第2話 ゲーム仲間

 彼が消えてから数秒経って「ふぅ……」と息を吐き、そして一瞬で下半身に戻った感覚に戸惑い、たたらを踏んだ。

 どうやら声が出せるようになり、足も動かせるようになったみたいだ。


 軽く目をつぶって“彼”の事を思い出してみる。

 彼は必要最低限……いや、必要最低限以下の内容しか語らなかったが、彼がどういう存在なのかは理解させられたし、自分達が置かれている状況も理解させられた。

 とにかく今すぐに確認するべき事は二つだろう。まずは周囲の確認。そして彼が“それを見るがいい”と言った時に現れたもの。僕の目の前に浮かんでいて、僕の動きに合わせて付いてくる半透明の板のようなものの確認だ。

 キョロキョロと周囲を確認する。

 足が動かなかった時はわからなかったが、真っ白い空間には一〇〇人以上の人がいた。それぞれ均等に並んでいるのではなく、何人かずつでまとまっているようだ。

 この真っ白い空間には人以外には何も見えない。何か確認する必要があるとすれば“人”しかないはずだし、この固まっているグループに何か意味があるのだろう。


 改めて自分の周囲にいる者達を確認してみる。

 僕の周囲にいたのは六名。一人目は背が高いガッチリした三〇歳前後に見える男性。二人目は金髪でチャラそうなイケメン。三人目は一〇代に見えるツインテールの小柄な女の子。四人目は中肉中背の中年。五人目は太り気味でメガネをかけた二〇代の男性。皆それぞれ互いに相手を確認しあって困惑した表情を浮かべている。恐らく僕も似たような表情だろう。

 うん、何というかね……。これは……誰なんだ?

 はっきり言って会った記憶がない。誰なのかまったくわからない。


「少しいいかな」


 一人目の背の高い男性が皆に話しかけてきた。

「このまま黙ってても仕方がない。とりあえず、お互いに自己紹介しないか」

 彼は皆にそう提案する。

 しかし、それを遮るように横からイケメンの男性が喋り出す。

「いや、ちょっと待った。その声、もしかして“マサ”じゃないのか?」

 周囲からも「そう言えば」と納得したような声が上がる。

 この言葉に僕も何となく理解した。

「あぁ……つまり、君は“たぬポン”、という事でいいのかな?」

「そ、たぬポン、で合ってるよ。そんでもって、そこの女の子がカノンだろ? 太ってるメガネはヲタで、そっちのパッとしないのがビショップ……か? あとはそこのオッサンが……エルフマン?」

 と言いながら全員の顔を見回す。


「パッとしないの、って……」

 僕の見た目の評価はそれなのか……。

 しかしこんな所に来てもこの人は変わらないな、と苦笑いで軽く手を上げて肯定してると、僕の横から“ヲタ”と呼ばれた彼が怒りの声を上げた。

「だ~か~らー!僕の名前はりっちゃんLOVEだっていつも言ってんだろ! ヲタなんて名前じゃないって!」

「だってさ、それ長すぎて呼びにくいし。そもそもLOVEの前の名前が定期的に変わるじゃん。この前まではハルちゃんLOVEだったし、その前はちーちゃんLOVEだろ? 面倒だしもうヲタでいいじゃん」

「よくないんだよ! いいか、りっちゃんってのはな――」

 いつもの掛け合いに自然と笑顔になってしまう。何となく肩の力が抜けたような気がする。どうやまだら少し緊張していたみたいだ。

 横から、「我の名前もエルフマンではなくヘンリク・ストロンバス三世なのだが」という声が聞こえた気がするが、これ以上は収拾が付かなくなりそうなので、とりあえず無視しておいた。


「そこまでだ。とりあえず今は時間がないんだ。ここにいるのが暁の九人のメンバーであるなら話は早い。今は早急に話し合う必要がある」


 リーダーのマサさんがさっくりと場をまとめた。

“暁の九人”。それはMMORPGリスタージュにあるクランの名だ。マサさんによって設立され、リーダーのマサさんがナイトでタンク、たぬポンがグラップラーで物理アタッカー、カノンがウィザードで魔法アタッカー、エルフマンがレンジャーでデバッファー、ヲタ君がウォーロックでバッファー。そして僕、ビショップがプリーストでヒーラーだった。

 分かりにくいかもしれないけど、ビショップがキャラネームでプリーストが職業、役割がヒーラーだ。

 そして、いつもはボイスチャットで会話していたため、声は知っているけど顔は知らなかった。つまりはそういう事だ。

 ちなみに、九人とあるがメンバーも九人というわけではない。某アイドルグループが四八と数字が付いてても四八人ではないのと同じ理屈である。


「それでマサさん。時間がないって何か問題でもあるの?」

 と聞いたのは、この場で唯一の女性であるカノン。

 いつもは明るい彼女も少し口数が少ない。この状況の異常さもそうだけど、いつもボイスチャットで話してる僕達もリアルで会うのはこれが初めてのはずだし、女性である彼女が緊張しないわけがない。

 まぁまずこのよくわからない状況が本当にリアルなのかどうなのか、難しいところだと思うけど。


「そうだな。とりあえず目の前に浮かんでいる半透明の板というか、ゲームのウィンドウ画面みたいなこれの左上の部分を見てほしい。いやその前に、これは皆の目の前にもちゃんと浮いてるか? 目線からして大丈夫だとは思うが、どうも他者の板は見えないようでな」

 マサさんが言う左上の部分をよく見てみる。そこには1―49―15と書かれている。そして次の瞬間には1―49―14に変化した。

 つまりこれは……。

「理解出来たか? これは時間、時計……何かしらのタイムリミットだと考えるのが妥当だと私は思う。であるならば、この時間内に何かをする必要があるはずだし、今はこの時間を有効に使うべきだ」

 マサさんの声を聞きながら、皆それぞれ半透明の板を触ってみたりしている。

 この板――ややこしいのでウィンドウと呼ぶ事にするけど――これに書かれてあるものは、〈アバター〉〈アビリティ〉〈アイテム〉〈転生〉と、上部にある〈SP100〉の文字と左上の時間だけ。普通に考えるなら、ゲームのようにキャラクターを作成し、〈転生〉で文字通り何処かへ転生しろという事だろう。

〈アバター〉の文字に軽く触れてみる。すると、全ての文字が消え、デフォルメされた僕の全身図と色々な項目が表示されるようになった。


「とりあえず〈転生〉の文字にはギリギリまで触れないほうがいい。あの男の態度からして、親切な設計になっているとは思えないからな。触った瞬間、有無を言わさず転生させられる可能性もありえる」

 その声にたぬポンがビクッとして手を引っ込める。

 何も考えずに触ろうとしたようだ。

 マサさんはそれをちらっと見た後、言葉を続ける。

「簡単に調べた感じ、ゲームでよくあるキャラクターメイキングみたいな事が出来るようだ。要するに時間内に話し合ってキャラクターを作ってどこかの世界に転生しろという事なんだろう。――そこでだ」

 マサさんは一旦言葉を切り、全員の顔を見回してから続ける。


「こんな場所で一緒になってるのも何かの縁だ。知らない仲でもないし、リスタージュの時みたいに一緒にやらないか?」

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