第18話 初ゴブと初レベ
右手で杖の中ほどを持ち、歩幅が大きくなりすぎないように、重心を崩さないように歩く。周囲の気配も常に感じ取り、常に何が起こっても対処出来るようにする。
基本として、常にこの歩き方が出来るようになっていたはずなのに、いつの間にかやらなくなっていた。
現代日本でいきなり武術が必要になる事なんてそうそうありえない。
だから武術への熱意が下がってしまったあの頃、自然と止めてしまったんだ。
今から思えば、もっとしっかりとやっておけばよかったけど、今更だ。
あの後、十字路の反対側の道にも行ってみたけど、似たような形の洞窟があって、また行き止まりにスライムがいた。
正解の道は真ん中の道で、結局この階は“山”の字の底の部分に入り口の階段、山頂部分に二階への階段があるような形だった。
今は階段をおりて二階へと来ている。
今回も一応マップを記入しながら進んでいると、前方から「グギャッ!」という声が聞こえてから、パタパタと何かが走るような音が近づいてきた。
慌てて紙と鉛筆をポケットに突っ込んで、杖を構え直す。
やはりダンジョンでは、この光源の魔法には問題があると実感する。この魔法で照らせる範囲は精々一〇メートルほどで、その先はほぼ見えない。一方、モンスターの方は灯りなど持ってないし、こちらが放つ光は少々遠くからでも丸見えだ。
つまりのところ、ダンジョン内での索敵を光を使った目視に頼っている限り、十中八九モンスターに先に感づかれ、先手を取られる。
今はそれでもいい。しかし、もし相手が飛び道具を持っていたらどうだろうか。光の範囲外に潜まれ、そこから矢でも射られたら今の僕では対処のしようがない気がする。
とりあえずそれは今後の課題として、今は今の相手をどうにかしよう。
パタパタという足音が近づくにつれて相手の輪郭が浮かび上がってくる。
現れたのは身長一二〇センチ程の大きさで、緑色の肌に腰ミノ一つ。日本人的に言えば餓鬼や子鬼というような姿のモノ。
ゴブリンだ。
武器は何も持っておらず、走ってきた勢いのまま、殴りかかってくる。
「グギャ!」
その拳を杖の柄で跳ね上げ、踏み込みながら逆側の石突で喉を突き、そのまま踏み込んで体重を乗せて突ききる。
相手は「グゲッ」という、くぐもった声を発しながら数メートル吹っ飛び、床に転がった。
「殺ったか?」
というフラグを立てながら恐る恐る近づくが、相手は動かない。問題なく倒しているようだ。
しかしゴブリンも一撃で倒せた。これは少しは自信を持ってもいいのかもしれない。
倒した相手を改めて観察する。緑色の肌に大きな耳。これは間違いなくゴブリンだ。事前に聞いていた話によると、このダンジョンに出る敵はスライムとゴブリンだけのはずだし、そこから考えても間違いない。
そう考えている間にゴブリンの体が消え始め、床に吸収されていき、床に魔石を残す。
スライムの時にも見たが、あれは液体系のモンスターだったので違和感が少なかったが、流石に肉体を持つモンスターが目の前で消えると違和感さんが物凄くお仕事をする。
ゴブリンが消えた跡に残った一センチ程度の魔石を拾い上げようとした時、僕の体の周りに光が渦巻きだした。
「ぅえっ!」っと変な声を出しながらも瞬時に後ろに飛ぶも、当然のように光も一緒についてきて僕の中に吸収される。
その瞬間、体の奥から力が湧き出し、体中に行き渡った。
光が消えた後も警戒して杖を構えたまま周囲を探るも、何もなく。体に張った力も変わる気配がない。
いや、もしかして。もしかしてーだけどー。
「……これ、は……。レベルアップ? とか?」
ステータス確認もないし、割とリアルなファンタジー世界かと思ってたけど、思っていたよりはRPG的な要素のある世界なのかもしれない。
しかし、これにはちょっと安心した。
今まではスライムもゴブリンも一撃で倒せてはいたけど、実は少し不安があった。
ここのスライムやゴブリンの力量から、もっと上のレベルのモンスターの力量を想像して、僕では対処出来ないのではないか、という可能性を考えてしまったからだ。
いくら筋トレや訓練で身体能力や技術を極限まで磨いても、人には限界というものがある。常識で考えるなら、僕の限界を越えた力は得られないし、それでは強いモンスターには対処出来ないはずだ。
しかしレベルアップという、ゲームではおなじみの謎システムで能力を上げられるなら話は別だ。単純にレベルを上げればいいはずだからね。
このレベルアップが具体的にどういうシステムなのかはサッパリ分からないけど、レベルを上げていけば僕が想定していた常識の範囲を越えた能力も得られるかもしれない。
ゴブリンが落とした魔石を拾い、背負袋に入れながら先に進む。
「ちょっと楽しくなってきたかも」
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