第75話 休日と町の探索

 翌日、朝一番に浄化をかけてから一階へと下りる。


 一階の酒場にはいつものように冒険者達が集まっていて、何かを食べたり飲んだりしていた。

 この世界では電話のような通信手段は存在していない。当然、目覚まし時計のような物もない。なので冒険者は日が昇ると起きて、待ち合わせ場所に行き、そしてパーティ全員が揃うのを待ってから仕事に出発する。

 時間を把握する手段が太陽の位置というアバウトな方法しかない以上、そうなってしまうのは必然と言える。

 つまり、朝から酒場に集まっている彼らは、仲間を待つためにここにいる。決して朝から一杯引っ掛けるために酒場にいるわけではない――


「うーい、親父! もう一杯だ」

「お客さん、朝っすよ。いいんですかい?」

「いいんだよ! 今日は休みだ、休み」

「……まぁ、金出すってんなら文句はないんですがね」


 ――はずだ……。



◆◆◆



 宿を出て、南へと向かう。

 今日も元気にダンジョン攻略! ……ではなく。今日はダンジョン攻略はお休みにして、町を色々と見ていくつもりだ。

 目標としていたDランク帯の階層まで到着した事で余裕も出てきたし、町に何があるのか把握しておく必要もあったしね。

 決して、さっきの冒険者みたいにサボってるわけではない。……いや本当に。

 それに、そろそろ槍の調整もしておきたかったんだ。


 この町に来て、このダンジョンに入ってから、短期間でそれなりの数のモンスターを倒した。

 パーティの時は一人が受け持つ敵の数が少なかったし、モンスターが出る場所まで移動する必要があったから、一日に倒すモンスターの数は多くなかったし。特にエルシープは全身が有用で丸々持ち帰る必要があって、狩る数自体は少なかった。

 でも今は状況がまったく違う。

 ダンジョンに入るとすぐにモンスターと遭遇するし、デザートカウのように全身有用なモンスターであってもドロップを除いて全て消えるから持ち帰れないし、何匹も倒す事になる。

 つまり、戦闘続きで武具の消耗が激しいのだ。


 まぁこれに関しては僕の戦い方にも問題があるんだろうな、と最近は思うようになった。

 この世界の冒険者達は実に実用的な武器の使い方をしている。勿論、初心者とかは別だけど。

 ある程度、経験を積むと、モンスターのかたい部分に刃が当たらないように工夫しながら攻撃をしているようなのだ。つまり、骨を避けて急所を狙うような攻撃を意識してやっている。

 その理由は単純。かたい物を切ると武器が傷むからだ。

 技術がどうのこうのとか難しい話はなくとも、実際にモンスターに武器を叩きつけて武器をダメにして、そして高いお金を払うという苦い経験をして、皆が経験から学び、そうなっていく。

 つまり僕も、その勉強の最中って事になるのかな?


「……でも難しいんだよね」

 やろうと言うのは簡単だけど、実際にやってみるのは本当に難しい。

 特に僕はソロだから、武器の事を気にしている余裕をあまり持てないでいる。

 武器の事を気にする余裕があるなら、その余裕を自分の安全へと向けたい、と思ってしまう。


 僕は古武術に分類される武術を習っていた。けど、流石にそういうところまでは意識してやっていなかった。日本でも侍が現役な時代なら、敵の肌が露出している箇所や肋骨と肋骨の間を狙うような意識をしながら訓練していたかもしれないけど、現代の日本でそこまで意識して武術を習う人なんてどれだけいるのだろうか。

 結局、武器の扱いはそこそこ上手いけど実用性はイマイチ、という感じなのが今の僕の武術なのかもしれない。



◆◆◆



 朝の町を一人でブラブラと歩いていく。

 この町は名前が迷宮都市エレムとなっている事からも分かるように、ダンジョンによって成り立っている町だ。

 ダンジョンがあるからここに町が出来た。なのでダンジョンの周辺にはダンジョンに関連する店が揃っている。

 と、言っていたのは宿屋の親父だけど、実際にこうやってダンジョン周辺を歩いてみると、それは正しいのだと実感した。

 武器屋、防具屋、雑貨屋、と色々な店がそこら中に見える。

「とりあえず、どこか武器を扱ってる店に入ってみようか」

 大通りで周囲を見渡し、どこがいいかと考えた結果、無難に一番大きな店に入ってみた。

 

 店に入ると、二〇畳はありそうな店内に棚が並べてあり、壁には色々な武器や盾が掛けられているのが見えた。

 商品を観察しながら奥へと歩く。

 棚にはナイフだったり、ロープだったり、鎧だったり、よく分からないアイテムだったり、色々な物が並べてあった。どうやらこの店は色々な商品を総合的に扱っている店らしい。


 店の奥に着くとカウンターがあり、そこに二〇代半ばの男性がいた。

 とりあえず槍を調整してもらうために話しかけた。

「すみません。これを調整してもらいたいのですが」

「槍の調整ですか……」

 すると彼は少し困った顔をする。

 何か問題があるのだろうか? と考えていると、彼は言葉を続けた。

「可能ではあります。しかし当店は販売専門ですので、外注に出す事になります。その分、時間もかかりましょう。ですから、裏通りにある鍛冶屋に直接、持ち込まれる事をおすすめしますが……」

 そう言って、彼は言葉を濁した。

 あぁ、そうか。いや、確かにそうだよなぁ……。武器を売ってるからって、そこで武器を作っているとは限らない。それは日本でだって当たり前の事じゃないか。コンビニにエールが売っていても、コンビニではエールを作っていない。当然の話だ。

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