第295話 仮面
その昔、ジョージ・ルーカスがスターウォーズに関して「宇宙では音なんで出ないぞ」と言われ「俺の宇宙では出るんだよ」と答えたという逸話がありますが。
それに習って僕も「ウチのファンタジーワールドじゃこうなんだよ!」という理屈で押し通してもいいのですが――
果物の受粉に関してですが『単為結果』という植物の特徴が存在するらしく、柑橘系の中には受粉しなくても実が出来る品種がある、という事実を一応書いておきます。
勿論、これは我々が住むこの地球での話なので、テスラでどうなるかは分かりません!
詳しくはテスレイティア様の方に聞いてください!
―――――――――――――
それから数日後。今日も朝から鍛錬を行い、それから冒険者ギルドで回復依頼を受けて怪我をした冒険者を回復させたり馴染みの冒険者と情報交換したりして、夕方頃に教会にお参りに行くことにした。
物価が高くなってからは回復依頼があったら必ず成功報酬の一部を教会――というか孤児院に寄付するようにしているのだ。
教会に入り、司祭様に寄付を渡して神に祈る。
最近は少しずつ暖かくなってきているみたいで、ほんの少し冬の終わりを感じる。
隙間風の多いこの教会も以前よりは寒くなくなった。
立ち上がって司祭様に礼をする。
「ありがとうございます」
「いえ、お祈りされる方を迎えるのが教会の役目ですからな」
それじゃあ一般人立ち入り禁止みたいになっていた大教会はどうなるんだ? という疑問が湧いたが言わないでおいた。
「また来ます」
「いつでもお待ちしておりますぞ」
そうして教会を出ようと歩き始めた時――
「あっ、司祭様! ここにいたんですか!」
ガタンと扉が開き、教会の中に三人が駆け込んできた。
よく見るとジョンとパーティを組んでいるサム、ノエ、ブーセだ。
「教会の中では走らないように」
「すみません……。いや、そんな場合じゃないんですよ!」
三人は慌てた様子で喋り始める。
「実はジョンが、帰ってこないんです!」
「落ち着きなさい。帰ってこないとは、どこに行ったのですか?」
「昼頃からクラクラ茸を集めてくるって出て行って、まだ戻らないんです!」
「途中でモンスターに襲われたのかも……」
クラクラ茸……って例の廃坑か? ここからだとそこまで遠くないだろうし、もう戻ってきてないとおかしい。
いや、そもそもどうして一人で採取に行ってるんだ?
「ジョンはなんで一人でそんな場所に? 前は四人で行ってたよね?」
「俺達は雪かきの依頼があったんです……。でも、ジョンは皆の分もクラクラ茸を集めて来るって言って……」
「別に私達はいらないのに……」
……そういえばあいつクラクラ茸が異常に好きだったっけ。好きすぎて無理に採取に行っちゃったんだな。
「司祭様! どうしよう!?」
「さて……どうしたものか……」
司祭様が顎に手をやり首を撚る。
冒険者がこういう状態になった場合、基本的には救助なんて出ない。自己責任が冒険者の基本だ。しかし当然ながら仲の良い冒険者が有志を募って救助に行く場合もあるし、冒険者ギルドが調査の名目で人を出す場合もある。その行方不明の原因によってはもっと大きな問題を生むかもしれないからだ。
「最近、食べ物の値段が上がっちゃって、あまり食べられなくなったから無理しちゃったのかな……」
ブーセがそう呟いた。
「……」
そう言われると若干責任を感じるんだよなぁ……。
直接的な関係はないとはいえ、自分がやったことの余波で様々なことが動いてしまったのだから。
「じゃあ僕が少し見てきますよ」
「おぉ、行ってもらえるのですかな」
司祭様に頷き、すぐに教会の外に出ようとすると三人が追ってきた。
「ルークさん、俺達も連れて行ってください!」
「私達も行きます!」
「……じゃあ道中は僕の指示に従うこと。いいね?」
「はい!」
