第298話 偉い人がなんとかしてくれる
そうして隠れ家の中でジョンが目覚めるまで待つことになった。
部屋の中は簡素というかボロボロで、地面は剥き出し。部屋の中央には囲炉裏というか石を集めて簡易的に作られた焚火台のようなモノがあって、そこでは石炭の欠片が燃えていた。
鉄串に刺さったホーンラビットの肉から肉汁がたれ、火の上に落ちる。
パチパチと油が弾ける音がして、良い匂いが漂ってくる。
「それにしてもこの家、一体どうしたんだ?」
「前に見付けたんです。誰も使ってないんで俺達の隠れ家にしようってなって」
「いやいや、ここ使って本当に大丈夫なの?」
「大丈夫っすよ。何年か前からいきなり消えちまうスラムの住人が増えてて、ここもそんな人の家っすから」
「……いやいや、いきなり消えるって、それはそれで大丈夫なの?」
「スラムには色々あるんですよ」
「……」
油がパチッと弾けて落ちる。
「そろそろ食べ頃っすよ!」
全員がホーンラビットの肉に手を伸ばし、さぁ食べようというタイミングで後ろのジョンがムクリと起き上がる。
「んぁっ……飯か?」
「飯か? じゃねぇよ! 心配させやがって!」
「そうよ、心配したんだからね!」
「だから一人で行くなって言ったじゃない!}
三人に詰め寄られて揺さぶられるジョンはまだ状況がよく分かっていないみたいだ。
「まぁまぁ、それぐらいにして。ジョンもまだ寝ぼけてるみたいだし、とりあえず落ち着いて、まずは食べながら話そう」
そうして、皆がジョンを探してたというこれまでの状況なんかを説明しつつ、ホーンラビットの串焼きを食べた。
「で、あの洞窟でいったいなにがあった? 最初から全部話してほしい」
僕がそう聞くと、ジョンは口の中に頬張っていた肉を飲み込み喋り始めた。
「俺はただクラクラ茸を集めてただけっすよ。でもいつもの場所には生えてなくて、奥まで探してたら壁が崩れてて見たことない遺跡があって――って、そうだ! 遺跡っすよ! 遺跡を見付けたっす! まさかいつもの廃坑に遺跡が眠ってるなんて! くぅぅぅぅ! やっぱ冒険者は最高だぜ!」
「えっ! 遺跡!?」
「マジかよ!」
「今度、探検しましょ!」
なんだか四人がワイワイ盛り上がってきてしまったので水を差しておく。
「分かった。とりあえず今はその話はいいから。それでどうしたんだ?」
「えっ? いや遺跡だし、調べてたんすよ。でも床が光ってたところには壁があるみたいにどうしても入れなくて、色々やってみたんすけど駄目で、そしたらいきなり仮面の男が来たんすよ」
やっぱりあの魔法陣は結界的ななにかだったっぽいぞ。
念の為に偽装工作しておいたかいがあった。
「それで?」
「いつものクラクラ茸仲間だと思って挨拶したんすよ、うぃ~っすって」
「……で?」
「そしたらあいつ、いきなりぶん殴ってきやがって! そこまでしか覚えてないっす。いやぁ、挨拶したのにいきなりぶん殴るなんてクラクラ茸愛好者の風上にも置けないっすよ!」
「うんうん、本当にな。……なんて言うとでも思ったか!?」
「そんなやつ、どう考えても怪しいじゃない!」
「どうしてすぐに逃げないのよ!」
また三人に詰め寄られて揺さぶられているジョンを横目に見ながら考える。
ジョンがあの祭壇を見ていて、それを仮面の男に見られた以上、もう『なにも見てない』ということにする『知らぬ存ぜぬ作戦』は通用しない。
まいったな……。今後、どう動くべきか……。ここで対応を間違えたらジョンだけでなく僕も厄介な状況に巻き込まれるぞ。
「とりあえず、今日あったことは誰にも言わないように。ジョンも暫くはここを出ずに隠れていてほしい」
「えっ! 出ちゃ駄目なんすか?」
「もしかすると町の門を見張られてるかもしれないからね」
「……分かったっす」
「明日、司祭様に会って相談してみて、その後で冒険者ギルドにも相談してみるから。とりあえずそこまでは我慢してくれ」
そうしてその日は隠れ家の中で毛皮のマントに包まって寝て、次の日の朝。ノエに同行を頼んでスラムを出て町に向かう。
「……」
「?」
門の前でさりげなく周囲を伺うが怪しい人影はない。
僕が慎重になりすぎてるだけなんだろうか?
