第218話 新武器実装
それから暫く冒険者達から情報収集した後、冒険者ギルドを出た。
餅は餅屋ではないけど、現地の話は現地の人に聞くのが一番良い。この地に住む冒険者にしか聞けない情報を沢山教えてもらえた。
冒険者ギルドから大通りを南へ向かい、最初の角を左に曲がる。すると目的の店が見えてきた。そう、鍛冶屋だ。
店の外からでも聞こえてくる金属を打つ音。屋根から上がる白い煙。
この店は冒険者達に紹介してもらった。
腕も良く、金属の質も比較的良く、過度な装飾を好まず実用的な装備品を作る店で、ミドルクラスの冒険者が通う店らしい。
店の扉を開けると、扉の上の鈴がカラカラと音を立てる。店の中は、扉の向かい側にカウンターがあり中年の男が店番をしていて、左手側に武具が陳列されていた。
「少し見せてもらっても?」
「好きにしな」
男はそう言って親指で陳列エリアを指した。
それに軽く頷き、端から武具を見ていく。
とりあえず目の前にあった剣を手に取り、鞘から引き抜いて観察する。
剣身はキレイで歪みもなく、装飾も飾り彫りもないシンプルなショートソード。これだけ見ても、この店が目指す方向性が分かるというものだ。
剣を鞘に戻し、他の武器を見ながら考える。
さて、どんな武器を買うべきだろうか。
例の白い世界で見た僕の武器の適性は刺突か打撃で柄が長い武器だったと思う。その中で考えると槍が一番適しているように感じ、これまでは槍を使ってきたけど、冒険者ギルドでは鈍器を勧められたし長柄の打撃武器もいいと思う。
それと出来れば魔法武器か属性武器が欲しい。一応、闇水晶の短剣も属性武器だけど、闇属性だからアンデッドとの相性は最悪。出来れば光属性が欲しいのだけど――と、考えたところで止まる。
確かに光属性はアンデッドに有効らしいけど、そもそも僕に適した属性は光なのだろうか?
いや、間違いなく光属性に適性はあるのだけど、それよりも聖属性、神聖属性という属性の方が合っている気がする。でも、聖属性の武具って存在しているの? と、考えて思い出したけど、勇者が持つ武器は聖剣と噂されているので存在はしているのだろう。しかし逆に言えば伝説上の武具とかでしか聖属性武具は存在していない気もする。
それにだ。属性武具は魔結晶を錬金術で武具と融合させることで作られる。だとすると、聖属性の武具を作るには聖属性の魔結晶が必要になるはずだけど、モンスターの体内から聖属性の魔結晶が見付かるイメージが湧かない。……いや、そう考えると光属性もそうだし。そもそも聖属性の魔結晶という物質がこの世に存在しているのかすら分からない話なんだけども。
う~ん……やっぱり聖石では属性武具は作れない、よね? 六属性魔法の魔石に相当するモノが神聖魔法の聖石だと思うしさ。
それらは検証しなければ答えは出ないけど、検証するために錬金術師に協力してもらうのも難しい。言えない話が多すぎるからだ。つまり検証するにしても聖属性の武具を手に入れるにも、現状は自分で錬金術を覚えるしか思いつかない。でも覚えるとはいってもそんな一朝一夕で出来る話ではないし、まず錬金術を教えてくれる場所がない。
「……いや、錬金術師ギルドで教本を売ってたか」
それを読めば、もしかすると錬金術を覚えられるかもしれないけど、あの受付嬢の宣伝文句が怪しすぎてちょっと信用出来ないし、金貨三〇枚では少し躊躇してしまう。今はとりあえず保留かな。
「すみません。ここでは魔法武器とか属性武器は取り扱ってます?」
「置いてねぇな」
う~ん、それは残念。でも、錬金術師を探して、前回、闇水晶の短剣を属性武器化してもらった時のように魔結晶を渡して作ってもらえば安く作ってもらえるはず。以前、手に入れたDランクとBランクの光魔結晶がまだ残っているし。
「じゃあ打撃武器でオススメってあります? ダンジョンで使いたいので」
「おお! それならとっておきがあるぞ!」
そういって男は横の棚をゴソゴソと探り、一本の武器をゴトンとカウンターに置いた。
長さは七〇センチぐらい。形状はバットに近いけど、バットよりも太くて円錐状の棘がいくつもついており、全体が黒く着色されていた。
これは……。
「こいつはオーガメイスだ! 全体を鉄で作り、耐久性と破壊力を上げた自信作だぜ! 以前オーガが持ってた棍棒を参考に作ったんだ」
手に取り確かめてみる。
うん……ちょっと重すぎるね。確かに破壊力はありそうだけど、持ち運びが大変すぎる。
それに、これ持って鬼ヶ島にいたら桃太郎に虐殺されそうな見た目も良くない。
「もっと魔法との相性が良くて長い武器が欲しいです。ミスリル製とか」
「ちょっと待ってろ」
男はカウンターを出てきて陳列エリアから一本の青白い六角形の棒を持ってきた。
「これはミスリル合金カジェルだ。鉄にミスリルを混ぜてるから軽くて魔力の通りは良い方だし耐久力も高い。簡単に歪んだりはしねぇし錆ねぇぞ」
男からその棒を受け取り、チェックしていく。
長さは二メートルぐらいで前に使っていた槍と同程度。重さは当然ながら槍より重いが許容範囲。ミスリルは軽いという噂は聞いていたけど本当らしい。
ミスリル合金カジェルに魔力を流してみると、予想以上にスッと浸透して軽く驚いてしまう。樫の杖よりは若干劣るけど十分だ。
「これ、いくらです?」
「金貨一〇〇」
「……合金でしょ? ちょっと高すぎません?」
「おいおい、バカ言っちゃいけねぇ。確かに合金だが使う金属の量を考えてみろよ、大安売りだぞ」
あぁ……確かにそうかも。槍は穂先の部分だけが金属だし、剣でもこれよりはかなり少ない金属量で作れる。これは全体が金属だから必然的に使う金属の量が多くなってしまい、値段が跳ね上がるのだろう。
そう考えれば妥当な価格かもしれない。
そうこう考えていると、男は「だから売れねぇんだけどな」と小さくつぶやいた。
おいおい、本音が漏れてるじゃないの。
まぁ、確かにこの武器は期待出来る能力に大して価格が高すぎるんだよね。
普通の人にとっては。
「買った」
「おぉ! マジかよ! ありがてぇ!」
僕にとっては十分、実用的だし、まさに今の僕が求めていたモノだと思う。金貨一〇〇枚は大きいけど、それだけのリターンはある!
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