第21話★酒場で情報収集と強化スクロールの話


★今回のお話に少し関連する新作『とある作者の執筆日記』を同時にアップロードしました。

 さらに、またそれに関連するお話も『深夜、コンビニ、探訪録』の方に更新しました。

 よろしければ見ていって下さい。





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「つまりな、初心者のダンジョンってのはな、クリアした者の適性に合った何かを一度だけくれるわけだ。勿論、そこそこ良い、ってぐらいのモンだからよ、凄いってわけじゃねぇがな。それでもヒヨッコにはありがてぇアイテムのはずだぜ。大魔法使いの坊主」

 と言うハンスさんのありがたいお言葉で、早速、謎が解けた。

 ちなみにハンスさんは昨日この場所で知り合った冒険者で、“俺も若い頃は◯◯だった”という話が持ちネタの中年冒険者である。


「おい、聞こえてんぞ」


「まぁそれは良いとして。じゃあ他の人ってどんな物を貰ってるんです? ハンスさんは何を貰いました?」

「お前、あからさまに話変えやがったな……。まあいい。槍を貰った奴もいりゃあ魔法書を貰った奴もいる。俺は剣だったな。鋼のな」

 昨日、散々からかわれた仕返しに軽口を叩いてみるも、何だかんだ言いながらもハンスさんは答えてくれる。

 なるほど。それなら納得か。ダンジョンが僕に一番適性があるカテゴリの物を選んだ。それだけだ。不思議な話ではあるけど、この世界にはこういう事もあるんだろう。


「じゃあ今ハンスさんが持ってる剣がその時の剣なんですか?」

「バカ言うな。んなもん何年前だと思ってやがる。あの時の剣なんざとっくに燃やしちまっとるわ」

 んん? 何か違和感がある。剣を燃やした? 何かおかしな言い回しだ。何かの隠語なんだろうか。

「ハンスさん、剣を燃やすって、どういう意味なんです?」

「ん? あぁ、装備の強化に失敗して消しちまう事を冒険者の間じゃ“燃えた”って言ってんだ。……あまりに失敗しまくるからよ、強化する事も“燃やす”と言っとるんだ」

 んんー……これは物凄く面白そうな予感が!

「ハンスさん! その、装備の強化について詳しく教えて下さいよ!」

 いきなりテンションが上がった僕の勢いに若干引きながらハンスさんが答える。

「止めとけ止めとけ。ありゃ最低でも一人前になってからだ。駆け出しが手を出せるもんじゃねーし、無理して手ぇ出したら人生終わっちまうぞ」

 そこまで言われたら余計に気になる!

「そこを何とか! 無理して手なんて出しませんから」

「そう言われてもなぁ……。あぁ……そういや喋りすぎで喉が乾いたなぁ」

「マスター! エール追加で!」


 酒場のマスターがすかさず「はいよ!」と目の前にエールの入った木のジョッキをドンッと置いた。

 マスターに硬貨を渡し、それをハンスさんの前にススッと滑らせる。

 これは先行投資だ。


「へへっ、なんか催促したみたいで悪ぃな」

 と言ってハンスさんは目の前のエールをグビグビッと半分ほど飲み干し、言葉を続ける。

「迷宮でな、強化スクロールってもんが出んだよ。そいつを装備にくっつけて発動させようと念じる。そうすりゃ強化スクロールが発動して、後は成功するか失敗するか、天のみぞ知るってぇ訳だ。成功すりゃあ装備が強化され、失敗すりゃ装備ごと燃えて消えちまう。それが強化ってもんだ」

 なるほどね。そのスクロールとやらで装備が強化出来ると……。しかし何故それで“人生が終わっちまう”んだろうか?

 気になって聞いてみたら納得の答えが返ってきた。

「理由は色々あるがよ……。どんなに良い装備を手に入れたって燃えちまえば全て終わりだ。そこで装備と一緒にそいつの心まで燃えちまう事もあるってぇ事だ」

 そこで言葉を切り、エールをグビリと一口飲んでから続ける。

「後は一部の馬鹿が予備の装備も用意せずに強化して、物理的に終わっちまう事もある。これは若ぇのに多いな」

 と言ってハンスさんは僕を見た。


 なるほどなぁ……。ちゃんと考えて計画的にやれない人には厳しい……というか、これはギャンブラー気質のある人を悪い意味で育成しそうだ。

 ゲームでもこれと似たようなシステムがあったし、無茶をして装備をなくす人もいた。

 どの世界でも、そういう人は一定数いるんだろう。


「僕は……大丈夫、ですよ」

 そう言ってブラウンシチューを木の匙ですする。

 ここのシチューは意外と美味い。よく煮込まれた何かの肉がホロホロと口の中で解けていく。味付けは肉汁と野菜と赤ワイン、そして塩と何かのハーブだろうか。シンプルなようで複雑な味になっている。肉の量が少ないのは残念だけど、値段を考えたら仕方がない。この値段で肉が入ってるだけでも十分だ。


「まあ気を付けろや。この商売、そこらの自制が出来ねぇ奴は続けらんねぇよ。退くべき時に退けねぇ奴は落ちていくか、ぽっくりおっ死んじまうかだ。それがどんなに運が良い奴でも、何度も繰り返してりゃいつかはな……」

 遠い目で語ったハンスさんは残ったエールをグビッと一気飲みすると、片手を挙げて「じゃあな」と酒場を出て行った。


 中々、面白い話が聞けた。今の話は心に留めておこう。

 そう思いながら、僕も安物の薄い葡萄酒を喉に流し込んだ。

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