第90話 闇と黒い魔石

 バッと振り返ると――そこには闇があった。

 半透明でゆらゆらと揺らぎながらかろうじて人型を維持している体。鼻や耳が削ぎ落とされたのっぺりとした顔。そしてその中にある落ち窪んだ二つの眼孔に渦巻く闇。

 目の前にあったその闇を見た瞬間、全身が総毛立ち、無意識に叫びながら槍を振り乱し、後ずさっていた。


「っうぉっぉぉっ!」


 槍は何度もソレを貫通するが何も手応えがない。

 ここまできてやっと、がゴーストで、魔法攻撃しか効かないという話を思い出して魔法を準備しようとしていると、ゴーストが一気にこちらに近づいて僕の首を両手で掴んできた。その力は強くはないけど、手が貫通して払い除けられない。

 こっちからは触れないのにそっちからは触れるのかよ!

 そう考えていると、ゴーストに掴まれている首筋から何かが吸い取られているのが分かった。

「!! うぐっ」

 ヤバい! これは絶対にヤバいやつだ!

 何か、人にとって……生命にとって重要な何かが体から抜き取られている!

 体が危険信号を発している中、咄嗟に頭に浮かんだ呪文を発動した。

「光よ、我が敵を撃て!《ライトボール》!」

 右手に魔力が集まって光の玉となり、ゴーストの目の前に突き出していた右手から射出され、ゴーストにぶち当たる。その瞬間、ライトボールがボンッと軽く爆発し、僕は少し押されて二、三歩よろめいた。


「……ア……ア……」


 すぐに前を確認するとゴーストが空気に溶けるように消えていくのが見えた。そしてその場にポトリと黒い魔石が落ちる。

 再び周囲に静寂が訪れた。

「……」

 終わったのだろうか? いや、魔石を残して消えたという事は終わったはずだ。


「神聖なる光よ、彼の者を癒せ《ホーリーライト》」

 どこにも怪我はないみたいだけど体中に倦怠感のようなものが残っていたのでホーリーライトを使ってみたら倦怠感がなくなった。HPが減ったら回復魔法で回復、という感じのゲーム的な発想で使ってみたけど間違いではなかったようだ。

 ……恐らく、さっきのは生き物の生命力とかHPとか、そういう類のモノを吸い取っていたのだと思う。だから回復魔法で回復したんだろう。


 しかし……。こいつは、いったいどこから現れたんだ?

 周囲をちゃんと警戒していたのに、いきなり背後を取られた。これは少しどころではなく厄介極まりない。唯一救いなのが、攻撃力も守備力もそこまで高くなさそうな事だろうか。まだ一回しか戦ってないけど、生命力吸い取り攻撃は即死性のある攻撃ではなさそうだし、ライトボール一発で倒せた。

 まぁ……あんな心臓に悪い登場は何度も味わいたくはないし、生命力を吸い取られるのも二度と御免だけど。


 ゴーストが消えた場所まで歩き、地面に落ちていた黒い魔石を拾った。

「……黒いな」

 光源の魔法の下にもってきてじっくりと見ても黒い。

 通常、魔石は楕円形でくすんだ赤紫のような色をしている。黒っぽい色ではあるけど黒ではないのだ。しかしこの魔石は形こそ普通の魔石と同じだけど色は夜の闇のように真っ黒。

「これが、前に聞いた魔結晶なのかな?」

 確か前に鍛冶屋で聞いた話で、魔石が何かの属性に偏って結晶化した物を魔結晶と呼ぶと聞いた。それを武具と融合させる事で属性武器を作るとか言っていたはず。だとすると、この色とかゴーストが持っていた事などから考えて、闇属性の魔結晶……闇魔結晶という感じだろうか。

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