第132話 聖獣の名前とキノコ
「はて、その肩に乗っとるのは何かの?」
朝、眠い目をこすりながら一階に下りたところで会ったボロックさんが僕の方を見てそう言った。
「ふぁ……昨日の卵、ですよ。孵化したんです」
「ほう、それはよかったの。……しかし、ここいらでは見たことがないモンスターじゃの」
ボロックさんはそう言いながら何かを思い出すように顎髭を撫でる。
まぁモンスターではないからね。見たことなくて当然なんだけどさ……。この子が聖獣である事は秘密にしておいた方が無難だろうし、何か言い訳は考えておかないといけないか。
「え~っと、どこか遠いところのモンスターなのかもしれないですね」
「ふむ、そうなんじゃろうな。……それで、名前は何にしたのかの?」
ボロックさんにそう聞かれ、昨日の事を思い出した。
昨日、あれからこの子の名前を考えようとしたのだけど――実はこの子の性別を断定出来なくて悩む事になったのだ。
まず、この子をひっくり返して色々と調べてみたのだけど、それっぽいモノが何も見当たらなかった。オスっぽいモノもメスっぽいモノもだ。でもまぁ何もないんだしメスでいいか、と結論付けようとしたところで地球の動物の情報が頭をよぎってしまった。例えばアレを常時体内に収納している動物とか、幼少期はオスメスの判別がしにくい動物とかね。なのでこの子が男の子なのか女の子なのか判断するのは棚上げとして、とりあえずどちらでも通用しそうな名前を付ける事にした、のだけど……洋風の――こちらのユニセックスな名前なんて僕はまったく知らなかったのだ。和風な名前ならいくつか分かるけど、和風の名前だとこの世界では浮きそうだし――とか考えている内にリゼが帰ってしまい、この子も飽きて眠ってしまい、一人でウンウンと唸りながら名前を考え、そして今に至る。
「シオン、にしようと思います。な、シオン」
「キュ」
「シオン、の。不思議な響きの名じゃの。しかしええ名じゃ。良かったの、シオン」
そう言いながらボロックさんはシオンに手を伸ばそうとしたけど、それを察知したシオンが僕の首の後ろにサッと隠れた。
「これは……昨日のアレを覚えてるんじゃないですかねぇ」
「アレとは、アレかの? アレはじじいのおちゃめな冗談じゃからの、本当に食ったりはせんが……」
ボロックさんは少し残念そうに手を引っ込めた。
結局、僕には洋風で男でも女でも使えるユニセックスな名前は思いつかなかった。なので日本人っぽいユニセックスな名前の中から洋風っぽくも聞こえるような名前をチョイスしてみた。それがシオン。この子も嫌がってはなさそうだし、大丈夫だよね?
◆◆◆
ボロックさんの家を出て、死の洞窟側とは逆側へと町の中を進み、そして突き当りにあった金属の扉を抜けてまた洞窟の中を進んだ。
こちら側の洞窟も死の洞窟側と同じく廃坑になっていて、上下左右にいくつも道が続いていた。ここでボロックさんからはぐれたら迷子になるのは確定だ。ゾンビになるまで彷徨い続ける事になるだろう。
などと考えていると、マギロケーションに何かの反応があった。通路の奥、曲がり角の先だ。
「ボロックさん、この先に何かがいそうです」
「お前さん、分かるのかの? 中々ええ腕をしとるの」
ボロックさんは、「まぁこの先におるのは決まっとるでの」と言葉を続けながら慎重さの欠片もない足取りでズンズンと進んでいく。そして曲がり角を曲がった先にいたのは――大きなキノコだった。
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