第299話 アナライズ

 宿屋に入ってブライドンさんに挨拶する。


「おはようございます」

「おう。朝帰りか?」

「いやぁ、その……ちょっと昨日は飲みすぎたりして色々ありまして……」

「なるほどなるほど……。分かるぜ、分かる。お前も一人前の男だってことだな」

「はい?」


 なんだか訳知り顔でウンウン頷いてるブライドンさんを放っておいて、階段を上がって自室に入る。


「さて、と」


 毛皮のマントを脱いでベッドに投げ、アナライズの魔法書を取り出した。


「まさかこんなタイミングで新しい神聖魔法の魔法書をゲット出来るなんてね」


 人生どこでなにが起こるか分からないね。これこそ『情けは人の為ならず』ってヤツか。

 あの時、ジョンを助けに行ってなければこの魔法書は一生手に入らなかったかもしれない。

 人生ってこういう巡り合わせの連続なのかもね。

 シオンが毛皮のマントの中に潜り込むのを横目に見つつ魔法書を開く。そして読む。

 魔法書の中身が体の中に入ってきて、いつものように魔法書が燃え落ちる。


「これは!」


 頭の中に残る魔法のイメージに興奮を抑えきれなくなってくる。

 急いで魔法を発動させようとする。


「その力は全てを読み解く魔導。解き明かせ《アナライズ》」


 と、かっこよく言ってはみたものの、発動しない。


「……あれっ? 確かに覚えたんだけど……。そうか!」


 恐らくこれは鑑定系の魔法。鑑定するアイテムを指定しなきゃ発動しないのかも?

 壁に立てかけていたミスリルの槍を手に持ち、もう一度発動してみる。


「その力は全てを読み解く魔導。解き明かせ《アナライズ》」


 しかしやっぱり発動しない。


「これも違うのか? となると……アレだな!」


 魔法袋から聖石を取り出し、それでまた呪文を詠唱してみる。

 今までのパターン的にこれで間違いないはず。


「その力は全てを読み解く魔導。解き明かせ《アナライズ》」


 すると手の中の聖石が溶けていき、それが虹色のオーラとなってミスリルの槍を包む。

 そうして暫くすると、目の前に文字が浮かんだ。頭の中ではなく、目の前だ。


『ミスリルの槍 2(6)』


「って、分かるの名前だけかい!}


 思わずミスリルの槍を床に投げ捨ててしまう。

 なんかこう……もっとさ、色々な情報が分かるものなんじゃないの? 攻撃力がどうとか、特殊効果がどうとかさ~。鑑定魔法でしょ!? えっ? 違うの? もしかして名前を知る魔法とか?


「……って、待てよ」


 よく見ると『ミスリルの槍』の後ろに『2(6)』という表記がある。


「この数字は……なんだ?」


 2とカッコ付きの6……。まさかこれまでの持ち主の数とか倒したモンスターの数とかなわけないし。

 普通に考えると攻撃力とか? それとも品質とか?


「あっ! もしかして強化数! ……はないか。これは一回も強化してないし」


 そもそも、そうだとしてもカッコ付きの数字の方が分からない。


「……とりあえず、他のモノにも使ってみよう」


 そうしてアナライズを他の所持アイテムにかけてみる。


『ミスリル合金カジェル 2(5)』

『ダークネスロッド 4(9)』

『ミスリルの槍 2(6)』

『常闇のローブ 7(9)』


「んん?」


 いくつかアナライズで見ていって、おかしなことに気が付いた。


「これ、名前が違う……」


 ダークネスロッドとはアルッポのダンジョンで出てきたリッチっぽい骸骨モンスターが持っていた錫杖。常闇のローブはそれと同じモンスターが着ていたローブで、今僕が着ているモノ。しかし僕はこの二つのアイテムのことを名前が分からないので適当に名付けた名で呼んでいた。しかしアナライズでは違う名で表示される。

 そしてミスリル合金カジェルとミスリルの槍に関しては僕が呼んでいた名前と同じモノが表示されている。


「どんな違いがあるんだ?」


 ……もしかして、制作者がつけた名前が表示されているのか?