ソルマールの風の三人を連れて即席パーティで町の門を出て例の廃坑を目指す。
「このままだと日が落ちる前に戻れないかもしれない。野営をするかもしれないから覚悟しておくように」
「はい!」
「町まで戻ってこれたらスラムにいい場所がありますよ!」
サムがそう言うので「そうなったら頼む」と返す。
しかしそうなったとして、本当にスラムで一泊するのが野営よりマシなのかは今は判断出来ない。それは後から考えよう。
こっそりマギロケーションを発動し、周囲を伺いながら歩を進め、途中、岩の陰から出てきたホーンラビットを三人に気付かれる前にダッシュで一瞬で近付き、ミスリルの槍で串刺しにする。
「フッ!」
「ギュア!」
まだバタバタ動いているホーンラビットにとどめを刺し、サッと魔石だけ抜いてズタ袋の中に入れた。
もうこのレベルのモンスターに手間取る理由はない。
処理もそこそこに、時間もないのでさっさと先に進む。
「凄い……」
「ホーンラビットを一瞬で……」
「これがギルドから期待されている冒険者の力なのね……」
後ろから色々と聞こえてくるけど、それを無視してどんどん進む。
そうして四号坑道と呼ばれていた廃坑の入口の近くの岩裏に到着した時、マギロケーションにおかしな反応を感じた。
三人を手で制し、口に指を当てて黙らせる。そして人差し指を軽くクイッと動かして三人をゆっくり呼び、小声で三人に状況を伝える。
「廃坑の入口に誰かが立ってる」
「ここからそんなことが分かるんですか?」
「うん。ちょっとだけここで静かに待機していてほしい」
周囲は岩と雪に囲まれた大地。どんよりした空が茜色に染まりかけている。
音を立てないようゆっくりと岩に近付いて張り付き、岩から少しだけ顔を出して廃坑の方を確認した。
二〇〇メートルぐらい先の廃坑の入口には黒いローブを着た一人の人間が立っている。ローブによって性別などは分からない。
「これは、最悪かもな……」
小さく呟く。
その人影の顔には見覚えのある仮面が張り付いていたのだ。
そう。以前、この廃坑で見たけど、怪しそうだったから近づかなかった謎の人物と同じ仮面だ。
ゆっくりと三人の元に戻って状況を話す。
「廃坑の前を怪しい人が見張ってる」
「それってどういう……」
「分からない、けどジョンが中にいるなら面倒な事態に巻き込まれた可能性はある」
「じゃあ助けにいかないと!」
「静かに!」
三人をもう一度、黙らせる。
状況はあまり良くないかもしれない。
廃坑前の見張りは倒せる……かもしれない。しかしその後が問題だ。
見張りがいるってことは他に仲間もいるはず。つまり集団ということになる。しかし集団は集団でも仮面舞踏会を楽しみに来た貴族には見えないし、ゲートボールをプレイしに来た王都老人会にも見えなければ、悪人に改造人間にされた仮面のヒーローにも見えない。どちらかと考えなくても悪人側だろう。あんな怪しい奴らがマトモな連中なわけがない。
つまり、あそこに突撃すれば得体の知れない謎の集団と敵対関係になる可能性がある。
頭をガシガシ掻いて考える。
そもそもジョンがあの中にいると確定したわけじゃない。下手に強行突破して中にジョンがいなくてあの仮面らが完全に無関係だったら最悪中の最悪の状況になる。しかし彼らに話を聞いても正直に答えてくれるとは思えない。
といった僕の考えをサム、ノエ、ブーセの三人にかいつまんで話した。
「という状況なんだ」
「じゃあジョンはどうなるんですか?」
「暗くなったら僕が中に忍び込む。君らは日が出てる内に先に戻ってスラムで隠れ場所を用意してほしい」
「でも……」
「忍び込むって、どうやるんです? あんなにしっかり見張られたら無理ですよ……」
三人の懸念は分かる。けど――
「大丈夫。闇夜は僕の時間だからね」
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