる。ならば暗黒力の方にも対応する魔法が何かあるんじゃないのか?

 まぁ現時点では推測の域を出ない話だし、そもそもそういう魔法があるとしても、この本がその魔法の魔法書であるという証拠はない。つまり、小さな点と点を強引に繋いで一本の線にして、何とか想像力で予想と言う名の答えを導き出しただけにすぎない。

 まぁでも……。


「……神聖力が神聖魔法なら、さしずめ暗黒力は暗黒魔法? という感じかな?」

 そう言いながら視線を本へと移した。

 しかし赤黒い本は何も答えてはくれなかった。



◆◆◆



「この本は……魔法書ではありませんので、買い取り出来ませんね」


 あれから暫くスケルトン狩りを続けた後、ダンジョンから出て、ダンジョン前の屋台などで素材を一通り換金し、ギルドで魔石を換金するついでに例の本を見せた。ギルドでは魔法書の買い取りも一応やっているので、もしかすると何か分かる可能性があるかも、と考えたのだけど……結果は予想通りだった。

 まぁ期待はしていなかったし、これは仕方がないね。

 受付嬢に「ありがとう」と礼を言い、本を受け取ってギルドを出た。


 宿に向かいながら考える。

 さて、この本をどうしようか? 家がない僕にとって余計な荷物は邪魔なだけだ。出来れば早く処分してしまいたい。

 とか言いつつも、何かに使えるかも! とか考えちゃって色々と持ち続けてしまうのが僕なのだ……。

 前にランクフルトで浄化の魔法書や麻痺のナイフと一緒に手に入れた色々なアイテムも、用途を調べて使えない物は捨てようと思ってたのに結局全て持ち続けている。あの中で今持ってないのは、使って消えた浄化の魔法書と、壊れたから捨てるしかなかった麻痺のナイフだけだし……。

「そろそろ本格的に荷物を整理しないとな……背負袋が重たくなってきてる」

 そう言いながら背負袋に魔法書を入れた。

 また少し重たくなった背負袋を背負い、僕はいつもの宿へと歩いていく。


 こうして背負袋の住人がまた一つ増えたのであった。

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