第296話 聖馬

pixiv

https://www.pixiv.net/artworks/111492851

296話の自前挿絵です。


これまで描いた挿絵と書籍版のイラストやコミカライズ版で先生方に絵を書いてもらう時に提出した資料絵。それに自前の地図類なんかもこっちに全部置いてます。

(地図は書籍版に入ってる地図の元のやつ)

画像関係はカクヨムに上げられないのでTwitterかpixivに上げてますが、Twitter(というかXと言った方がいいんですかね?)だと流れてしまうのでpixivの方が見やすいと思います。



―――――――――




 三人にはホーンラビットの入ったズタ袋を渡し、解体して食べておくように言って帰した。

 そうして岩場の影で夜を待つ。

 途中、冒険者らしい一団が近くを通ったのをマギロケーションで探知したが、結局誰とも会わないまま時が過ぎ、辺りは夜の帳に包まれた。


「……闇よ」


 頃合いを見計らって闇のローブの効果を発動する。

 闇夜より濃い闇が闇のローブから溢れ出し全身を覆っていく。

 そしてゆっくりと岩陰から出て廃坑に向かって進む。

 辺りには唸る風の音と遠くから聞こえてくるモンスターらしき生物の鳴き声だけ。


「……」


 闇のローブの効果があるとはいえ、やっぱり怪しい人物に自ら近づいていくのは緊張するな。

 周囲の状況をマギロケーションで確認しながら進む。

 廃坑前を見張っている男は夜になったのにも関わらず明かりなどを使わず、その場に立ったままだった。

 その時点でかなり怪しいよね。普通は光源の魔法なりを使って光を確保するはずだし、やましいことがあるからこそ、それが出来ないのだろう。

 足跡を残さないよう新雪の上を避け、石の上や踏み固められた場所を選んで歩いて廃坑に近付きながら小さな石を拾う。そして廃坑が目の前まで来た時、その石を勢いよく投げた。


