第19話 ボスと謎の魔法書
それから、なんだかんだありつつ地下五階へと続く階段の前に着いた。
構造的にもシンプルだったし、出て来るモンスターも、スライム、スライム、ゴブリン、ゴブリン、スライム、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン……という感じで下の階ほどゴブリンが多くなったけど、敵も一匹ずつだし、途中でレベルがもう一つ上がって、より楽になり安定して進めた。
「とりあえず、ここで休憩にしようか」
ゲームで言うなら最下層はボスと相場が決まっているしね。
壁を背にして床に座り、背負袋から商店で買った果物を出してかじる。
うん、美味い。
食べながら何となく、レベルについて考える。
恐らく、レベルというシステムがある事は間違いないはず。そしてアビリティと六種のパラメータが存在しているのは“例のあの場所”で確認してある。しかし、それを確認出来るような人、装置やアイテムなどにはお目にかかってない。まぁこの小さな村だけでは何とも言えないが。少なくとも一般人や村規模で持てる物ではない気がする。
もし、そういうアイテムや装置があるなら、手に入れて確認したい。
最後の果物を食べ終え、装備を確認した後、五階へと向かう。
さて、鬼が出るか蛇が出るか……。
「まぁゴブリンなのはわかってんだけど」
◆◆◆
五階に下りると、そこは一本道で、その先にあるのは大広間だった。
大広間にはいくつか燭台に火が灯され、このダンジョンでは唯一、灯りが用意されてあるようだ。
そしてその大広間の真ん中にいるのは……。
「うん、ゴブリンだね。……ナイフは持ってるけど」
別段、今までと変わりないゴブリンがナイフを持って立っているだけ。
流石に初心者ダンジョン、というところだろうか。最後まで難易度は低く抑えられている。まぁナイフで切りつけられると危ない事は危ないんだけど。ここまで来れた人なら問題なく対処可能なはずだ。
ここで一つ面白い事に気付いた。今までのモンスターはこちらを感知すると一直線に襲いかかって来たけど、ここのナイフゴブリンは大広間に入らなければ襲ってこないのだ。
おもむろに大広間に入る。
「グギャッ!」
ナイフゴブリンがナイフを振り上げて、たったか走りながら襲いかかって来る。
そこでササッと通路に戻った。
「グゴゲ!?」
ナイフゴブリンは標的を見失ったかのようにキョロキョロ周囲を確認して、元のポジションへとすごすごと戻っていく。
もう一度、大広間に入る。
「グギャッ!」
またナイフゴブリンがナイフを振り上げて襲いかかって来る。
ここで通路に戻ると、またナイフゴブリンは標的を見失い、元のポジションへと帰っていく。
「うーん、不思議だ」
何度かグギャグゴ繰り返し、飽きたのでナイフゴブリンの頭に杖を叩き込んで終わらせる。
ナイフゴブリンが消えたあとには、他より少し大きな魔石とナイフが落ちていた。
それらを拾い、背負袋に入れる。
……って、このナイフってさっき店で買ったナイフだろ!
うん、めっちゃ損した気分。なるほどねぇ……ここでよく出るからあの雑貨屋に沢山並んでいたのか……。
まぁ仕方がない。
と、その時。大広間の奥にあった石の台座の上の空間がウィンウィン鳴りながら青白く光りはじめ、その光の中央部分から空間を歪ませながら何かがウニョウニョと出てきて、ポトリと台座の上に落ちた。
そして光も収まり、また静寂が戻る。
「……ええ~っ!?」
咄嗟に台座の近くから飛び退いた変な格好のまま、力なく叫んでしまう。
この世界に来てから摩訶不思議な事が起こりすぎている気がする。
いや、この世界に来る前の、あの白い世界から不思議な事は起こりまくってるんだけど。
魔法がある事とかは許容出来るとしても、何もない空間からいきなり物が飛び出してくるとか、こちらに来てから作られつつあった常識でも簡単には受け止めきれない。
とりあえず、そーっと台座に近づき、何が落ちてきたのか確かめる。
それは本で、タイトルには“ホーリーライト”と書かれてあり。その本をよく見ると“ホーリーライトの魔法書”だと理解出来た。
「なるほど。“ホーリーライトの魔法書”ね。……ぅうん?」
いやいや待て待て。何故これが“ホーリーライトの魔法書”だと理解出来た? ホーリーライトとは書いてあるが、魔法書とは書いてないぞ。
もう一度、本をよく観察してみる。
“ホーリーライトの魔法書”
「うん。“ホーリーライトの魔法書”だね。……いやいやいや」
何で頭の中に“ホーリーライトの魔法書”という言葉が浮かぶのだろう?
右手に持っている杖に意識を集中して見てみる。
何も感じない。
着ているローブに意識を集中して見てみる。
何も感じない。
背負袋から荷物を引き出して、片っ端から見てみる。
何も感じない。
「うん。わからない」
台座に近づき、ホーリーライトの魔法書を手にとってみる。
昨日見た魔法書と大きさや形は似ているけど、色は青っぽい。
そしてやはり……。
「やっぱり使えるな」
触ると魔法書との間に何かで繋がっている感覚がある。昨日の光魔法の魔法書の時とほぼ同じだ。
覚悟を決めて表紙をめくる。
すると、光源の魔法書を使った時のように、中の言葉の意味もわからないのに内容が頭に入ってくる。そして全てのページを見終えると、白い炎に包まれて燃えてなくなる。
「なるほどねぇ。回復魔法か」
読み終えると呪文の内容や使い方も理解出来た。
どうやらホーリーライトとは回復魔法らしい。
「流石に今回は試してみる訳にもいかないかな?」
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