第20話 資料室とホーリーライトの謎
「お待たせしました。合計で銀貨四枚、銅貨一枚になります。よろしいですか?」
あれからすぐにダンジョンから戻り、今はギルドで換金をしている。
魔石やらナイフやら、ダンジョンで得た物は魔法書以外、全て出したんだけど……。
うーん、思ったより金額が少ないかな。
「内訳を教えてもらえますか?」
「はい。Fランク魔石が銅貨一枚で三一個。Eランク魔石が銅貨五枚で一個。ゴブリンのナイフが銅貨五枚、となっております」
なるほど。うーん……。
「あの、この買取価格で低ランクパーティって生活していけるものなんですか?」
僕の質問に彼女は、あぁなるほど、という顔をする。
「初心者ダンジョンはですね、クリア後に一人一度だけ良いアイテムを貰える事で人気があるダンジョンなんです。モンスターの出る量も少ないですし、パーティならクリアすればもう潜りません。ただ、ソロの低ランク冒険者にとっては複数を相手にする必要がないので、安定して稼げるのでオススメなんです」
なるほど。確かにパーティでは稼ぎが悪そうだけど、ソロなら安全に稼げるだろう。
「ありがとうございます。理解出来ました。買取金額はそれでお願いします。あと、薬草採集の依頼を受けたいのですが、薬草の見本なんかはありますか?」
「はい。それでは銀貨四枚、銅貨一枚、ご確認下さい。資料に関しましてはギルド二階の資料室にございます」
うんうんと話を聞いていたが“資料室”という言葉に思わず「えっ」と言ってしまう。
「あの、資料室ってあるんですか?」
「はい、ございますよ」
「資料室って、モンスターの情報とか魔法とかについて書かれている本とか、そういうのがある、あの資料室ですか」
「はい、その資料室ですよ。冒険者の皆さんには人気はありませんが」
と言って受付嬢はクスッと笑う。
これは失敗した。最初にギルドに来た時、紙ではなく木片を出されたから、この世界では紙が貴重で、知識を得るための本など一般人の生活には存在しないと決めつけていた。
受付嬢に礼を言い、お金とカードを受け取り、ギルドの二階へと上がる。
◆◆◆
ギルドの二階に上がると通路があり、その左側にズラッと部屋が並ぶが、どれも面会室やら会議室やらで、肝心の資料室は廊下の突き当りにあった。
ドアをコンコンとノックし、「失礼します」と声を掛けてから入室する。
日本での癖が抜けない。
資料室の広さは大体一〇畳程度だろうか。思っていたより小さいが、この世界の紙の価値を考えると当然かもしれない。
部屋の中には本棚がいくつか並び、その中に本と木板が並んでいる。
なるほど。本だけでなく木板に情報を残してるのか。それなら納得出来る。
入り口近くにあるカウンターの中で作業をしていた若い男性がいたので声をかけてみる。
「すみません。ここの資料は自由に見てもいいのですか?」
すると作業をしていた神経質そうな男性が顔を上げて答えた。
「えぇ、構いませんよ。でも資料は大切に扱って下さい。それと持ち出し禁止ですので」
「わかりました」と答え、近い棚から順に見ていく。
今のところ最優先で欲しいのは、魔法についての資料と種族についての資料。あとは、この世界や、この近辺の地理や政情、情勢に関する資料だ。
本当は酒場で一つ一つ情報収集して、少しずつ集めていく予定だったけど、本当に助かった。
植物の資料やモンスターの資料をサラッと確認するだけにして、どんどん進んでいく。どうも木板はほとんど植物とモンスターの資料っぽい感じだ。
最初は植物の見本を探してこの資料室にたどり着いたはずだけど、今はもっと重要な事があるので後回しだ。
すると……。
「あっ……た」
“初級魔法入門”
チラリと窓から外を見る。窓から覗ける外の景色を照らす太陽の光がオレンジ色になってきている。
今日は頑張ってもこの一冊だけだろう。
初級魔法入門を持ち、窓際にある椅子に座って本を開く。
はらりはらりとページをめくり、読み進めていく。
結局、何とか日没までに読みきり、この日は資料室を出ることにした。
◆◆◆
「ふぅ」
今日一日の疲れを吐き出すように息を吐き出す。
何とか日がある内に宿屋の部屋まで帰る事が出来た。
初級魔法入門。結論から言うと、知りたい事を知る事が出来たとも言えるし、謎が深まったとも言える。
本によると、この世界で一般的に魔法と呼ばれているのは、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法、闇魔法の六種類とされている。らしい。その昔は雷魔法や爆裂魔法などの属性もある、という説があったが、それらは複数属性による複合魔法だと言う見解が支持されて、今はこの六属性が定説となっている。
そして、その枠に収まりきらないものとして、エルフが使う精霊魔法などの例外がある。
……さて、初級魔法入門には他にも色々な情報があった。
無詠唱について。魔法書を使った適性属性判別方法。などなど。
そして、主な六属性魔法の一覧表。この一覧表に載っている事……いや、載っていない事が少々厄介だった。
「載ってなかったんだよなぁ……ホーリーライト」
勿論、一覧表に載っている魔法が全てではないのだろうけど、直感さんが“これはマズいですよ”と言っている。
「どうもホーリーライトって六属性魔法ではないような……。そんな予感がする」
魔法書の色も六属性魔法は濃い緑色だったのに、ホーリーライトは青色だったし。それに精霊魔法とも違う感じがする。
その答えになりそうな話が初級魔法入門の最後の方に載っていた。
その昔、勇者や聖女、あるいは地上に降臨した天使や悪魔が使った魔法は、山をも砕き、半死人を復活させ、別の場所へと瞬時に移動し、まるで神の如き魔法であり、彼等以外に使える者はいなかった。
と記録にあるが。流石にそれは眉唾モノである、とも書かれていた。
僕の今の種族はクォーターエンジェルだし、天使が使ったとされる魔法に適性があってもおかしくない。
「うーん。物凄く嫌な予感」
もしかして、このホーリーライトの魔法ってレアなんじゃなかろうか。あるいは存在を秘匿されているとか。
「これだけの情報じゃまだ結論を出すには早いけど。使うと悪目立ちしそうだなぁ……」
あぁ嫌だ嫌だ……。
でも、もしそんな凄い呪文なら何故、初心者ダンジョンなんかでサクッとお手軽に手に入ったのかが謎なんだけど……。
色々考えている内に時間が過ぎたのか、夕食の用意が出来た事を告げる声が聞こえた。
「まぁいくら考えても分からない事は分からない、か」
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