「!」


 仮面の人物がピクリと反応し、廃坑の外を向く。

 やっぱり小さな物音も聞き漏らさないか……。こいつがどこの所属でどんな任務を与えられているのかまったく分からないけど、それなりに訓練を積んでいるように感じる。

 仮面の人物はゆっくりと廃坑から出てきて小石が落ちた方に慎重に進んでいった。

 それを見送り、入れ替わるように廃坑の中に侵入。


「……」


 上手くやり過ごせた……。

 心の中でホッと胸を撫で下ろし中に進む。

 頭の中で廃坑の地図を思い浮かべ、最短で探索出来るルートを考えていく。

 ある程度はマギロケーションで探索出来ることを考えると全ての道を調べる必要はないはずだ。

 出来るだけ静かに歩きながら真っ暗な廃坑の中を東へ西へと進む。

 途中、以前にジョンらと出会った場所も通ったけど、そこのクラクラ茸は全て消えていた。

 ジョンが取り尽くしたのだろうか? いや、この冬は食料危機が起こっていたんだし、スラムの人々が多く来たんだろう。

 となると、ジョンはもっと奥まで進んだ可能性があるな。

 下へと傾斜していく道を進みつつ複数の枝分かれした道をマギロケーションで確認。どんどん先に進んでいく、と――


「……」


 奥の方からかすかに人の話し声が聞こえてきて立ち止まる。

 立ち止まるとより鮮明に声が聞こえてくる。


「誰か、いる……」


 この先になにかがある。

 しかし、この廃坑の地図にはそんなおかしな場所は記載されていなかったし、前回来た時も変わった様子はなかったはず。


「この先になにがあるんだ?」


 そう考えていると通路の先に光が見え始め、マギロケーションに人の影が映り込む。

 何者かが奥からこちらに歩いて来ている。

 慌てて側道に入って岩の陰に身を隠す。

 そこから少し顔を出して通路を伺っていると、足音や話し声がだんだん近づいてきた。


「――計画を――」

「――封鎖しろ」


 なにかを話しているけど全ては聞き取れない。

 どんどん足音が近づいてきて、声もはっきり聞こえるようになってくる。

 声からして男。人数は二人……いや三人か。

 声がどんどん近づいてくる。

 そうして彼らが僕がいる側道から見える場所を奴らが横切っていく。

 その瞬間、その姿を一瞬だけ覗き見た。


「あの子供はどうなさいますか?」

「まずは情報を吐かせろ」

「分かりました」


 男達は黒いローブに仮面の姿。廃坑の入口にいたヤツと同じだ。

 やっぱりどう考えても厄介な状況に置かれているのは間違いない。これはもう僕も色々と覚悟を決めないといけないかもしれないぞ……。

 男達が通り過ぎてから通路に戻り、男達が来た方向に急いで向かう。

 とりあえずこの先でなにが行われているのかと、ジョンの行方だけは調べておく必要がある。

 通路を進んで階段を降り、また通路を進んでいく。すると――


「これは……」


 マギロケーションに明らかに地図には書いてない空間が映し出されている。

 勿論、僕が前に来た時も存在しなかった空間だ。


「新しく掘ったのか?」


 いや、そんなことをする意味が分からない。

 慎重にその空間がある方に近づいていくと、そこには二〇畳や三〇畳はありそうな大きな空間があることが感じられた。

 そしてその空間の中には様々な『モノ』があることも感じられた。


「……」


 ゆっくりと先に進む。

 暫く歩くと、通路の先から淡く青白い光が漏れているのが見えた。


「……なんだ、これは」


 光に吸い寄せられる夏の虫のようにその光を目指して進む。

 そしてその場所にたどり着く。


「……通路の壁が崩れたのか?」


 地図上ではただの通路の壁だった場所が崩れ、その先に謎の空間が広がっていて、そこから青白い光が漏れている。

 その崩れた壁の穴から顔だけ出して中の様子を伺う。


「……おいおい、なんだよこれ」


 そこにあったのは、祭壇。

 広い部屋の中央に祭壇があり、それを取り囲むように青白い魔法陣が地面で光っていて、その先には――


『聖馬の門』


 頭の中に浮かぶ言葉。

 祭壇の奥にはどこかで見覚えがあるような白っぽい柱が立っており、それを見ると『聖馬の門 聖獣界への扉』という言葉が浮かんできたのだ。


「マジか……」


 あれってやっぱりカリム王国で見た妖精の門と似たようなモノだよね?

 頭の中が『?』で埋まる。

 そもそもなんでこんな場所にそんなモノが存在しているんだ? あの仮面の男らはこれを見付けてどうするつもりなんだ?

 頭がこんがらがりながら部屋に入ると、部屋の隅に人が倒れているのが見えた。


「ジョン!」


 走り寄ってジョンの状態を確認していく。

 鼻の下に手をやって呼吸を確認。手首を掴んで脈を測る。

 手足を縄で縛られ気絶しているが大きな怪我はないように見える。


「良かった……」


 胸を撫で下ろし、ナイフで縄を切ってから念の為にヒールをかけて立ち上がる。

 ジョンはまだ気絶したままだ。

 本当に意味が分からない。

 どうしてジョンはこんな場所に倒れているんだ? どうしてあいつらはジョンを捕まえた? ここを封鎖してどんなメリットがある?


「……とりあえず調べよう」


 それらのヒントがここにあるはずだ。

 祭壇の方に近付き、周囲を歩いて調べていく。

 祭壇は石で造られていて段になっている。そしてその祭壇の上にはなにかが置かれている。


「……」


 今すぐ確認したいが地面で光っている巨大な魔法陣が気になって、その中に入っていいものか躊躇してしまう。

 が、不思議とこの魔法陣には嫌な感じがしなかった。どちらかというとリゼを呼んだ時に出てくる立体魔法陣と似たような波動を感じる……気がする。

 完全に感覚なので確証はないけど。


「仕方ない。自分の感覚を信じよう」


 ここで長く迷っている時間はない。あの仮面の男らがいつ戻ってきてもおかしくないし。

 やるならやる、やらないなら帰る。すぐに決めて行動するしかない。

 意を決し、魔法陣の中の方へ手を伸ばしてみる。

 すると魔法陣のエリアに手が入った瞬間、そこからヌルッとした感覚――まるで黄金竜の巣のエリアに近付いた時と似たような感覚があり、しかし特に問題はなく、そのまま魔法陣のエリアに一歩踏み入れてもまったく問題はなかった。


「……? この魔法陣にどんな意味があるんだ?」


 なにかがある、けどなにかがまったく分からない。

 分からないけど今は先に進むしかない。

 なので魔法陣の中に入ってまずは聖馬の門に触る。


「妖精の門と同じなら、これで……」


 触った瞬間、魔法書を読んだ時のように頭の中に情報が流れ込んできて、魔法に関する断片的な情報も入ってきた。


「サモンユニコーン……サモンユニコーンの魔法!?」


 この聖馬の門で覚えられたのは『サモンユニコーン』という魔法。

 リゼを呼び出すサモンフェアリーと同じ系統だと考えると、当然アレを呼び出せるのだろう。


「いや、待てよ……。ユニコーンってなんか最近どこかで聞いたような……」


 確か聖女がどうこうって言ってなかったか?

 ……となると、ここは聖女ゆかりの地なのか?

 ますます意味が分からなくなってきたぞ……。

 とにかく、今はここでサモンユニコーンを使うわけにはいかないから次に向かう。祭壇の上にあるモノの確認だ。

 祭壇の正面に回り、段の上に置かれているモノを手に取れるところまで近付く。

 そこにあったのは、袋。上等そうな生地で作られた袋で、中には四角いモノが入っていると分かる。


「これ、触っても大丈夫だよね?」


 ゲームだと、こういうのを大喜びで取ろうとするとバーンって感じにボスが登場して戦闘に入るんだよなぁ……。

 これを触る前にセーブでもしておきたいところだけど、生憎とこの世界にはセーブポイントなんて便利なモノは存在していない。

 諦めて袋に手を伸ばし、中を確認する。


「本……ってこれ――」

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