第134話 イビツなるモノ

いびつ……ですか」

「そうじゃ。お前さんのその技は歪なんじゃよ」

 そう言ってボロックさんは顎髭を撫でた。


「キュキュ?」

「あぁっ! ごめん、忘れてた!」 

 ローブのフードの中で寝ていたシオンが起きて僕の肩の上に乗ってきた。慌てて抱きかかえてその体を調べたけど、怪我はしてないようだった。

「良かった……。あ、それでさっきの話は……」

「……まぁええわい。歩きながら話すかの」


 シオンを肩に乗せ、歩き始めたボロックさんの後を追って、その話に耳を傾ける。

「お前さんの槍さばき、そして身のこなし。流れるようなその動きには体系的に組み上げられた技が見えたのじゃよ」

 まぁ確かに、実家の道場は侍の時代から続く古武術の流れをくむ流派だし、その動きは長い実践の中で試行錯誤して磨き上げられたモノなはず。しかし、それがさっきの話とどう繋がるのだろうか?

「わしはこの歳まで様々な冒険者や騎士を見てきたがの、お前さんのような武術を使う者を初めて見たのじゃ。お前さんのそれは、特定の相手に特化した技じゃろ。……そうじゃの……人かの? 対人を前提とした技。じゃから歪なのじゃよ」

「……」

 ボロックさんのその言葉を聞いて、何となく察してしまった。


 地球に存在している武術、そのほぼ全てが対人戦を前提として作られている。熊やライオンと戦うための武術を考える奴なんていない。野生の肉食獣と武術で戦うなんて無謀だし無駄だからだ。

 しかしこの世界では、人がモンスターと対等に戦えるだけの能力を得る。そして人はモンスターと戦わなければならない。つまり、この世界の武術が想定する相手は様々なモンスター、その全て。

 根本的に地球とこの世界では武術が発展する過程に違いがあるのだ。当然、行き着く先もまったく違うはず。


「お前さんがどうやってそういう歪な武術を習得したのかは聞かんがの。……そのままでは危ういのではないかの」



◆◆◆



 ボロックさんと話をしながら進んでいくと奥から何かの音が聞こえ始めた。その音がどんどん大きくなって水飛沫の音だと理解出来るようになってから更に数十分歩き続けると、水飛沫の音が轟音へと変わる。そしてボロックさんの声がまったく聞こえなくなった頃、目の前に水の壁が現れた。

 その水の壁は天空から落ちてくる水の飛沫。滝だ。それが洞窟の出口を完全に塞いでいた。水の壁の奥にはかろうじて光が見えるので、これを抜ければ外だと思う。

 ボロックさんの方を見ると、彼は親指で水の壁の方を指した。ここが出口、という事なんだろうか。しかし、今は絶対に通れそうにない。

 するとボロックさんが今度は来た道を指さしながら顎をしゃくり、歩き出した。僕もそれに続いて滝を後にする。


「分かったかの、当面は出られん理由が」

「分かりましたけど、ここって本当に通れるのですか?」

 あの場所が通れるようになるとはちょっと考えられない。

「通れるわい。通れんのじゃったらわしはどこから来たんじゃ? という話じゃからの」

「まぁそうですけど……」

「そうじゃの……二〇日後、じゃろうかの、次に通れるのは」

 ボロックさんはポケットから懐中時計のようなモノを取り出し、その文字盤を見ながら答えた。

「二〇日後……ところでそれは何なのですか?」

「ん? これかいの。これは……まぁ時間とかが分かる魔道具じゃよ」

 そう言いながらボロックさんは魔道具をポケットに入れた。

 時計かな? その内、僕も一つ買っておきたいところだ。


「まぁ急いでもどうにもならんからの。暫くは里でゆっくりするんじゃの」

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