 ミスリル合金カジェルとミスリルの槍は誰が最初にそう呼んだんだ?


「鍛冶屋の親方だっけ?」


 イマイチ記憶がはっきりしない。


「それより問題は数字か……」


 どのアイテムも最初の数字よりカッコ内の数字の方が大きい。

 つまり――


「この二つの数字は関連している可能性が高い」


 アナライズで出てきた情報を紙に書き写しながら考える。

 しかし分からない。


「やっぱり武具強化ぐらいしか考えつかないけど……」


 そうは言っても強化してないアイテムに数字が付いているのだから、これが強化値だったら色々とおかしくなる。勿論、鍛冶屋の親方が強化した可能性もあるけどさ。


「そうだ!」


 時止めの箱を開け、中から状態の良いクレ草を一つ取り出した。


「その力は全てを読み解く魔導。解き明かせ《アナライズ》」


『クレ草 1』


 目の前に浮かぶ文字。


「おぉっ!」


 クレ草に数字が付いてる!

 つまり、強化をしなくても数字が付いてるアイテムはあるってこと。


「じゃあどうなるんだ?」


 となると、この数字は強化値ではなく品質値的なモノなんだろうか?


「それじゃあカッコ内の数字は?」


 分からない。けど、この数値に変化を与えられるかもしれないモノがある!


「シオン! 出かけるよ!」

「キュ?」


 毛皮のマントの中で寝落ちしていたシオンを起こし、冒険者ギルドに向かう。


「あっ! サモンユニコーンの検証は……まぁ後でいいか」


 この宿屋の中にユニコーンを呼び出したらとんでもないことになるし、裏庭で呼び出しても大変なことになるし、町中ではどこでも試すのが難しいはず。サモンユニコーンについては次回、町の外に出た時にでも試すとしようか。

 そうして宿を出て冒険者ギルドで強化スクロールを一〇枚購入。すぐに宿に戻って部屋に入る。

 毛皮のマントを脱いでシオンを出して――なんだかシオンが不満そうな顔をしている。

 寝ているところを起こして連れ回したのに、すぐに宿に戻ってきたのが良くなかったのかも……。

 こういう場合はシオンをホーリーディメンション内に入れておくのもいいかもね。


「シオン、オランでも食べようか?」

「キュ!」


 うん。機嫌が直って良かった。

 ホーリーディメンションを開いてオランを取り出しシオンに与える。

 もうほとんどオランは残っていない。

 ホーリーディメンション内のオランの木を眺めると、花びらが完全に散って小さな実が出来ていた。

 もう暫くしたらこっちのオランが食べられるかもしれない。


「さて! 始めようか!」


 魔法袋から強化スクロールを取り出し、錫杖……もといダークネスロッドをホーリーディメンション内の奥から取り出す。

 さっきダークネスロッドをアナライズした時に見た数値は『4(9)』だった。もし、この数値が強化値や品質値のような数値だったなら変化がある可能性がある。

 強化スクロールをダークネスロッドに巻き付ける。


「武具強化!」


 強化スクロールがモロモロと崩れていき、ダークネスロッドに吸収される。


「よしっ! 成功だ! 次は……。その力は全てを読み解く魔導。解き明かせ《アナライズ》」


 ダークネスロッドを持ってアナライズを使う。


『ダークネスロッド 5(9)』


「よしっ! 変化した!」


 これはつまり……この最初の数字は品質値と強化値の合計、ということになるのか? いや、まだまだ他にも可能性はあるかもしれないから結論は出せない。

 それじゃあカッコ内の数字の方はどうなんだ? こっちは強化したのに変化しなかった。


「待てよ。もしかすると……」

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