第69話 ダンジョン六階まで
左手を振るい、飛びかかってきたスライムを裏拳で叩き落とす。
スライムは弾かれて壁に激突し、潰れて消えていく。そして床にカラカラと小さな魔石が転がった。
その魔石を拾い、背負袋に放り込む。
南の村にいた頃と違い、あれから何度か女神の祝福を得た今となっては、もうスライムなど相手にならない。
まぁ子供が相手にしてるようなモンスターだし自慢にもならないか。
そんな事を考えながら道幅六メートル程の地下二階の道を最短ルートで進んでいるけど……この階層は人が多い気がする。
「いたぞ!」
「やれっ!」
「おう!」
そんな事を考えていると僕と同じか少し下ぐらいの年齢の子供達のパーティが五〇センチほどのウサギを袋叩きにしていた。
あぁ……うん。何だか絵的には物凄くアレすぎてダメな感じがするけど、資料によるとアレはエルラビットと言うれっきとしたFランクモンスターらしいので、倒すのが正解だ。
「おっりゃ!」
棍棒を持った男の子の一撃がエルラビットの脳天を直撃し、エルラビットが「キュゥ……」と鳴きながら倒れる。
うーん、この……。いや、そういう見方は良くない。あれはモンスターなのだ。
倒されたエルラビットが消えていき、その場に肉の塊と魔石が残る。
「よし!」
「今日はいいペースだな!」
「どんどん行こう!」
彼らは肉の塊を袋に詰め込み、ダンジョンの奥の方へと消えていった。
「なるほど」
何となくこの階が人気な理由が見えてきた。
あの肉は食べてもいいし、売ってもそこそこのお金になるだろう。魔石以外に売れるような物が何も出なかった初心者ダンジョンのスライムやゴブリンとは大違いだ。
そのまま二階を抜け、三階を抜け、四階からはスライムの代わりにゴブリンが出るようになったけど、ほとんどモンスターとは出会わずに四階も五階も抜けて六階へと到着した。
六階へと下りると、地下一階で見たものと同じ白くて大きな石碑――転移碑――があった。
転移碑に近づき触れてみると、自分と転移碑が繋がるような感覚があり、そして頭の中に、地下一階、という言葉が浮かぶ。
その頭の中の言葉をなぞるように「地下一階」とつぶやくと、急に体の周辺が輝き始め、ジュバッという音と共に体が浮くような感覚があり、気が付くと転移碑がある部屋の隅の方に立っていた。
「……??」
初めての状況と感覚に一瞬戸惑う。転移碑が置いてある部屋の作りが同じなのも戸惑う理由かもしれない。しかし資料が正しいのならこれで地下一階に戻ってきているはずだ。
そのまま階段を上ってみると、兵士の背中が見えた。
つまりちゃんと地上へと戻ってきている事になる。
ここまで来てやっと安心して、体から力を抜き、息を吐く。
「さて……」
これからどうしようか?
色々考えて最短ルートを進んだ結果、体感ではまだ二時間もかかっていないはずだ。今は昼にもなっていないはず。流石にこの時間でお仕事を切り上げるのはちょっと罪悪感がある。
仕方がないな……ギルドで六階から一〇階までの地図を写して、次の階へ進むか。
◆◆◆
色々と用事を済ませ、シュバッという音と共に六階へと戻ってきた。
さて、どうしようかな?
とりあえず光源の魔法を使い、七階への道を歩きながら考える事にした。
五階までは若い冒険者の訓練と収入源になっているっぽいから最短ルートで進んだけど、ここはどんな感じなのだろうか? 流石にそういう情報までは資料に書いてないので、自分で判断しないといけない。
資料によると、ここに出てくるのはフォレストウルフだ。そして七階からはそこにコボルトが加わる。
「うーん、フォレストウルフはもういいかな……」
フォレストウルフはランクフルト周辺に生息していた。なので何度も戦った経験がある。ここのフォレストウルフとランクフルトのフォレストウルフに何か違いがあるかもしれないので一度戦ってみた方がいいかもしれないけど、その後はもういいかな?
そう考えて六階も最短ルートで進む事にした。フォレストウルフは七階にも出るはずだしね。
そう考えていると、前方からタタッタタッという四足歩行の動物の足音が聞こえてきた。
その音に、素早く槍を構えて気を引き締める。
数秒後、正面から犬のようなシルエットが光源の魔法の光に浮かび上がってきた。フォレストウルフだ。
そのまま距離が三メートルほどに近づいた時、フォレストウルフがググッと体に力を込めるような動きをする。
「フッ!」
その瞬間、僕は一歩前へ右足を踏み込みながら右手の槍を思いっきり突き入れた。
「ギャン!!」
こちらに飛びかかろうと飛び上がった瞬間のフォレストウルフの喉元に槍先が突き刺さり、フォレストウルフを空中に縫い止める。
槍を払うように強引に引き抜き、そのまま様子を見ていると、フォレストウルフが消えて毛皮と魔石が残った。
「やっぱり解体しなくていいのは楽でいいね」
毛皮と魔石を背負袋に突っ込み、七階を目指して再び歩き始めた。
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