第67話 雨と冒険者ギルドで資料漁り
「雨……か」
朝、起きて、宿の部屋の木窓を開けた先の景色を見ながら、そう呟いていた。
窓の外は小粒の雨がパラパラと降っていて、外套にしっかりと包まって足早に歩く人が宿の前の大通りにちらほらと見えた。
心なしか気分も沈んでいるような気がする。
しかし……それにしても。
「どういう事なんだろう、ね?」
誰もいないけど、誰かに聞いてしまう。
彼女は……リゼはあの時、雨、と言った。そして今、雨が降っている。
妖精には気象予報士を全員クビに出来るレベルの天気予想能力がある……なんて事ではないだろう。でも、彼女には自然に関する事などが何か分かるのかもしれないね。
今度、呼び出した時にでも聞いてみようか。
◆◆◆
階段を下り、一階の酒場へと向かう。
するとそこでは何人かの冒険者が酒を飲んでいた。
実は、ほとんどの冒険者は雨が降ると仕事を取り止めるのだ。いや、冒険者だけでなく、外で作業するほとんどの仕事が中止になる。何故かと言うと、雨に濡れたり体温が下がると体調を崩しやすくなる事を経験則から理解しているからだ。
それに加え冒険者の場合、雨が降ると視界が悪くなり、モンスターの臭いや足跡は洗い流され、モンスターが出す音も雨音にかき消され、外套を頭からすっぽり羽織ると視界が制限されたりなど、悪い事尽くめ。
商人に関しても、冒険者の索敵能力が落ちる事に加え、地面のぬかるみにはまって馬車の速度が上がらなかったり、馬の健康管理などを考えると町の外には出たがらない。
だから雨の日は家の中にいる。
まぁダンジョンは天候の影響は受けないから普通に働けるわけで。つまりここにいる冒険者は大体ただのサボりなんだろうけどね。
「すみません。冒険者ギルドってどこにありますか?」
「ん? あぁ、南側……この宿を出た正面の方角だ。大通りを進んで行けば分かるはずだ」
酒場のマスターに冒険者ギルドの場所を聞き、部屋番号が書かれた板をフロントに返して宿を出た。
外套のフードを深く被り、足早に大通りを西へと進む。
雨もまだそこまで強くはないし、大通りは石材が敷かれているのでぬかるみもなく、歩きにくくはない。
時々、周囲を確認しながら進んでいると、南北に繋がる大通りを見付けたので、左折して南へと向かった。
そして暫く人のまばらな大通りを歩いていると大きな門と壁が見えてきて、その門の中に石造りの要塞のような建物が見えた。近づいていくと、その要塞の隣に冒険者ギルドの剣と盾のマークの看板が付いた木造の建物が見える。
「……」
この門と壁って何なんだろう? と言うかこれ、入っていいものなの? 何か国の施設っぽい感じで、入っちゃダメな雰囲気が出てるんだけど。入っちゃっていいんですかね?
門の手前で色々と考えている僕の後ろから外套を被った冒険者風の一団が現れ、門を通り抜けていく。
どうやら普通に通れるようだ。色々と無駄に考えちゃって損した気分……。
冒険者風の一団に続いて門を通り抜け、冒険者ギルドへと向かう。前の一団は冒険者ギルドを素通りして、要塞のような建物へと入っていった。
冒険者ギルドの軒下で外套を脱いで、バサバサと水気を払う。
布製の外套だけど、目が詰まったキャンバス生地のような固い布で出来ているおかげか、染み込ませてある草の汁が良いのか、あまり水分を通していない。この程度の雨で、このぐらいの時間なら、この外套でも十分対応出来るらしい。
外套を羽織り直し、冒険者ギルドの扉を開け、中に入って周囲を見渡した。
冒険者ギルドの作りはほとんど変わらない。基本的に扉の正面にカウンターがあり、そこに職員が何人か座っていて。そして机やイスが並べられた酒場のようなスペースがあって。二階への階段がある。
冒険者ギルドには何か統一されたルールでもあるのだろうか?
「すみません。ダンジョンについて調べたいのですが、資料室はありますか?」
「はい。二階にございますよ」
カウンターの受付嬢に聞いてみると、望んでいた答えが返ってくる。
良かった。ダンジョンに関する資料は公開されているようだ。
実の所、ダンジョンに関する詳細な資料は公開されていないのではないか、という心配もしていたのだ。もしくは、公開されているけど有料、とかね。
少しホッとしつつ、彼女に「ありがとう」と礼を言い、二階へと向かった。
◆◆◆
「なるほどねぇ」
資料室にあったエレムのダンジョンに関する資料を読み漁り、エレムのダンジョンについて何となく理解出来てきた。
総階層四〇で、既に攻略済み。出てくるモンスターはFランクからAランクまでで、最下層のボスがSランク。全階層が石のブロックで作られているノーマルなダンジョンらしい。
そしてさっき見えた大きな要塞みたいな建物がダンジョンだとか。
いや、正確に言うなら、あの要塞はダンジョンの入り口を囲んでいる建物で、ダンジョンはその中にあるのだけども。
基本的にダンジョンの中からモンスターが出てくる事はないらしいけど、稀にダンジョンの中からモンスターが溢れ出す事があるらしく、町の中にダンジョンがある場合はその周囲をああやって囲むらしい。
パラパラと資料の本をめくって読み進めていく。
するとダンジョンの内部地図を見付けた。
「うーん……これは写しておくべきなのだろうか?」
と、言いつつも、答えは最初から決っている。
だって、こうやって正解のルートを教えてくれているのだから使わない手はないじゃないか。
一瞬、迷ったのは書き写すのが面倒そうに見えたからだ。
でもここで書き写してないともっと面倒な事になってしまう。
「はぁ……。まぁ、とりあえず地下五階まで書き写して、その後の事は地下五階まで攻略してからにしようか」
そして背負袋から紙と鉛筆を取り出し、カリカリと書き写していった。
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