極振り拒否して手探りスタート! 特化しないヒーラー、仲間と別れて旅に出る

刻一(こくいち)

ヒーラーの旅立ち編

白い世界とヒーラー

第1話 目覚め

「……ぅん……んん?」


 気がついたその瞬間、霧が晴れるように頭の中からモヤが取り除かれ、まどろみの中から一瞬で覚醒した。

 パッと目を開けるとそこは一面の白い世界。白い地面だけがそこにあり、果ての見えない白い空が白い地面と接していた。周囲を見渡すと何人もの人が立っていて、そして僕も同じようにそこに立っている。


「いったい何が……」


 と、後ろを確認するために振り返ろうとして異変に気付く。足が動かない。

 首は動く。手も動く。胴体をひねる事も出来る。しかし腰から下が何かに固定されているように動かない。

 自分の体をよく見ると、歴史の授業で習った縄文時代の服のような白い貫頭衣を着ていた。


「な、何が起こってるの?」

「何だこれは!」

「クソッ! 何故動かないんだ!」

「だっ誰か! 助けてくれ!」


 周囲の人々も異変に気付いたようで、足を動かそうと力を込めたり、叫んだり、半ばパニックになりかけている。

 理解の範疇を超える状況に、僕の中にもジワリジワリと得体の知れない焦りが蓄積し、吐き気と共に思考が定まらなくなる。

 くそっ! 何で動かないんだ!

 ダメだ、落ち着け。周囲に飲まれてパニックになっちゃダメだ。

 そう思えば思うほどに焦燥感が膨らんで、気分が悪くなる。

 何がなんだかわけも分からず、自然と何か言葉を発しようと口を開けようとした瞬間、周囲に静かに声が響いた。


「静まれ」


 その声は決して大きな声ではなく、本来ならこの騒がしい場に通るはずのない声。

 しかしその声は静かに響き渡り、僕の中にスッと入りこみ、まるで魂に直接響いたかのようにスッと吸収された。

 その瞬間、僕の中にあった焦燥感が霧が晴れるように消え、むしろ逆に晴天のような心地良ささえ感じた。


 辺りを静寂が包む。

 何故、誰も声を出さないのか、理解は出来ないが理解している。僕自身、声を発しようとは思わないからだ。恐らくこの場にいる全員がそう理解しているのだろう。

 僕は声がした方向を見た。

 いや、僕だけでなく全員がその方向を見ているはずだ。

 そこには四〇代から五〇代ぐらいの男がいた。

 魔術師のような白いローブから出た顔は精悍で顎には髭を蓄えており、手には彼の背丈ほどもある木製の杖を持っていた。

 彼は周囲を無表情で見渡すと、淡々と語り始める。


「これからお前達が行くのはテスラだ。使命ある者は使命を果たせ。仔細についてはそれを見るがいい。その前に、まずは周囲を確認する事だ。あとは好きにせよ」


 そう、要点だけ淡々と語るだけ語った瞬間、彼はその場からいなくなっていた。

 彼がいつその場に現れたのか。そしていつ消えたのか。僕も含め、その場にいる誰もが認識出来なかったはずだ。

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