第86話 それから三〇日後

 あれから約三〇日ほど経過した。

 ほとんど毎日ダンジョンへと向かい、オークとスケルトンと戦って経験を積んだ。やはりあの階のオークとスケルトンは武器を持っているからやりにくかったけど、その分かなり訓練になった。そのおかげか女神の祝福も三回あり、僕が覚えている限りではレベル一四になっているはず。

 ずっと一六階から一八階までの階層に通い続けてオークとスケルトンばかりを倒していた結果、この二種類については大体のドロップアイテムが分かってきた。

 まず、どのモンスターも魔石は一〇〇%残すけど、スケルトンはそれにプラスして錆びた剣も一〇〇%の確率で落とす事。これに関してはあまり意味がない……いや、これのおかげで剣持ちオークが誕生しているんだから意味がない事もないか。

 ほとんどの冒険者が錆びた剣をダンジョン内に放置していくからそうなってるんだよね。


 この世界にはというアイテムがある。見た目以上に物が入って重さも感じなくなる魔法のアイテムらしいけど、そこそこ貴重らしくて持っている冒険者は多くない、らしい。少なくともこのDランク帯にいる冒険者が簡単に持てるアイテムではないわけで、つまり冒険者が持てるアイテム量には現実的な限界がある。いくらレベルが上がって身体能力が上がった冒険者でも物理的な限界を超える多すぎる物は持てない。そしてこのダンジョンには入場料があるから何度も地上と往復するとコストが増える。結局、金銭効率の悪いアイテムは捨てるしかないのだ。


 さて、他のドロップアイテムについてだけど、魔石と錆びた剣に次いで多かったのはオークの肉だろうか。これも頻繁にドロップしていた。はっきり言って、この階で活動する冒険者の目的はほとんどこれだと思う。オーク肉が稼ぎの中心になっているのだ。

 それは逆に言うと、他に稼げるアイテムが出ないとも言える。

 オークは強化スクロールをドロップするけど、その確率はかなり低いので安定した稼ぎにはならないし。スケルトンはホーリーファイアの魔法書とカオスファイアのを落とすけど、それは売れないから稼ぎにはならない。あとはハズレアイテムがちょこちょこと出てくるぐらいだ。

 そりゃDランク帯の冒険者はデザートカウが出る一一階から一五階の方に行きたがるはずだよね。デザートカウは売れる物が沢山出るのにスケルトンはお金にならないんだから。

 この階にいる冒険者は、一一階から一五階の過密状態に嫌気が差して移動してきた人達なんだろうな、と思った。


 そしてハズレアイテム。これに関してはもうよく分からない。

 木製の皿やジョッキ。何かの紙。ボロボロな布切れ。石ころ。木の枝。などなど、色々と出てきた。やはり特に出現法則とかはない気がする。最初は何かこれには意味があるのでは? と思って全部持って帰ろうと考えていたけど、石ころが出てきた段階で諦めた。今は日用品の内、使えそうな物だけ拾い、あとは放置している。これ以上、背負袋の住人を増やすのはマズいのだ。


 最後に魔法書について。

 この一六階から一八階までの階層ではスケルトンがホーリーファイアとカオスファイアの魔法書を落とした。しかしこの三〇日間、カオスファイアの魔法書は二度ドロップしたけど、ホーリーファイアの魔法書は見ていない。ドロップ率が低いのは間違いないだろうし試行回数が少ないのかもしれないけど、ホーリーファイアの魔法書だけが出てこないのは少し気になっている。

 ちなみに、二冊目以降のカオスファイアの魔法書は流石に捨てた。

 もうこれ以上、背負袋の住人は増やせないんだよ!


 色々と考えていると、階下から鍋の底をガンガンと叩くけたたましい音が聞こえてきた。

 これがこの宿の“お客様、お夕食の準備が整いましたので一階食堂へとお越し下さいませ”の合図だ。

 最初は、何だこれは! 火事か? スタンピードか!? と思ったけど、もう慣れてしまった。慣れって怖いよね。


 部屋を出て階段を下りていく。

 部屋の扉を開けた瞬間から肉の焦げた香りが鼻孔を強烈に攻撃し続けていて、もうそろそろ限界だ。今日は少し高い肉を追加しよう。少し高い葡萄酒を飲むのもいいかもしれない。


 この三〇日間、単純にダンジョンでモンスターを倒すだけでなく、色々と魔法の練習をしたり検証などもした。

 まず三〇日前にやろうと思っていた事。ホーリーファイアにはどこまでの効果があるのか? という疑問の検証だ。

 スケルトンがホーリーファイアの白い火を見て逃げたところから始まったこの検証。もし、その効果がスケルトンだけにしか効かないのなら物凄く微妙な効果だろう。使える場面が限定されすぎてるしね。でも、アンデッド系全般に効果があるのなら、いつか使える場面はあるかもしれないと思っていた。そして、もし、モンスター全般に効くのであれば……それはちょっと、とんでもない効果だ……。

 などと考えながら検証を進めていたところ、まだ検証途中ではあるものの、予想とは少し違う結果が出てきていた。

 まず他のアンデッドへの効果だけど、これは実はまだ行っていない。というのも、僕がすぐに行ける範囲に出るスケルトン以外のアンデッドは一九階から出るゴーストぐらいしかなかったからだ。勿論、もっと深い階層には別のアンデッド系がいるらしいけど、それはまだ無理だから別だ。

 まぁ要するに、ゴーストがいる階層に行く事をためらって検証出来てない、という事なんだけど……。

 これは仕方がないよね。うん、仕方がない。

 なので一階から人がいない場所を探して一般モンスターを相手に検証していった。

 結論から言うと、微妙に効果があったのだ。

 モンスターは若干怯むものの、襲ってくる事は襲ってくる。表情が分かりやすい二足歩行系のモンスターなどは嫌そうに顔を歪ませていたので、その程度には何かが不快らしいけど、それで逃げるほどではない、という感じだろうか。

 つまり、効果がない事もないが効果があるとは言えない、という結果が出た。

 普通のモンスターに対しては、田んぼに刺さっているカカシよりはマシな効果があるかも、という感じかな?

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