第76話 鍛冶屋とミスリル

 さっきの店の裏側。ダンジョンの西側にある裏通りにその店はあった。

 裏通りと言っても、表の大通りから一つ中の道というだけで、道幅は四メートルほどあるし、暗い雰囲気とか怪しい空気とかは感じない。人通りもそれなりにある。


 その建物は木造で、いくつかの木窓がつっかえ棒で半開きにされてあり、その奥からカンカンカンと金属を叩く音が聞こえている。

 目線を上げていくと建物の上からモクモクと出ている煙が見えた。

 そう言えばギルダンさんの店でもいつも煙が出ていたな、と何となく思い出す。


 ギシリと木製の扉を開け、店の中へと入った。

 店の中をぐるっと一周見回すと、想像していたのとは少し違っていたので少し違和感を感じた。

 まず、扉を開けて正面にはカウンターがあり、その奥には炉や金床などが見えていて、そこでは何人かの男が金属を叩いたり何かの作業をしているのが見えた。要するに鍛冶場が丸見えだったのだ。

 視線を左側に向けると、そこには剣が振り回せる程度のスペースがあり、いくつか剣や盾などが並んでいる。……いや、いくつかしか並んでいない、と言うべきなのだろうか?

 僕の中では鍛冶屋と言えばギルダンさんの鍛冶屋で、それしか知らないのだけれど、ギルダンさんのところは完成品が商品としていくつも並んでいた。でもこの店には商品が数えるほどしか置かれていない。そしてその少ない商品も簡素と言うか、飾りっ気がない。良く言えば質実剛健ではあるかもしれないけど、何だか商売っ気がないように感じてしまう。


 あぁ……いや、もしかすると、ここって鍛冶専門の店、とかなのだろうか? よく考えてみると日本の刀鍛冶だって刀の全てを自分で作るのではなく、刀の磨きや持ち手や鞘を作るのは別の職人らしいし、販売するのも別の人だろう。鍛冶屋って本来はそういうものな気がするし。


 そんな事を考えながらカウンターの方へと歩いていくと、僕に気が付いたのか、二〇歳ぐらいの青年が奥からこちらへ歩いてきた。

「いらっしゃい。何の用だい?」

「これの調整をお願いします」

 そう言いながら槍をカウンターの上に置く。

 若い店員は僕が置いた槍を手に取り、鞘を外して色々な角度から槍を確認していく。数分程度、そうやって色々と確認してから彼はこちらを見て口を開いた。

「刃先が欠けてる。刀身も少し曲がってる。……これだと銀貨三枚だな」

 うーん、高く付くなぁ……。大きなお金ではないけど、重なると痛い。ボディーブローのようにじわじわと効いてくる。しかし渋っても仕方がないので背負袋から銀貨三枚を取り出してカウンターに置く。

「まいどあり! 暫くかかるから時間潰すなり好きにしててくれ」

 そう言うと彼は槍を持って鍛冶場へと進んでいった。


 時間を潰せと言われても特に何も思い浮かばないし、とりあえず店内を見て回る事にした。

 と言っても商品の数が少ないから見れる物も限られてるんだけどね。


 まず最初に目に入ったのは、刃渡り五〇センチほどで、身幅が一五センチほどの重厚肉厚な両刃のショートソードだった。色からして材質は鉄っぽい。かなり頑丈そうで、重そうだ。ナタのように使えそうな気がするけど、それにしてもゴツすぎる。どういう用途で作られた剣なのだろうか?

 武器がその形になったのには必ず何らかの意味がある。エストックがチェーンメイルを貫くために細身になったように、この剣が分厚く頑丈に作られたのにも何か意味があるはずだ。

 この世界ではモンスターが一番身近な脅威だろうし、恐らくこの世界の武具は対モンスターを想定して進化してきたんだと思う。そしてこの町は決められたモンスターしか出現しないダンジョンというおかしな場所がある。そこから考えると、もしかしたらダンジョンのどこかに出る特定のモンスターを想定して作られた武器なのかもしれない。


 次に目にしたのは縦一メートルはあるタワーシールドだ。

 タワーシールドと言えばランクフルトでグレートボアの突進に正面から立ち向かっていったCランク冒険者の事が思い浮かぶけど、彼が持っていたのは白いタワーシールドで、これは普通に鉄と木で作られている。流石に全部が鉄だと重すぎるのかもしれない。それでも重そうだけど。

 ちょっと気になったので持ってみる事にした。

 タワーシールドに近づき、持ち手を掴んでぐいっと持ち上げる。

「……持てなくは、ないな」

 持てなくはないけど、これを持って歩き回ろうとは思わない。これを持って冒険者活動をするなんて僕には罰ゲームとしか思えない。冒険者向きの装備とは思えないけど、ここに置いてあるという事は需要はあるのだろう。……いや、需要がないから売れ残ってここにあるのかもしれないか。

 うーん、でも実際にタワーシールドを持っている冒険者を見た事あるしなぁ……。どうなのだろうか? もしかすると、レベルが上がって身体能力が上がると、これぐらい余裕で使えるのかもしれないな。


 タワーシールドを元の場所に戻す。

 次に気になったのは入り口から見て右側の壁に飾られていた剣だった。

 いや、次に気になった、と言うのは間違いかもしれない。その剣は目立つ場所に飾られていて、この店に入ってきた時から一番気になっていたのだから。

 刃渡りは七〇センチぐらい。身幅は三センチほどで、細い。細身のバスタードソードかロングソード、という感じだろうか?

 それだけならそんなに珍しくはないかもしれない。しかしその剣は他の剣とは明らかに異なっている部分があった。

 それは……。

「青い……」

 その剣に近づき、見つめながら、思わず声に出してしまう。

 その剣は、その剣の刀身は、青かった。

 青い絵の具のような青さではなく、着色されているようにも見えない。でも、青い金属。

 暫く、その不思議な青い剣に見入ってしまった。それだけの魅力がこの剣にはあった。


「それはミスリルだよ」


 その言葉に振り返ると、さっきの店員が僕の槍を持って立っていた。

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