第133話 ファンガス

「ファンガスじゃの」

「ファンガス、ですか」

 どこかのゲームでそんな名前のモンスターを見たような気がする。

 そのキノコ――ファンガスは、高さ一メートルもないぐらい。太い胴体に小さめのカサで、色は茶色だった。そして地面に接している部分が微妙に裂けていて、その部分をウネウネと動かして歩いていた。

 はっきり言うと、ちょっと気持ち悪い……。


 僕がそう考えて足が止まっている間にもボロックさんはスタスタと進みながら背負っていたハンマーを背中から引き抜き、肩に乗せた。

 それを感知したのか、ファンガスがピタリと動きを止め、ぐぐぐと力を溜めるように縮こまり、そして次の瞬間、キノコとは思えないスピード? でボロックさんの方へと飛んだ。

「ほっ!」

 ボロックさんはその動きに合わせるように、かけ声を発しながら一歩踏み込み、肩に乗せていたハンマーをファンガスへと叩きつける。グシャ、という音を立てながら地面とハンマーに挟まれ、胴体が弾けて裂けてしまったファンガスはその一撃で絶命したのか、動きを止めた。


「とまぁ、そこまで強くはないモンスターなんじゃがの。どこからともなく湧いて出るで、たまに間引いてやらんとえらいことになるんじゃよ」

 そう言いながら彼はファンガスの足? の付け根をナイフでほじくって魔石を取り出した。

「今夜は焼きファンガスじゃの」

「焼きファンガス、ですか……」

 食べるのか……。食べるのか……。う~ん……。


 ファンガスをそのまま放置して道を進む。ファンガスの回収は後だ。今、回収しても重たいだけだからね。

 暫く進むと遠くの方で激しい水飛沫の音が聞こえてきた。滝でもあるのだろうか? 少し気になりながらもボロックさんの後を追っていると、またマギロケーションに反応があった。

「ボロックさん、また何かいるみたいです」

「ふむ、ファンガスじゃろう。このあたりはまずファンガスしかおらんからの」

 なるほど、キノコ系モンスターしかいない洞窟、か……。どこかにファンガスの菌床でもあるのだろうか? それともファンガスが交配して増えてるのだろうか? 謎は深まるばかりだ。

 ……一瞬、ファンガスの交配について考えそうになったけど、止めた。謎は謎のままの方が良い事もあるのだ。


 少し進んで角を曲がると、ファンガスがいた。

「やはりファンガスじゃの。ふむ、今度はお前さんがやってみてくれんかの?」

「あ、そうですね」

 ボロックさんにばかり戦闘を任せているわけにもいかない。そう考えながら槍先のカバーを外し、槍を構える。

 数メートル先のファンガスにジリジリと近づきながら槍を見た。はっきり言って今の槍の状態は最悪だ。前に巨大スライムと戦った時、奴の体内におもいっきり突き入れて放置したせいで腐食したのかボロボロになっていた。もう流石にこの槍はダメだろう。調整でどうにかなるとは思えない。残念だけど、次の町に着いたら買い換えないとね。


 ファンガスまでの距離が五メートル程になった時、フラフラ動いていたファンガスがピタリと動きを止め、力を溜めるようにぐぐぐと縮こまった。そして次の瞬間、こちらへ飛びかかってきた。

 それを左にかわしながら槍を一突き。刃がボロボロなせいか、引っかかりのある鈍い感触が手に返ってくる。その感覚に眉をひそめつつ、また飛びかかってきたファンガスを躱しながら今度は槍を振り回して叩きつけた。布団でも叩いたかのようなバスッという音と、槍先のミシミシという嫌な感触を手で感じ取りながら、吹き飛ばされて転がったファンガスに走り寄り、おもいっきり踏みつけた。


 体が裂けて動かなくなったファンガスを見て「ふぅ」と息を吐き、そして槍を見た。柄の部分も腐食して脆くなっていたのだろうか、ファンガスを殴った衝撃で刃の部分だけでなく柄も曲がってしまっている。

「……まぁ仕方がないか」

 ボロックさんがやっていたようにナイフの刃先をファンガスの足の付根に入れて魔石をほじくり出す。立ち上がるとボロックさんが顎髭を撫でながらこちらを興味深そうに見ていた。


「お前さん、なかなか歪じゃの。面白いわい」

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