第297話 アナライズの魔法書

『アナライズの魔法書 神聖魔法の魔法書』


 アナライズの魔法書だと?

 頭の中に浮かぶ文字を何度も噛み締め考える。

 どうしてここに神聖魔法の魔法書があるんだ?


「……いや、それ以前に」


 どうしてここに『コレ』が残されているんだろう……。

 この場所があの仮面の男らになんらかの価値がある場所なら、そこにあったアイテムなんかはすぐに回収するんじゃないか?

 こんな祭壇に大事そうに安置されているモノなら尚更だ。

 僕なら見付けた宝箱はキッチリ全部開けて回収していくね。

 それなのにこの魔法書は祭壇の上に残されたままだった。


「……回収しなかったのではなく、回収出来なかった、とか?」


 祭壇から降りて魔法陣の外側の空間に手を出してみる。


「……」


 やっぱり通り抜ける瞬間にヌルッとした感覚があり、そこに透明な膜のようなモノがあるように感じた。


「……結界、とか?」


 だとすると、どうして僕は通り抜けられるんだ? 神聖魔法を使えるからか? 神聖魔法に関連する場所ではあるから、その可能性は否定出来ないけど……分からないし今はゆっくり考察している時間はない。

 とりあえず、このアナライズの魔法書はどんな状況であれ絶対に欲しいからいただくとして――


「……いや、待てよ」


 これを僕が持って帰ると後々厄介なことになるかもしれないのか……。

 仮にこの魔法陣の中にあの男らが入れなかったのだとしても、祭壇の上にある袋の存在には気付いているはずだ。

 それがなくなっていたら、あの男らがどう動いて、どういった問題を引き起こすのか想像もつかない。


「そうだ!」


 魔法袋の中からゴソゴソッと光源の魔法書を取り出す。

 以前、死の洞窟の中で手に入れた魔法書の中の一つだ。

 祭壇の上に置かれた袋の中からアナライズの魔法書を取り出して魔法袋に移し、光源の魔法書を袋に入れておく。

 袋の中になにが入ってたかなんて分からないはず。あの仮面の男らが袋の中を見てないならこれで騙せるはずだ。


「これでよしっと……んっ?」


 光源の魔法書を袋の中に入れようとして、袋の中に紙が一枚入っていることに気付く。

 それを取り出して読んでみる。


「この魔法書を後の世のために残す、か」


 ただそれだけ、そこには書かれてあった。

 これを書いたのが誰だか分からないし、これを僕がどうこうしても大丈夫なのかも分からないけど、コレを他の誰かに渡すなんてことは出来ない。僕にとっても重要そうなアイテムだしね。

 心の中で誰かに手を合わせる。


「この魔法書は僕が貰っていきます」


 そう言いつつ光源の魔法書が入った袋を戻そうとすると、袋が置かれてあった場所の下、祭壇の台座にユニコーンの姿が彫られているのを見付けた。


「ここはユニコーンの祭壇ってことなのかな?」


 それとも聖馬の祭壇だろうか?

 最初に置かれていた姿を思い出しながら袋を戻し、祭壇を降りる。

 そして部屋の隅で気絶しているジョンを抱き起こした。


「ジョンをどうするか、だけど……」


 抱き抱えたら闇のローブの効果で隠れるだろうか?

 手に持ってる武器ぐらいなら一緒に隠せることはダンジョンのボス戦で体験済みだけど、人がいけるのかは分からない。もしかしたらいける可能性もあるけど、今ここでそれに賭けるのが正しいのかどうか……。


