第236話 今後の方向性とCランク
翌日。今日もレベル上げに四階に向かう。
ダンジョンのクリアを目標にすると決めたけど、まず大事なのは女神の祝福、つまりレベル上げだ。
いくらターンアンデッドで敵を倒せるといっても最低限の強さはないと危険すぎる。こちらが即死攻撃を持っているとしても相手が強すぎると相手の攻撃も僕にとっての即死攻撃になってしまう可能性があわけで、それはちょっと笑えない。
「《ターンアンデッド》」
詠唱を破棄したターンアンデッドでグールを倒す。
最終的には発動句も破棄して魔法を発動出来るようにするのが目標。とにかく迅速に、流れるように魔法を自然に発動出来るようになりたい。これもダンジョン攻略に必要な重要事項。
今のままだと複数の敵を相手にしたり強い敵を相手にすると魔法が使いにくくなる可能性があるしね。
「《ターンアンデッド》」
また一匹、グールを倒す。
さて、これからやるべきことを整理しよう。
まずはレベル上げ。どんなに最低でも六階のBランクモンスターとは普通に戦えるようになっている必要がある。それさえ無理そうならターンアンデッドがあってもダンジョンのクリアに向かう気にならない。
次に情報収集。八階と九階の情報が欲しい。どんな環境なのか、どんなモンスターが出るのか、知っているのと知らないのとではまったく違う。
それに装備の強化。今はミスリル合金カジェルを使っているけど、もっと良い武器に変えてもいいかもしれないし、防具も新調してもいいかもしれない。武器を光属性の属性武器化することも検討する必要があるけど、属性武器には該当属性以外の魔法が使いにくくなるというデメリットがあるから属性武器化するとターンアンデッドが使いにくくなる可能性があって躊躇している。
あとは強化スクロールでの武具強化。これも躊躇している。だって失敗したら消滅ってリスクが大きすぎる。これを繰り返している冒険者って本当にヤバいと思う。
「そこまで色々とやって、後は運を天に任せる感じになる、か……」
冷静に考えてみるとかなりのギャンブル。リスクはかなり高い。
そこまでする必要があるのだろうか?
冷静な頭が導き出す答えは『NO!』なのだけど……それでも今は目指してみたいという気持ちが強い。勿論、無難に生きることも出来るけど、やっぱりこんなファンタジー世界に来たのだから色々とやってみたいし世界を見てみたい。もっとワクワクする冒険をしてみたい。だからこそ僕はこうやって流浪の旅に出ているのだから。
「とりあえず、やれるだけやってみるさ」
◆◆◆
それから数日間レベル上げを繰り返し、遂に女神の祝福の回数が二一回になった。シオンも九回目の女神の祝福を得ていて順調に成長している。
そしていつものように五階を後にし、地上を目指す。
四階を抜けて三階野営地で野営。翌日にアルッポの町に辿り着いた。
町はいつもと変わりなく、冒険者がそこら中を闊歩し、黒いローブを着てフードを深く被った錬金術師がたまに歩いていたりする。今日は上等な金属鎧を着ている男達が多い気もするけど、気のせいかもしれない。
冒険者ギルドに入りギルドカードと一緒に魔石を差し出すと、受付嬢がジャラジャラと魔石を確認した後、僕のギルドカードと手元にある紙を交互に確認して少し驚いた顔をした。
「あっ! ランクアップです! ギルドカードの更新をしますので少しお時間をいただきますね」
「はい」
受付嬢は僕のギルドカードを持って席を立つと、奥の席に座って書類とにらめっこしていた中年男性になにやら話しかけた。するとその男性が僕のギルドカードを受け取り、銀色に輝くカードとハンマーなどの道具を机から取り出し、僕のギルドカードを見ながら銀色のカードになにかをトンテンカンテンと刻印し始めた。
僕の名前とかの情報を彫っているのだろうか?
