第17話 RPG最初の敵と言えば

「なるほどな。それで戻ってきたと。良いと思うぜ、慎重な事はな」


 今、僕は雑貨屋にいる。

 この村でダンジョン攻略に必要そうな物を買うなら、この雑貨屋しか考え付かなかったからだ。

「そういう訳なので、ダンジョン攻略に必要そうな物を見繕ってもらえますか」

「うーん……。と言ってもな、役割によっても違うし」

 と言って店主は顎に手をやってしばし考え、棚からいくつかピックアップしてカウンターに並べた。

「確かソロで初心者ダンジョンなんだろ? 水筒はまず必要だろう。あとは鉛筆 と。紙と木板はどちらか選んでくれ。ナイフとランプはいらんだろ?」

「ええ、必要ないです」と答えて、店主が出してくれた物を見る。

 水筒は木製? のようで、大きめの注ぎ口にコルクで蓋がしてあり、紐も付いている。鉛筆に関しては、地球にあるようなレベルの物ではなく、それより一回りか二回りは太くて書きにくそうだ。

「初心者ダンジョンならこんなもんだろ。保存食もあるが、あそこなら必要ないだろうしな」

「値段は幾らです?」

「水筒が銀貨二枚。鉛筆が銅貨三枚。木板が銅貨一枚。紙が銅貨三枚だな」

 なるほど。妥当と言えば妥当なのかな? 紙が高いがそれも仕方がないか。

 店主のオススメする水筒と鉛筆と紙を三枚買って店主に礼を言い、店を出る。

 さて、そろそろ所持金が心もとない。本気で稼がないとヤバいかも。



◆◆◆



「さて、と」

 あれからすぐにダンジョンに向かい、今はさっきの十字路にいる。

「光よ、我が道を照らせ《光源》」

 お腹の奥から何かが手に流れるように動いて、手のひらから光球が出た。それを自分の真上に移動させるようにイメージすると、光球がイメージ通りに移動する。僕が移動すると自動で付いてくるみたいだ。

 さっき来た時はこの光源の魔法を使う事すら忘れていた。雑貨屋の店主に、“ランプはいらないな”と聞かれてやっと光源の魔法で灯りを確保出来る事を思い出した。

 気持ちを切り替えよう。

 ポケットに入れておいた紙と鉛筆を取り出し、階段マークを書いて、その上に十字を書き入れる。

 通路は簡単に線で表す事にした。この鉛筆では細かい描写は難しいし、そもそも手で持った紙に鉛筆で色々と書くのも大変だ。


 さて、とりあえず右の通路から行ってみる事にしよう。

 十字路を右に曲がり、しばらく進むと突き当りがあり、その左に通路が続いていた。その通路を更に進むと――

「……ぅん?」

 行き止まりだった。

 まぁ、こんな事もあるだろう。と踵を返そうとしたその時。行き止まりにあった水たまりがプルプル波打っている事に気付く。

「あれ、は……もしかして、スライム……とか?」

 恐る恐る近づいていくと、ただの水ではなくて、半透明な青っぽい色なのが分かる。

 うーん、これはスライムで確定? なのだろうか。

 もう少し近づいてみると、プルプルしていたのが突然止まり、こちら側にゆっくりと移動してきて。距離が近づいた瞬間、こちらにピョンと飛びかかって来た。

「うをっ!」

 咄嗟に半身で躱しながら右手で杖を振り抜いた。

 パシン、という軽い音と共にスライムが杖に弾かれ、勢い良くベチャっと壁に衝突し、デロデロ溶けながら床に吸い込まれていく。

 その軽い手応えに驚いた。

「……倒し、たのか? ……えっ……倒した?」

 何だかあっけない。

 反射的に出た一撃で決まってしまった。これは僕が強いのか、それともスライムが弱いのか、判断が難しいところだ。

 種族が変わったからか、ステ振りの影響なのか、地球にいた時より明らかに身体能力が上がってるのは間違いないんだけど、それがこの世界でどれぐらいなのかが分からない。


「ん?」

 スライムが消えた場所をよく見てみると、何か小さな物が落ちていた。

 近づいて拾い上げると、赤黒い……いや紫のようなくすんだ色で、一センチ程度の楕円の球体の石があった。

「これは……。これが魔石というやつかな?」

 ギルドの受付嬢や酒場の冒険者から話には聞いていた。どうやら魔道具とやらの燃料になったり、薬の作製に使ったりなど、色々使い道がある物らしく、ギルドで買い取っているとか何とか。

 魔石を背負袋に突っ込んで、最初の十字路に向けて歩き出す。


 兎にも角にも、これが僕の、異世界での初の戦闘だった。

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