第92話 Dランクへ

「これはDランクの闇魔結晶ですね。現在の買取価格は金貨六枚となっております」

 ギルドの受付嬢は木の板に空いた穴に黒い魔石をはめこんで大きさを確かめてからそう言った。


 あれからダンジョンを出て、いつものように素材を売ってから冒険者ギルドで魔石を換金し、そして例の黒い魔石を受付嬢に見せたらこう言われたのだ。

 その結果としては……まぁ予想通りと言っていいかな。黒い色の魔石だから闇属性の魔結晶だと想像してたけど、合ってるみたいだしね。でも買取価格は予想していたより多くてちょっとびっくりしたかもしれない。

 などと考えていると、僕が沈黙しているのを見た受付嬢が言葉を続ける。

「闇属性系統のモンスターは数も多く、闇魔結晶は比較的出やすいです。それに魔結晶は、ある程度の力があるモンスターからしかほぼ出ませんので、魔結晶の中ではこのDランク魔結晶が実質的に最下級となっています。この町はダンジョンもありますから魔結晶は出やすいですし買取価格としては妥当だと思いますが……」

 あぁ……暫く考えを巡らせていたのを変に勘違いされたかもしれない。

 慌てて買取価格はそれで問題ない事を伝えて闇魔結晶を売った。

 闇魔結晶は何だか中二心をくすぐる面白そうなアイテムな予感がするのでストックしておこうかとも思ったけど、やめておいた。これがゲームなら後々使えそうなアイテムは絶対に売らずに残しておくし、最高の回復アイテムは使うのがもったいなくて最後まで使わずに道具袋の奥に残したままクリアするのが僕のスタイルだけど、現実にはそうはいかない。持ち歩けるアイテム量に限りはあるし、この世界にはなどの便利なモノは存在していないのだから。


 お金を受け取ったし、さて宿に帰ろうかと歩き始めた瞬間、受付嬢から呼び止められた。

「あっ! ルークさん、条件を満たしていました。Dランクに昇格となりますので、もう一度ギルドカードを提出して下さい」

「えっ、あっはい」

 受付嬢にそう言われて反射的にギルドカードを出してしまう。


 しかし、やっとDランクか、長かったなぁ……と一瞬思いかけたけど、よく考えたら僕はまだ登録して数ヶ月だし十二分に早い気がする。それに僕が直接関わったDランク冒険者といえばダンを真っ先に思い出すけど、彼は確か一九歳だったはずだし、エレムのダンジョンの中で僕が狩りをしている階層にいる冒険者達も今の僕より年上っぽい人ばっかりだ。やっぱり僕の成長速度は一般人に比べるとかなり早く感じる。

 しかしそれで天狗になってはいけない。

 成長速度が早いというのは、あくまでも一般的な冒険者と比べた場合の話だ。どの世界にも常人の域を超えた天才はいる。その彼らと比べた場合、どうなのか。それはまだ何とも言えないのだから。

 それに少なくとも僕は、僕と同条件でこの世界に来た転生者が一〇〇人ほど存在している事を知っている。僕だけが特別ではないのだ。その事は忘れるべきではない。


 僕がそうやって色々と考えている間に受付嬢は引き出しを開けて何やらゴソゴソと探り、中から木槌と鉄製の金具を二つ取り出した。

 そして机に置いてある僕のギルドカードのEと掘られている部分に鉄製の金具を押し当て、上から木槌でゴンゴンゴンと叩いた。そして次はもう一つの鉄製の金具を持ち、Eと掘られていた場所の横のスペースに押し当て、またゴンゴンゴンと力強く叩く。

 受付嬢は「ふ~……」と息を吐きながら僕のギルドカードを軽く確認した後、「はい、出来ましたよ」と言いながらテーブルの上に置いた。


 ギルドカードを手に取る。

 Eと彫り込まれていた部分の上から×の印が彫り込まれ、その隣にDの文字が彫り込まれていた。

 うーん、この……。まぁダンのギルドカードを見てたから、こうなる事は分かっていたんだけど……。何だか適当な気がするんだよね……。というか、これってやろうと思えば偽造出来るよね。☓印入れてDを彫り込むだけだし。それ以前に材質が銅だからギルドカード自体の偽造も可能だろうし。

 まぁ恐らく、技術的に偽造を防ぐのが難しいってのもあるのだろうけど、Dランクの冒険者の存在がその程度のモノなのなのかな、とも思った。Dランク程度の有象無象にギルドカードを偽造する不正者が混じっていても大した問題ではない、と考えているのかもしれない。

 冒険者ギルドのランクというモノは所詮ただの一基準でしかないのだから。それはランクフルトでコネがないと護衛の仕事が得られなかった事からも明白。

 結局、自分で名を上げて、力を持つ人と顔を繋いで信用を得ないといけないのだ。

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