第106話 お菓子を食べた次の日は重要な検証作業

 リゼが美味しそうに食べてるのを見てたら僕も食べたくなってきてしまい、クッキーを一つ口の中へと放り込んだ。

「……うん、美味しい」

 クッキーのサクッとした食感と木の実のカリッとした食感と香ばしさがたまらない。しかし砂糖が貴重なのだろうか、日本で食べていたクッキーよりは若干甘さが控え目な気がする。

 まぁこれは仕方がないかもしれないね。


 しかし、よく考えたら果物以外では久しぶりの甘味だ。

 その果物にしても、日本で食べていたようなはっきりとした甘味を感じる果物はなかった。品種改良などが進んでいないのだろう。

 肉に関しては、高ランクモンスターを倒せば美味しい肉が得られると前に聞いたけど、野菜や果物に関してはどうなのだろうか? 甘い果物を実らせるモンスターがいるのかな? だとしたらいつか狩って食べてみたいね。


『んぐあぐ……』

「あぁ、それ食べにくいよね。切るよ」

 リゼがバターケーキを抱えるように持ち上げて食べていたのでゴブリンナイフを出して小さく切ってあげる。

 リゼの身長は二〇センチ程で、一〇センチ程のバターケーキは流石に食べにくそうだった。


『ありがと!』

 リゼが小さくなったバターケーキを美味しそうに食べているのを見ながら僕もバターケーキを食べてみた。

 口の中にバターと小麦の香りが広がり、次に甘さがグッと来る。

「うーん……。美味しいけどケーキって感じではないかな」

 カステラとかスポンジケーキのような食感をイメージしていたけど、思ったよりはフワフワしておらず、もったりして重たい。食感は焼き立ての黒パンっぽいかも。全体的には沖縄のサーターアンダギーっぽいかな。


 ……しかし、リゼは少し食べ過ぎではないだろうか?

 クッキー一枚とバターケーキを少し食べているけど、身長二〇センチほどの彼女の大きさから考えるとクッキーの時点で既に限界を超えているような気がするけど……。

 まぁ甘い物は別腹と言うし、そういう事もあるかもしれない。


『あっ!』

「ん?」

 リゼがいきなり叫び声を上げ慌て始めた。

『時間! どうしよ!』

「あぁ、もうそんな時間か」

 リゼはバターケーキを見つめながら難しい顔で『んー』と唸っている。

「それ、持って帰る?」

『いいの?』

 机の上にある紙袋を一つ掴み、中にクッキー二枚とカルメントウを二粒、それとリゼが食べていたバターケーキの残りを詰め込んで、中の空気を抜きながら手早く紙袋をクルクルと巻いていく。

 ……というか、自分で聞いておいて何だけど、持って帰れるんだね。彼女だけでなく物も一緒に移動出来るなら、妖精の村? から何か持ってきてもらう事も出来るのかもしれない。

 だけど、妖精の村に何があるのかとか、短い時間で彼女から聞いていくのも一苦労な気がする。やりすぎると尋問みたいになりそうで嫌だし、少しずつ機会があれば聞いていければいいかな。


「はい、これ」

『ありがと!』

 棒状になった紙袋を渡すと、彼女は両腕で抱きかかえるようにギュッとしがみついた。

 何だか抱きまくらを抱いているみたいでかわいい。ちょっとほっこりする。


『じゃーねー! ……あっ!』

「ん?」

 いつものように白い光に包まれていくリゼが声を上げた。

 忘れ物でもあったかな?

『明日……だか……を…………て!』

「えっ?」

 リゼは光に包まれながら最後に何かを叫び、パシュンと消えた。

 光に包まれていた彼女の顔はよく見えなかった。


 机の上に手を伸ばし、包み紙の上にあるカルメントウを摘んで口に入れる。

 雑味のある強い甘味が口の中に広がった。

 黒糖の飴か何かだろうか? マズくはないけど、こういうお菓子はあまり好きじゃないな。

 しかし――


「明日……?」



◆◆◆



「不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」

「ア゛ア゛アァ……」


 ゴーストが消えた場所にカランと魔石が転がり、その隣にボロボロの布切れが落ちてきた。

「うーん……どうなのかな」

 魔石を拾い、ボロボロの布切れを拾い上げて一応確認してみる。

 特に丈夫そうでもないし、特別なアイテムでもないと思う。まぁ僕にはそこまで詳しい知識はないので、もしかするとこのボロ布が何かの重要アイテムである可能性はゼロではない。

 と、考えながらボロ布をポイッと捨てて先へと進む。

 いや……ゼロではないだけで、そんな可能性はほぼないしね。


 今日はいつものように朝からダンジョンに潜り、地下二〇階から一九階を目指しつつ、とある検証を進めている。

 この検証作業は僕の中では大きな意味を持っている。出来れば早い内に結果を出したい。が、これに関しては時間をかけてデータを集めていくしかないはずだ。これは一度成功すれば確定するような類の実験ではなく、可能性を確信に変えるには何度も検証を繰り返して複数のサンプルを得る必要がある実験。

「ちゃんと確かめないとね。でも……」

 結果が出た後の事について考えてしまう。

 検証の結果、問題がなさそうならそれでいいけど、問題があった場合……どうなのだろうか?

 何かの影響があるかもしれないし、何もないかもしれない。


「さて、どうなるかな――不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」

「ア゛アァ……」

 右の壁の中にいたゴーストをマギロケーションで感知し、出てきた瞬間、浄化で消滅させる。そしてゴーストが落とした魔石を拾い上げた。

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