第135話 ボクは何を食べるの?
「……大切な事を忘れてた」
ボロックさんの家の一階でイスに座り、ボロックさんがファンガスを調理している音を聞きながらまったりとしていると、急にパッと頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
「シオンって、何を食べるのかな……」
そう言葉に出すと急に焦りが心の奥から湧いてくる。
動物の子供って何を食べるんだ? 母乳? 昆虫? 草? あれ、これもしかして詰んでないか? この洞窟には乳を出す動物もいないし、草もないし、虫も見ていない。そして洞窟からはあと二〇日は出られない。
ローブのフードの中に手を突っ込み、シオンを掴んで目の前に出した。
「キュ」
寝ていたのを起こされて少し不機嫌そうなシオンに構わず、その口を開いて中を確認する。
「歯……は生えてるのか……じゃあ固形物を食べられる可能せ――いたっ! いたたた! ごめんって! ごめん!」
「キュー!」
「何をやっとるんじゃ」
僕の手をガジガジと噛んでくるシオンをテーブルの上に置いているとボロックさんが鍋を持って奥から出てきた。
「いや、あの、シオンは何を食べるのかなぁ……って」
「お前さん、考えとらんかったのかの?」
「えぇっと……はい」
「ふむ、そうじゃの……とりあえず色々と与えてみてはどうかの」
そう言ってボロックさんは奥の部屋から皿に盛られたファンガスのステーキ? を持ってきた。真っ白で長方形なそれはパッとみた感じだと豆腐ステーキのように見える。
「まずはファンガスからじゃの」
目の前に置かれたそれを自前のナイフで小さく切って、少し冷ましてからシオンの口元に差し出してみた。
「キュ?」
シオンはそれをカプッと口に咥え、小さな手で押さえながらガジガジと食べていく。
「よかったの、いけるようじゃな」
「みたいですね」
シオンの姿を見てほっと胸をなでおろす。よかった……食べられる物があって。何もなかったらどうしようかと思ったよ……。今後も色々な物を少しずつ与えてみて、何が食べられるのか見ていかないとなぁ。僕の食べ物だけじゃなくて、この子の食べ物の事もちゃんと考えないと。
もしかすると、地域によってはシオンが食べられる物が何もない場所もあるかもしれないし、これからはしっかり計画的に食料品をストックしとかないとダメなのかも。
そう考えながら一口サイズに切ったファンガスを口に運ぶ。
適度な歯ごたえ。口の中に広がるクセのないキノコの風味と、薄めに付けられた塩味。これはエリンギに近いかもしれない。
「……ん~、淡白な味ですね」
「そうじゃろ。この里の主食じゃよ」
旨い! という感じではないけど、クセがないから沢山食べられる気はする。……よく考えるとさっきまでファンガスを食べる事に若干の抵抗があったはずなのに、安心した勢いでそのままファンガス食べちゃってたよ……。まぁいいか。
焼きファンガスにファンガススープまで完食し、テーブルの上で丸まって寝ているシオンを撫でながらボロックさんに気になっていた事を聞いてみた。
「あの、ここまで色々とお世話になってしまって……何か出来る事があればやりたいのですが、何かありませんか?」
色々とお世話になって、更にこれから二〇日もお世話になるのだ。何か僕に出来る事をやりたいと思う。
「ふむふむ、そうじゃのう……」
そう言いながらボロックさんは立ち上がると、棚の中にあった袋の中から見覚えのある黒い水晶を取り出し、「お前さん、コレは持っとらんかの?」と言った。
それは僕が死の洞窟で採取してきたようなモノとは少し違い、大きさは五センチ程と小さく、結晶の中にも筋があったりして色も安定していなかった。
「はい、ありますよ」
そう言って後ろに手を回して魔法袋から大きな黒い水晶を引き抜きかけたところで、ふと気付いてそれを魔法袋に戻す。
危ない危ない、大きな水晶だと魔法袋の存在を晒すようなモノだ。無難に小さめの水晶にしとこう。そう考えて二〇センチ程の水晶をテーブルの上に置いた。
「おぉ! これじゃよこれ! やはり思うとった通りじゃの」
そう言ってボロックさんは僕が出した黒い水晶を手に取り、色々な角度から眺めた。
「うむ! 色も大きさも質も申し分ない闇水晶じゃの」
「闇水晶?」
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