「それでは先にこちらを渡しておきますね。全部で金貨二〇枚と銀貨一枚です」
前より若干増えている。誤差の範疇だけど、レベルアップで魔力が増え、効率が良くなってきたので少しずつ狩れる数が増えているおかげだと思う。
「もう少々、お待ちください。今、新しいギルドカードを作っていますので」
「分かりました」
特にやることもないので、トントントンとハンマーを振るう男性を観察する。
ここからではよく見えないけど、僕の名前が彫られている中央部分だけでなく外側に彫られた模様の部分にも手を入れているように見える。
暫くすると男性が受付嬢を呼び、銀色のカードを手渡した。受付嬢はそれをこちらに持ってくる。
「はい。おめでとうございます! Cランクのギルドカードです!」
「ありがとうございます!」
こうして僕はCランクに昇格した。
いや~長かった! けど『長かった』と言うのは失礼なのかもしれない。僕は一年もかからずにここまで来たけど、ほとんどの冒険者は長い年月をかけてCランクまでしか上がらないのだから。
前にダムドさんが言っていたように、多くの冒険者は安定的な狩りをしていると一年に数回しか女神の祝福を得られない。それで何年もかかってランクを上げるけど、その頃には年齢もそれなりで家族も出来ていたりするから、リスクを取ってまで上は無理に目指したりはしなくなってしまう。なので冒険者はCランクDランクあたりが一番多いらしい。
でもCランクになると一人前と考えられているらしく、やっぱりちょっと嬉しいものがある。
「そのギルドカードは銀製ですから製造費用もかなりかかっています。もし紛失された場合、私に申告していただければ金貨一〇枚で再発行させていただきますが、出来る限りなくさないように気を付けてくださいね」
「金貨一〇枚! それは気を付けないと……。いや、そもそも再発行って可能なんですか?」
この世界のギルドカードはただの板に情報を刻印しているだけのモノのはず。冒険者の情報を一元管理するようなシステムは当然ないはずだし、写真みたいなモノもないから冒険者を特定するなんてかなり難しいはず。
いきなりギルドカードの再発行を求めたとして、その人物が本人かどうかを判断することは難しいはず。
だからこそ南の村で発行したギルドカードを捨て、アルノルンで新しいギルドカードを発行出来たのだと思っていたのだけど……。
「はい。どこでも可能ではありませんが、ルークさんの場合は『私に』申告していただければ再発行可能です。私はルークさんのことを覚えましたから」
「あぁ、そういう……」
つまりアレだ……。
THE人力!
冒険者ギルドの受付嬢ってかなり大変な仕事なんだなぁ……。
「勿論、全ての冒険者さんの情報を覚えているわけではないですよ。目立つ冒険者さんとランクの高い方だけです。ルークさんはここの冒険者ギルドでは有名ですからね。若いのにCランクの魔石を大量に持ってこられていますから」
「なるほど……」
「でも再発行が可能なのはこのアルッポの冒険者ギルドだけですから注意してくださいね。Bランクになると冒険者の情報を近隣の冒険者ギルドと共有いたしますから、そうなれば他の冒険者ギルドでも再発行出来る可能性はあります」
う~ん……『可能性』ね。文章かなにかで冒険者の情報を共有するのだろうけど、結局は文章での情報だから本人と断定するには少し弱い、という感じだろうか。
現代日本のように、生まれた時から登録される戸籍情報と、指紋、DNA、歯型などがあれば本人の特定は可能なんだろうけど、この世界にそんなハイテクがあるはずがないしね。
「もし、ギルドカードをなくして、本人確認が出来ずに再発行が出来ない場合はどうすればいいですか?」
「それは……再登録されるしかないと思いますね」
「また最初から、ということですか?」
「勿論、そうなりますね」
厳しい……。でも仕方ないのだろうね。他に方法がないのだから。
しかしこうなると、やっぱりランクを上げてそこそこ目立っていくのも必要だと思えてくる。
以前、高級武具屋で入店拒否された時もBランクが基準だったし、一般的な冒険者はCランクまでという話も聞いたし、やっぱりBランクというところが一つのラインなのだろう。簡単に言うと『凄い冒険者』と『普通の冒険者』のラインがそこなのだ。
とりあえずBランクにはなっておいた方がいい感じはする。Bに昇れるかどうかで扱いが天と地の差があるようなイメージ。まぁここのギルドでは上げられないから当面先になるけど。
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