第93話 その悲しみはモテない理由

 しかし、少し気になった事がある。この際だから彼女に聞いておこう。


「すみません。ランクアップの条件って具体的にどんなものなのですか?」

 僕がEランクになってから三ヶ月程だろうか。その間には色々なモンスターを倒したし、たまには依頼を受けたりもした。でも、この町に来てからはほとんど魔石の売却しかしていない。いったい何がランクアップに繋がったのか不明瞭だし。そもそも、馬車で数日の距離があるランクフルトでの僕の実績が加味されているのかがまず怪しい。

 このギルドカードは、ぶっちゃけただの銅板だ。何かの情報を記憶しておくような機能はないはず。ギルドカードを一通り観察してみても何かの情報を記入しているような痕跡は見られない。つまり冒険者の実績は、その冒険者が仕事をした町のギルドにしか残ってない可能性がある。


「そうですね……詳しい数値についてはお答え出来ませんが、このギルドでは主に持ち込まれた魔石の質と量によって冒険者ランクを決めておりますね」

「このギルドでは?」

「はい。地域によってモンスターも違いますので、町ごとに条件は異なります。ただ、一定以上のランクになると条件はほぼ共通ですし、一部のギルドでしかランクアップ出来ません。ちなみにここのギルドではCランクまでなので、Bランクからはギルドマスターの推薦状を持って王都に行ってもらう事になります」

 なるほど。何となくギルドランクのシステムが見えてきた気がする。

 つまり低ランクに関しては、その地域のギルドマスターに裁量権を与えているけど、高ランクは本部がしっかりと管理しているのだろう。

 嫌な話になるけど、ギルド職員が冒険者と癒着したり、権力者からのゴリ押しや、身内びいきなど、何らかの理由でランクアップ基準が甘くなる事はあり得るだろう。でもそれを完全に排除するのは難しいだろうし、管理するコストもバカにならない。なのでCランクまでは見逃してやるけど、Bからは見逃さないぞ、という感じだろうか?


「それともう一つ聞きたいのですが。別の町での実績はこのランクアップに加味されていますか?」

「別の町のですか? 基本的には別の町の情報を取り寄せる事はありませんね」

 なるほどなぁ……。やっぱり他の町の実績は加味されてないか。そりゃまぁ、何人いるのかわからない低ランク冒険者の情報なんていちいち調べてられないか。

 つまり、ランクを上げたい場合は同じ町で頑張り続けるしかないのかな。



◆◆◆



 いつもの宿で部屋を取り、夕食を食べてから部屋に入る。

「あー……」

 そしてそのままベッドへと倒れ込んだ。

 今日は何だか疲れてしまった。何だよ、あのゴーストって奴は、怖すぎでしょ。あれには体力も削られたけど精神もガリガリと削られてしまったよ……。

 枕に抱きつきながら、明日からもアレの相手をしていくのか、という考えで頭の中が一杯になった。


「あーそうだ、久しぶりに癒やしを……」

 そう、今の僕には癒やしが必要なのだ……。

 体を起こしてベッドに座り、背負袋から聖石を取り出し呪文を詠唱する。

「わが呼び声に答え、道を示せ《サモンフェアリー》」

 聖石が僕の手の中で派手に崩壊しながら輝きを放ち、そしていつものようにリゼロッテが現れた。


「……」

「?」

 しかしリゼの様子がいつもとは違う。

 天真爛漫に笑う彼女の姿はそこにはなく――その顔は怖いほどに無表情だった。

「……何で」

「えっ?」

「何で! 呼んでくれないの!?」

「……えっ? ……あぁっ!」

 リゼはそう言うと、無表情だった顔をくしゃりと歪ませて「うえぇぇ~ん」と涙を流した。


 ……やってしまった。

 ダンジョンに潜り始めてからずっと、忙しくて一度もリゼを呼び出してなかったのだ。

 彼女には彼女の世界があって、そっちには家族もいて友達もいて、僕のいない普通の生活があるんだろうと思った。

 僕なんていなくても、彼女は何も変わらないのだろうと思った。

 リゼの話を聞く限り、妖精の世界はメルヘンチックで……リゼもそっちで楽しく過ごしているのだろうと思った。

 でも――


「リゼ……ごめんね。ちょっとお仕事が忙しくて呼べなかったんだ……」

 あぁ、違う。僕は何でこんな月並みな言い訳をしているのだろう。僕が言うべき事はこれではない気がする。いや、絶対に違う。そんな事が言いたいんじゃないんだ。

 それに忙しくて呼べなかったなんて嘘だ。忙しくても呼ぼうと思えば呼べたはずなんだ。

「わた……し、嫌われちゃった、っぐ……のか……と思、って」

「ごめんね。嫌いになったりなんてしてないからね」

 そう言って、そっと彼女を胸に抱きしめる。

「ほん、と? 本当に、嫌いになってない?」

「うん、本当だよ」

 僕がそう言うと、リゼは僕の手の中でこちらを見上げ、やっといつもの笑顔を見せてくれた。


 あぁ……夢中になれるモノを見付けたら他が見えなくなる悪癖は、早いとこ直すべきだな……。

 まったく……こんなだから女の子にモテないんだよね……。

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