第300話 300話、感謝のローリングソバット

いつもありがとうございます。

ついに300話の『通過点』に到達しました!

これからも書き続けていきますので、応援よろしくお願いいたします。


それとアナライズの結果については次章で使うネタにするってことで、ご理解よろしくお願いします。


――――――


「ふぁ……」


 ギルド内の会議室のイスに深くもたれながら座っているとあくびが出た。


「先生、今日はお疲れなのですか?」

「あぁ、昨日はちょっと忙しくてね……」


 エレナに少し心配されてしまう。


「授業の間ぐらいシャキッとしてもらわなければ困るんだがなぁ、先生?」

「おっしゃる通りで……」


 読んでいた本を机に置き、眠気覚ましに外の景色を見ながらお茶を飲む。

 昨日は徹夜で色々と調べていてあまり寝れてない。おかげで色々なことが分かったが、そのせいでこうやって怒られているわけで……。

 まず解体用のナイフを強化スクロールで強化したところ『1(2)』だったモノが『2(2)』になり、もう一度、強化したら『3(2)』にならずに消滅した。なのでカッコ内の数値は『強化限界値』なのでは、という予想を立てた。でも、試行回数が少ないのでまだ断定は出来ない。

 もう一度、他の武具を買ってきて消滅するまで強化してみて確かめたかったが、そろそろ資金が底をつきそうだったので諦め、多少のリスク覚悟で槍を強化し『6(6)』にした。

 それから他のアイテムもアナライズしてみたのだが――


「先生! どうですか!」


 エレナがそう言いながらヒールの光を見せてきた。

 彼女の使う回復魔法はもう普通のヒールと変わらないレベルの光を放っていた。

 最初は全く駄目だったのに凄く成長したものだ。子供の成長とは本当に早いモノで、暫く見ぬ間にまったく別人に成長していて驚くみたいな――って、年寄りみたいなことを考えてしまうな……。


「凄いね。もう十分、一人前のヒーラーだね」


 もうそろそろ彼女との修行も終わりなんだろう。

 そう思わせるぐらい、彼女は成長していた。


「そんな……私なんてまだまだで……」


 なんとなく彼女もその時を感じたのだろうか、少し口ごもる。

 そんな空気を変えようとしたのか、エレナは言葉を続けた。


「そうだ、先生! 明日も炊き出しがあるのですが、先生も来られますか?」

「明日? 明日は――」


 そういえば、ここに来る前に調査依頼を受けたんだっけな。


「ごめん、明日は他の依頼があって出られないと思う。また今度、参加するよ」

「そうですか……」


 エレナは少し残念そうな顔をした。

 その顔を見て調査依頼を一日延期しようかと思ったけど、やっぱり依頼を優先することにした。冒険者は信用が大事だし!


「じゃあ、次回は来てくださいね! 絶対ですよ!」

「勿論! また今度ね」


◆◆◆


 翌日。宿の部屋を出て一階に下りる。


「おう! 今日も朝から依頼か?」

「はい。ちょっと出てきます」

「気を付けろよ。最近あまり町の雰囲気が良くないからな」

「分かりました」


 ブライドンさんに見送られ宿を後にする。

 町は地面の雪が少し溶けてきて春の暖かさが少し顔を出してきた。

 そんな春の陽気とは裏腹に町の空気はどんよりしたままだ。開いてる店が減り、道行く人もどことなく覇気がないように見える。やっぱり、色々あってこの町は悪い方に向かっている気がする。


「そろそろ次にどうするか考えないとな」


 雪が溶けたらもうこの町に留まる理由がなくなる。

 エレナも一人前になった。町の状況も悪い。次の行き先は考えておいたほうがいいだろう。

 町を出て廃坑に向かい歩く。

 遠くでエレナが炊き出しをしているのが見えた。

 彼女は今日も頑張っているようだ。


「僕も頑張るか」


 気持ちを新たに歩を進める。

 エレナは自分のしたいことを見付けたのかもしれない。

 誰かのために頑張ること。それが彼女の見付け出した一つの答え。

 最初はオドオドしていて自分からなにかをするという姿を見せなかった彼女だけど、今は自分の意志で積極的に動いている。今日だって彼女は僕の知らないところで炊き出しの話を進めていて、気が付けばああやって形になっていた。最初は司祭様が始め、僕が教えて紹介したモノだったのに今じゃ彼女が中心になっている。


「エレナには人を惹き込むなにかがあるのかもな」


 彼女はいつか大きなことを成すのかもしれない。

 そんな彼女が変わるキッカケになれたことが嬉しくもあり、少し誇らしかった。


「さて! ここまで離れたら大丈夫かな」

「キュ?」

「今から新しい仲間を召喚するよ!」


 町からはもう十分離れた。マギロケーションで周囲を確認しても人気はない。

 そろそろ残っていたもう一つの魔法の実験をしてもいいだろう。

 それに今日の調査場所はかなり遠いところにある。ユニコーンという名前からして馬だろうし、乗せていってもらえるならお願いしたいところだ。


「キュキュ?」

「大丈夫さ。リゼみたいに友達になれたらいいね!」


 魔法袋から聖石を取り出し呪文を詠唱する。


「よしっ! いくぞ! わが呼び声に応え、共に駆けろ《サモンユニコーン》」


 リゼの時と同じだと考えて聖石を握ってたのは正解だったようだ。

 手の上の聖石がホロホロと崩れ、やがて立体魔法陣になっていく。やっぱりこれもリゼの時と同じだ!

 一つ違うのは魔法陣の大きさ。リゼの時とは比べ物にならない。これを宿の部屋で展開してたらエライことになっていたはず。きっとブライドンさんにぶっ飛ばされていたことだろう。


「来いっ! ユニコーン!」

「キュ!」


 魔法陣がパリンと崩壊し、光が四足歩行の生き物を形作っていく。

 そうして地面に降り立ったソレは「ブルルッ!」といなないた。


「おおっ! かっこいい!」

「キュ!」


 白い体で額に一本の角を生やした馬、ユニコーン。

 ユニコーンは静かにその場に佇み、こちらを見つめている。

 その瞳からはどういった感情があるのか読み取ることは出来なかった。


「や、やあ」

「キュ!」


 ユニコーンが静かすぎて心配になって話しかけるも、ユニコーンは特に変わらず静かに佇んだままだ。


「……」

「……」


 静寂が続く。

 その静寂に耐えられなくなって、ゆっくりとユニコーンに歩み寄り手を伸ばした。

 次の瞬間――


「ブルッ!」

「おぉっ!?」


 ユニコーンが勢いよくガッと噛みついてきて、慌てて手を引っ込めた。


「ブルルッ!」

「へ?」


 どういうことなの!?

 頭の中がハテナに包まれる中、ユニコーンはクルリと回転し、後ろ足でキレイなローリングソバットを放ってきた。


「ちょっ――」


 慌てて回避し後ろに下がる。

 そして体制を立て直しユニコーンの方を見た時――ユニコーンはスタコラサッサと遠くに走り去っていた。


「は?」


 理解が追い付かず、頭の中がハテナに染まる。

 どうなってるの? 僕が見付け、僕が覚えて、僕が召喚し、僕の召喚獣になったはずなのに……どうして……。

 僕が想像してたのは、お馬さんが出てきて、仲良くキャッキャウフフと戯れて、それからそれに跨って颯爽と明日に向かってランナウェイする絵だったのに……。

 ユニコーンの姿はもう見えない。目視の範囲外に消え去ってしまった。


「は?」


 もう一度、同じ呟きが漏れた。


「キュ……」


 シオンの同情的な声と淋しい風音だけが周囲に響いていた。

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