そのまま門を抜けて教会に向かう。
現時点では尾行されている気配もないし、大丈夫っぽい。
何事もなく教会に入り、中にいた司祭様に事の成り行きを話した。
「ということなんです」
「ふむ……」
司祭様は顎に手をやり難しい顔をした。
「つまり、廃坑の中で遺跡を見付けたら仮面の男に襲われたと」
「そうです」
「そう言ってました」
「なるほど……それで、その遺跡とはどんな場所でしたかな?」
そう聞かれて考える。
どこまでどう話せばいいものか。
下手をすると僕や闇のローブの能力について明かさないといけなくなる可能性もあるけど……ここは言える範囲で正直に言った方がいいかな。
「文様が描かれた白い円柱の石柱があって、その隣に祭壇のようなモノがありました。それに地面には魔法陣のようなモノが光ってましたね」
「祭壇? 祭壇……。もしかして、その祭壇にはユニコーンの絵が刻まれておりませんでしたかな?」
「えっ……」
一瞬、頷きそうになって止まる。
あのユニコーンのマークは魔法書が入った袋の下にあった。僕が見ていたら色々とおかしい。
「どうでしょう? 時間がなかったので詳しくは見てないのですが、あったかもしれないですね」
はぐらかし、そう答えておく。
引っ掛け問題かな? 危ない危ない……。ここで頷いてたら『あなたには祭壇に彫られたユニコーンを見ることは出来なかったはずなんですよ!』と名探偵に論破されて魔法書失踪事件の犯人だとバレてたわ。
「なるほど……」
司祭様はそう言って暫く考え込んだ後、こちらを見た。
「分かりました。……この話、私に預からせてもらえませんかな?」
「預かる……とは、司祭様が解決なさると? その、大丈夫なんですか? 相手は得体の知れない者達ですよ?」
「えぇ、私にも多少は伝手がありますからな。それにジョンが巻き込まれております。老体に鞭打ってでもなんとかしてやりますとも」
そう言って司祭様はにこやかに笑った。
「……そらならお任せしますが、ジョンはどうします? 町に戻しても大丈夫ですか?」
「それはすぐになんとかしないといけませんな。ノエ、今から書く手紙を冒険者ギルドのギルドマスターに届けておくれ」
「分かりました!」
司祭様は紙と羽ペンを用意し、なにやら書きこんでいく。
しかし、司祭様がユニコーンのマークを知っていたのはどういうことなんだろうか。
「司祭様はあの祭壇に心当たりがおありなのですか?」
「……心当たりのあるモノ、なのかもしれません。しかしまだ確証がないのです」
司祭様はそれ以上は話そうとしなかった。
言えないってことか……。気になることは気になるけど、僕はもうあの遺跡でやりたいことは全て終わらせたし、どうしても知らなきゃいけない話ってわけでもない。
司祭様は書き終えた手紙を封筒に入れ、蝋でシーリングしてノエに渡した。
「それでは頼みましたよ」
「行ってきます! ルークさん、ありがとうございました!」
ノエは手紙を受け取り走って出ていった。
ノエを見送り一段落つく。
なんだか不完全燃焼感はあるけど、とりあえずこれで僕が出来ることは終わったのだろうか?
さっきの手紙はギルマスに送ったみたいだし、偉い人がなんとかするのかもしれない。
「それじゃあ僕は帰ります」
「ルークさん。この度はウチの子らを救っていただき、本当にありがとうございました」
司祭様のその言葉に軽く手を上げて応え、僕も教会を出た。
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