「仕方がないか……それは新たなる世界。開け次元のホーリーディメンション


 ホーリーディメンションを開き、ジョンをその中に寝かせた。

 後はジョンが起きないことを祈るのみだ。


「よしっ! とりあえず戻ろう」


 そうして急いで廃坑を逆走して戻り、入口の見張りも問題なく抜け、廃坑の外に出た。

 途中、あの男らには出会わなかったので、奴らは町に戻った可能性が高い。

 もしくはこの周辺の他の廃坑に根城がある可能性も考えられるけど、それは僕が仕事でチェックしていることだからないはず。

 真っ暗闇の中、マギロケーションで周囲を確認しながら町の方に向かって進み、そこそこ離れてから岩陰でホーリーディメンションを発動する。


「それは新たなる世界。開け次元のホーリーディメンション


 扉が開いて周囲に光が溢れる。


「やっぱ夜中に外で発動するとちょっと目立つな……」


 ホーリーディメンション内に入ってジョンを抱き上げる。

 幸いにもジョンはまだ気絶したままだった。

 ホーリーディメンションを消し、ジョンを担いでまた道を進む。


「生物を中に入れたまま運べる……か。これ、中にモンスターを入れておいて町中で――おっと、誰か来たようだ」


 マギロケーションに反応を感じ慌てて岩陰に隠れると、遠くからユラユラと揺れる光が目視でも確認出来た。


「闇よ」


 念の為に闇のローブの効果も発動しておく。

 肩に担ぎ上げているジョンまで認識阻害されるのかは分からないけど。やっておいて損はない。

 そうして奴らは僕らが隠れている岩陰を通り過ぎた。

 人数は四人。一人だけ増えている。暗闇の中、奴らの足だけが照らされて見えている。

 奴ら、町に戻って誰かを連れて来たのか?

 岩陰から覗き見た感じ、光源の魔法ではなくランタンを使っているようだ。

 よく考えると光源の魔法は全方向に強い光を放つが、それだと目立ちすぎてしまう。しかしランタンは光も弱く、傘でも付いていたのか足元しか照らしていなかった。こういった隠密行動には適しているのかもしれないな。

 少し関心しながら町への道を急ぐ。

 奴らが廃坑に戻るならジョンが消えたことにもすぐに気付くだろう。


「その後が問題だな……」


 彼らがただの悪人なら問題はそこまでないけど、貴族とかそれなりに権力を持つモノなら色々と面倒になる。

 とりあえず、今は急いで町に戻る方が先決だ。

 そうして歩き続けて町に戻ってきた。が、当然ながら町の門は閉められていて入れない。

 先に戻した三人がスラムに良い場所があると言っていたのを思い出し、スラム側に向かうと、スラムの入口付近に人影の反応があった。

 その人影に近付いていくと、どうやらサムのようだった。

 サムは入口の前に立ち、片手でランタンを持ちながら廃坑の方を睨んでいる。

 そのサムに近付いていくが、サムがこちらに反応しない。

 あっ、闇のローブの効果を出しっぱなしだった。

 闇のローブの効果を切ってみる。


「おわわっ!」


 サムが驚いたような顔をして後ろにこけそうになった。


「静かに」

「……」

「例の場所に案内頼む」


 僕の肩の上で気絶してるジョンを親指で差しながらそう言うと、サムは頷いてスラムの中に入っていった。

 僕もそれに続いてスラムに入る。

 辺りにはゴミが散乱していたり、日本で建てたら違法建築で一発アウト……というか小さな地震一発で倒壊しそうな家ばかりだ。

 それでも岩は周囲にいくらでもあるせいか、壁なんかは岩で作られている家が多い。

 こんな家で冬場が凌げるのか心配になるけど、この世界では女神の祝福というレベルアップシステムがあるおかげか、一般庶民の耐久力もそこそこ高いように感じる。耐性があるのか地球だと凍死しそうな環境でもそこそこ耐えられてる感がある。


「ここです」


 サムに案内されてきた家に入ると、中にはノエとブーセが待っていた。


「ルークさん!」

「ジョンは!?」

「大丈夫、気絶してるだけだから」


 二人に「どこか寝かせられる場所はない?」と聞くと、壁側に敷かれていた毛皮の上に案内されたので、そこにジョンを下ろした。


「すぐに目を覚ますと思うけど、暫くは身を隠していた方がいいかも」

「それは、どういうことですか?」

「廃坑の中でなにがあったんです?」


 そう聞かれて返答に困る。

 どこまで話していいものか……。


「……とりあえず、ジョンに話を聞いてからにしよう」

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