第68話 エレムのダンジョンとダンジョンにいるエルフ

 その建物は最初、要塞に見えた。

 しかしそれが要塞ではないと知り、そしてこうやって中に入っていくと明らかに要塞ではないと理解出来る。

 普通、要塞は外から攻撃される事を考えて作られるはず。しかしこの建物の扉の閂は外側に付いている。そして壁の外側に壁上へと上る階段が付いていた。それだけで異常さが分かるけど、更におかしいのは、この構造だ。最初の門から中に入るとまたすぐ門があり、そしてもう一つ門を抜けてやっと真ん中の建物に着く。つまり、三重の壁に囲まれた中に石造りの建物があるのだ。


 巨大な壁に囲まれる圧迫感を感じながら石造りの扉を開ける。

 外套の水滴を払って中に入ると、広い部屋があり、中には何人かの人がいた。

 何か話をしている冒険者風のグループ。それと部屋の最奥、下へと続く階段の前を守るように立っている何人かの兵士達だ。


「よし、行くぞ」

 そうこうしている内に話がまとまったのか、冒険者達が揃って奥の兵士の方へと移動していく。

 何となく彼らの方を見ていると、ふと目に入った一人に目を奪われてしまった。

 背中に背負った大きな弓。サラサラと流れるような長い金髪。全身革鎧で覆われていながら、下半身部分は短めのスカートのような形状になっていて、女性らしさも失われていない。

 そして長い金髪から覗く長く尖った耳。

 エルフだ。

 エルフの存在は例の白い場所で知っていたけど、見たのはこれが始めてのはず。

 初めて獣人族を見た時以上の衝撃を受けていると、彼女がチラッとこちらを見た。

 噂に違わぬ整った顔立ち。キリッとした緑の瞳。それらに囚われ、暫く彼女を見つめてしまう。

「銀貨一枚だ」

「全員分で六枚だ」

 両者の間でそういうやり取りがあり、兵士が道を空け、冒険者達は奥へと進んで階段を下りていった。そして彼女も、こちらの事など気にした様子もなく、それに続く。


「あれがエルフ」

 何と言うか、イメージ通りだったかもしれない。

 彼女とその仲間。装備や持ち物。その動き、動作、立ち振舞。色々と総合して考えると、彼女達はかなりの高ランク冒険者なんだと思う。僕はまだ色々な情報に疎いから知らないけど、恐らく有名なパーティなんだろう。

 僕が力を付けていけば、何れどこかで縁があるかもしれないね。


 しかし、ここのダンジョンでは入場料を取るのか。

 南の村の初心者ダンジョンでは入場料なんてなかったし、さっき見たここのダンジョンの資料にも書いてなかった。

 まぁ場所によってもやり方は違うだろうし、資料に書いてない事もあるか。

 そう考えながら装備の最終確認をして、兵士に銀貨一枚払って僕もダンジョンの中に入った。



◆◆◆



 階段を下りると、そこには二〇畳ほどの部屋があり。部屋の真ん中に白くて大きな石碑があった。

 高さは二メートルほどで、幅は一メートルほど。厚さは三〇センチ程度だろうか。

「これか」

 資料によると、このダンジョンには五階ごとに転送碑てんそうひと呼ばれている瞬間移動装置のような物が設置されているらしく。一度触れた事のある転送碑にはどこの階の転送碑からでも瞬間移動出来るらしい。


 転送碑に近づき、右手を伸ばして触れる。

 ここで触っておかないと、下の転送碑に触ってもここまで戻ってこられないからだ。

 右手から何かが流れ込んで来て、そして転送碑へと戻っていく。

 魔法を使う時……というより、魔法書を触った時と感覚が似ているかもしれない。


 しかし、何だか色々な事が初心者ダンジョンとは違っている。

 ダンジョン周辺の雰囲気もそうだけど、この転送碑だ。転送碑なんて物は初心者ダンジョンにはなかった。あれは初心者ダンジョンが地下五階までだからだろうか? それとも……。


 頭を振り、思考の海から脱出する。

 今は色々と考える時間じゃない。

 地下一階の地図をポケットから取り出し、確認する。

 地図によると、この階は真っ直ぐに進むと地下二階への階段があるらしい。

 それだけ確認し、真っ直ぐに歩き始めた。



◆◆◆



 少し歩いたところで、ふと一つの考えが頭に浮かんだ。

 今まで僕が入った事のあるダンジョンは初心者ダンジョンだけで、普通? のダンジョンはこれが初めてになる。なので、普通のダンジョンがどんな物なのか調べながら全ての道を見ておくのも良いのではないか、と思ったのだ。

 暫く、歩きながらどうするか考える。

 すると少し先にある十字路の左側から誰かが戦っている音がしてきた。

 そのまま進み、十字路から顔を出して覗いてみると、今の僕より年下に見える一〇歳から一二歳ぐらいの子供が四人と、大人が一人。そしてスライムが二匹見えた。


「よし、ちゃんと囲むんだ。逃がすなよ」

「おう!」

「いくぞ!」

「てやっ!」


 大人が指示を出し、子供がスライムを囲んでペチペチ攻撃している。

 彼らは全員、鎧などを装着しておらず、上下共に布の服というダンジョンには似合わないラフな格好だけど、子供達は手に棍棒や剣を持ち、大人は腰に剣を挿していた。

 流石に武器は持っているらしい。

 しかし逆に言うと、子供でもそれぐらいで十分なのがこの階層なんだろう。

「なるほどね」

 彼らを見て僕は考えを纏めた。

 やっぱり階段へと最短ルートで直行すべきだ。浅い階を荒らして子供達の訓練の邪魔をするのは褒められた行為ではないはずだしね。

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