第94話 あれこれと、新たなる……
「……ア……ア」
「《ライトボール》」
振り向きざまに放ったライトボールがゴーストを捉え、ボンッと軽く爆発する。
爆発に巻き込まれたゴーストは魔石を残して消えていった。
「ふぅ」
やっぱり何度戦ってもゴーストには慣れないな、と思いながら地面に落ちた魔石と木製のマグカップを拾う。
今日も今日とてダンジョンに潜り、二〇階でモンスターを狩り、ドロップアイテムを漁る日々が続いている。
あれから幾日かの時が過ぎたけど僕の毎日は変わっていない。変わったのは定期的にリゼを呼ぶようになった事だろうか。流石に毎日は呼べないけど、時間を見て数日に一度は呼ぶようにしている。
そうやってまたリゼを呼ぶようになって実感したけど、やっぱり僕の中で彼女と一緒にいる時間は凄く重要だった。上手くは言えないけど精神的に安定したような感じがするのだ。
しかし、それは彼女を最初に呼んだ頃に感じていた事で……。僕はその事をすっかり忘れてしまっていた。忘れてしまうほどダンジョンにのめり込んでいた。
もしかすると僕は彼女の事を、都合良く癒しを与えてくれるナニカだと無意識に考えていたのかもしれない。僕が召喚魔法で呼んだのだから、と都合良く。
「そう考えると、ちょっと自分が嫌になるな……」
何だか心の中の見えない場所からジワリと罪悪感が湧いてくる。
それを振り切るように頭を振り、また歩き始めた。
「そうだ、次は何か甘い物でも用意しておこうか」
妖精って甘いスイーツとかが好きなイメージがあるよね。……というか、彼女にお菓子をあげるとか、今までそんな事を考えた事もなかった……。いや、それ以前に、罪悪感を消し去るために物で何とかしようという考え方がダメダメすぎて嫌だ……。
「……まぁ仕方がない。それが今の僕なんだ」
まず、気付く事が重要なんだ。
気付いて、ダメだと思うなら努力して変えていけばいい。
気付かない事がダメだし。気付いても変えようとしない事はもっとダメなのだから。
◆◆◆
地図を見ながら静寂と闇が支配する空間にコツコツと足音を響かせながら歩き続ける。
暫く歩くと、光源の魔法の光に照らされ、通路の左側に木製の扉が出現した。
ダンジョンの中には大小様々の部屋がある。中には何もなかったり、モンスターがいたりと様々だ。このダンジョンではそういう部屋をトイレ代わりに使ったり、寝泊まりしたりしているらしい。
トイレ代わりに関しては、ダンジョン内に何か物を放置しても一定時間後にダンジョンに吸収されるので、排泄物を放置していても問題はない。
ダンジョンの部屋で寝泊まりするのは主にお金が稼げなかった低ランク冒険者と、深い階層に潜っている高ランク冒険者だ。モンスターは基本的に人の近くには出現しないらしく、部屋の中に誰かがいれば、その部屋内にはモンスターは湧かないから安全らしい。
扉を押し開けて中に入る。
この二〇階は人などほとんど来ない場所。当然、排泄中の冒険者もいなければ寝ている冒険者もいない。
ここにいるのは――
「……ア……ア……」
――勿論、モンスターだ。
部屋の中にはスケルトンとゴーストがいた。
それを確認した瞬間、ダッシュでスケルトンとの距離を詰めながら呪文を詠唱する。
「神聖なる炎よ、その静寂をここに《ホーリーファイア》」
白い火の玉をスケルトンに放ち、着弾と同時に「
聖なる炎がスケルトンを中心に広がり、スケルトンを燃やしていく。そしてその白い炎を見て怯んでいるゴーストに向かって走りつつ次の呪文を放つ。
「不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」
僕の右手のから放たれた輝くオーラがゴーストを包み、その体を白い煙へと変えていった。
辺りにまた静寂が訪れる。
以前は一番魔力効率の良いライトボールをゴーストに使って、スケルトンは石突で叩き潰していた。それが一番効率が良かったからね。でも、同じ戦い方ばかりでは訓練にならないし、別の魔法も実戦で使ってないと必要な時にもたつくようになるかもしれないし。最近は色々な戦い方、色々な魔法を実戦で試してみる事にしている。
「……ん?」
僕の足元。ゴーストが消えた場所を見てみると――
――濃い青色の本が落ちていた。
「お、おおお?」
その本を拾い上げると、手にいつもの感覚があった。これは、間違いなく神聖魔法の魔法書だ。
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