第81話 ホーリーウインドと真のオーク師匠

 それからまたダンジョンを徘徊し、スケルトンを見付ける。

 早速、次の魔法を試す事にして、呪文を詠唱した。

「神聖なる光よ、彼の者を癒せ《ホーリーライト》」

 この魔法――ホーリーライトは回復魔法ではあるけど、神聖魔法だし、名前からしても何となくアンデッド系に効果抜群な気がして試してみようと思ったのだけど……。


 スケルトンの上空から降り注いだ眩い光に焼かれるように、スケルトンが全身から白い煙を上げながら顎をカタカタと打ち鳴らしている。

 こちらの事は忘れているのか、こちらを気にする余裕がないのか、何故か襲ってはこない。

 そのまま一〇秒ほど魔法を維持していると、スケルトンはいきなり全身の骨を繋いでいる紐がなくなったかのように崩れ、骨がその場に散らばった。


「……うーん微妙かな」

 一発で倒せたのだから威力は高いと言えるかもしれない。けど、ちょっと時間がかかりすぎだから複数の敵が出ると使えないし、魔力効率的にも良くない。レベル上げにはあまり向いてない気がする。

「よし、次、行ってみようか」

 魔石を拾い上げ、錆びた剣を無視して歩き始める。


 そしてまたダンジョンを徘徊してスケルトンを見付けた。

 次に試す魔法は決めているので呪文を詠唱する。

「神聖なる風よ、彼の者を包め《ホーリーウインド》」

 このホーリーウインドはランクフルトの本屋で見付けた魔法書で覚えた魔法だ。その効果が故に、実際に使う機会はなかったけど、ヒーラーとしては必須な魔法だと思う。

 その効果、それは――状態異常回復。


 魔法を発動させると、僕の右手から緩やかな風が輝きを伴って流れ出し、スケルトンを包む。そしてスケルトンから白い煙が流れ出して、風に乗って消えていく。

 スケルトンは顎をカタカタを震わせながら佇んでいる。

 暫くすると風が消え、僕とスケルトンがその場に残った。

「……」

「……」

 数秒間、スケルトンと見つめ合っていると、彼? はふと何かを思い出したかのように剣を振り上げ、襲いかかってきた。

「何なの! その思わせぶりな間! 何かあると思うでしょ! っていうか、あんまり効いてない!」

 咄嗟に槍で剣を弾き、前蹴りでスケルトンを押し戻す。そしてスケルトンに接近し、槍先や石突で一撃二撃とダメージを与えていき、スケルトンを倒した。

「……よし、この魔法は、ないな」

 対アンデッドではね。


 一息ついて背負袋の水筒から葡萄酒を一口飲み、魔石を拾ってから次のスケルトンを探して歩き始めた。



◆◆◆



「ブブッ!」

 スケルトンを探して歩き続けていると、前方からオークらしき鳴き声が聞こえてきた。

 らしき、などと言わなくても、この階に出るモンスターはオークとスケルトンだけだし、スケルトンが声を発さない以上、まず一〇〇%オークなんだろうけどね。

 ブブッ! と鳴く冒険者がいなければだけど……。


 ドスドスドスとオークが近づいてくる足音が聞こえ、前方の暗闇、光源の魔法の光が届かない闇の中からオークの豚面が浮かび上がってくる。

 その姿は前回見た時と変わらず、たるんだお腹に筋肉質な手足に腰ミノ一つ。

 そして――

「あっ、マジか!」

 その右手には錆びた剣が握られていた。


 昔、剣道三倍段、という言葉を漫画で見た。

 無手の格闘技で剣道に勝つには三倍の段が必要になる、という意味だったと思う。

 その言葉が実際に正しいかどうかは分からないけど、そういう言葉が出来るぐらい武器がある方が有利、という事は間違いない。

 つまり――僕が持っていたオークに対する優位性が一つ消えたのだ。


 オークは剣を振り上げ、こちらに踏み込みながら剣を振りおろした。

「くっ……」

 それをバックステップで避ける。

 オークの剣術はお世辞にも上手いとは言えないけど、その筋肉から繰り出される一撃は強くて重い。拳による一撃はともかく、錆びてはいても、あの剣による一撃だけはもらうわけにはいかない。


 とりあえず牽制に槍を突き入れてみる。

 するとオークも同じように剣を突き出してきた。

「うっ」

 オークに浅く一撃入れるも、こちらもオークの剣がかすりそうになり、慌てて引き抜く。

 僕が使っているのは槍だけど、携帯性などを考えて短めの槍にしてる。この短めの槍では、オークが剣を持つとリーチの差がほとんどなくなってしまう。

 辛うじてまだこちらの方が長いのが救いか。

 しかしそれでも……。


「これはちょっと、やりにくい、ね」

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