第187話 落とし物を探して森の中
途中で拾った枯れ木で草をかき分け、頭上を見上げて木の枝もかき分ける。
そしてまた地面の草を枯れ木でかき分け、頭上を見上げて木の枝をかき分ける。
そして……ってこれちょっと単純作業すぎ!
グラウンドに落ちている針をしらみつぶしに探していくような作業……いや、まだ針が落ちていると分かっているならいいけど、これはそもそも本当に落ちているのかすら分からないからキツさが半端ない。もしかすると僕達は存在しないモノを延々と探している可能性もあり得るのだから。
もし、黄金竜に羽がなく地面を歩くタイプのドラゴンだったなら通った道も分かりやすいし調べるのもその付近だけだから比較的簡単なんだろうけど、飛んでるからルートは分かりにくいし落としたモノも風で遠くに流されてるかもしれない。まぁあんな巨大モンスターが地面を歩いて町まで来たら町なんて壊滅しちゃってるだろうからそれどころではないんだろうけど。
「……飽きた」
少し先にある木をガサゴソと探っていたシームさんがピタリと止まり、手から枯れ木をポトリと落とす。
「もう飽きた!」
「おいシーム! 森の中で大声出すなよ!」
まぁそうなるよなぁ……。
森に入って数時間、全員でひたすらアテもなく周囲の草木をかき分けるだけの作業。僕ですらちょっと面倒になってきてるしね。ルシールはこういう作業が気にならないのか黙々と草木をかき分け続けているけど。
ゲームのレベル上げとかアイテム集めも単純作業になりがちだけど、それでも着実に経験値が溜まっていくのが見えたり、確率は低くてもその作業を続ければいつかは手に入ると分かっているから続けられる。でも、先が見えないってのはちょっとキツい。
「……お昼」
「おっ、そうだな! じゃあちょっと休憩にしよう!」
ルシールのつぶやきを聞いたサイラスさんがリュックを下ろして中から色々と引っ張り出してくる。
袋に入った黒パンに乾燥肉。冒険者としてはポピュラーな昼食だ。
「今日は俺の奢りだ! 皆、食べ――」
「いっただきー!」
「キュー!」
言い終わる前にシームさんが手を伸ばす。
早い! というかもう機嫌が直ってる! というか、どさくさに紛れてシオンも参加してる!
しかし、ここ数日、彼らは二人で黄金竜の落とし物探しをしていたらしいけど、その間どうやってシームさんの集中力を繋いできたのかなんとなく分かってきたぞ。
僕も背負袋から外套を出して適当に敷いて、乾燥肉を数枚とサイラスさんが切り落とした黒パンを一枚貰う。
「ところで黄金竜の鱗ってどれぐらいの大きさなんです?」
「あー……詳しくは知らないが大きいらしいぞ」
詳しくは知らないって、そんな適当な感じで探してたのか……。でも大多数の普通の冒険者では見る機会はないのかな。
「大体ラウンドシールドぐらいの大きさ。先代様が言ってた」
「先代様、ってボロックさんのこと?」
「そう」
そうか。前に黄金竜が巣から飛び立った時はボロックさんが巣に行って爪を持ち帰ったんだっけ。それでその爪からクラン名『黄金竜の爪』の名が付いた的な話だったはず。
黄金竜の巣なら鱗ぐらいいくつも落ちてそうだし、持ち帰ってもいると思う。
……というか、以前、黄金竜が飛び立った時にボロックさんが行ったということは、黄金竜の巣までのルートは存在しているはずだし、黄金竜がいない今はまたチャンスなのでは? 巣に行けばこんな雲を掴むような黄金竜の落とし物探しをしなくても拾い放題だよね? 飛ぶだけで色々落とすなら巣には絶対に色々落ちてるはずだし、何故誰も行こうとしていないのだろうか?
「こんなアテもなく探すより黄金竜の巣に行った方が早いんじゃない?」
「おいおい、無茶言うなよ。黄金竜が巣にいなくても巣の周辺は強力なモンスターだらけという噂だ。俺達だけじゃ厳しすぎる。……そもそも先代は黄金竜の巣までのルートを公開していないしな」
「黄金竜を無駄に刺激するのはよくない。人間が下手に刺激して怒りを買ったら国が滅ぶ」
「なるほど……」
黄金竜はそういうレベルのモンスター、か。
確かに冒険者などが一獲千金狙いで黄金竜を狙いまくった場合、それで黄金竜がどう考えるのかは分からないけど、もし万が一、人間に対しての怒りや苛立ちが高まってしまったら近くの町を積極的に狙うようになるかもしれない。そんなことになったら本当に国が滅ぶ。
う~ん……多分この国とかアルノルンの町は『黄金竜がこれまで町を襲おうとは思わなかった』という絶妙に運が良い状況が続いて成り立っていたのかも……。
黄金竜を討伐出来れば安心だけどそんな戦力は中々持てないだろうし、もし戦力があったとしても失敗したら報復されて国が滅ぶかもしれない。国側としては黄金竜がなにもしないなら触れたくない。しかし命知らずな冒険者が巣に突入してしまうと、それだけでバランスが崩れるかもしれない。
まぁ、黄金竜の巣までのルートは一般公開出来ないよね。
「よしっ! それじゃあ休憩終了! 続きだ続き!」
「うぇぇぇ……」
「キュゥゥ……」
何故か残念そうなシオンを抱き上げて肩に乗せる。
というか、いつの間にシームさんとそこまで仲良くなったんだ? 食いしん坊繋がりか?
……さて、午後の探索はどうしようか。このまま午前を同じように探索しても見付からなそうな気がするし、アレ使っちゃうかな。はっきり言ってあんまり使いたくないし、そもそも人前ではあまり使うべきモノじゃないんだけど。
そう考えながらも無詠唱で呪文を詠唱する。
――その力は全てを掌握する魔導。開け神聖なる
魔法を発動させると同時に自分の視界が広がるような感覚があり、周囲の状況が理解出来るようになった。そして目を閉じ、集中しながら右手を前に出して僕の周囲にあるなにかに指向性を持たせるように収束させていく。すると半円型だったなにかが手のひらから伸びる円柱状に変化し、密度が濃くなった分だけより細かい情報が『見える』ようになってきた。
右手の先にある円柱状のマギロケーションを上下左右に振り草木の中を探っていく。
まるで金属探知機を使っているみたいだ。
「うへぇ……」
「……」
頭上にある木の枝の裏に毛虫を見付けた。
……だからこれはあまり使いたくないんだよなぁ。普段、見えない部分が見えてしまうだけに、見たくないモノも見えてしまう。まぁ便利なんだけど。
本来チェック出来ないはずの木の上まで調べ、そして地面の草の間も調べ。また次の木を調べ……。
「……なにをしているの?」
「えっ?」
少し後ろにいたルシールがおかしなモノでも見るような目でこちらを見ていた。
あぁ、傍から見ていると手のひらをそこら中に向けて歩いている変な人だよな……。うん、カモフラージュするために左手で木の枝を振っとくか……。それはそれでシュールな気もするけど……。
「……いや、なんとなく手をかざしたら分かる気がして……」
「…………そう」
ルシールはそう言って別の木の方へ向かっていった。
適当に言い訳したけど彼女は納得してくれただろうか? ……なんだか、なにかを失った気がしないでもないけど、気のせいだと思っておこう。
気を取り直して次の木へ向かい、円柱マギロケーションで下から調査していると――
「あ、あった!」
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