第22話 お仕事と少しの不安
あれから一週間ほど経過した。
その間の生活はほとんど変わらない。
朝、起きてから商店で果物を買い、ダンジョンにゴブリンの頭をかち割りに行き。昼過ぎには戻ってギルドの資料室で資料を漁る。
モンスター一体の単価は安いが慣れてくるとそれなりに効率も良くなり、今では一日で銀貨五枚以上になる日もあった。多少の余裕も出てきた事から日用品を買い足し、ライトボールの魔法書も買った。
レベルアップ? らしき謎の現象もあれから一度あり、つまり今はレベル四になっているはずだ。
初日に二回も上がったのに、それから一週間で一回しか上がってない事には違和感がある。これについては検証してみたい気もするが、上手い検証方法も思いつかないので保留とする。恐らく格下との戦いではレベルアップしにくくなるとか、そんなルールがありそうな気がする。
そしてギルドランクもEに上がり、ギルドカードが銅製になったことで別の町に移っても問題はなくなった。それでもこの村に居続けたのは資料を出来るだけ確認しておきたかったからだ。恐らく、こんな小さな村ではなく大きな町のギルドに行けばもっと沢山の資料があるのだろうが、もしかするとこの村でしか見れない資料もあるかもしれないし。それ以上に、こういう安定している間に出来る限りの情報を仕入れておきたかった。
それともう一つ。今の内にやっておきたい事もあったのだけど。
◆◆◆
今日も、もはや日課になっているゴブリン割に来た。ダンジョンでゴブリンの頭をかち割るお仕事。略してゴブリン割。
何だかゴブリンさんなら終日半額になりそうな名前だが、実際にはゴブリンさんに得はない。
何故、初心者ダンジョンに毎日のように通っているかと言うと、単純にソロでも楽に安定するからだ。初心者ダンジョンと言うだけあってイレギュラーな事件もなく確実に一対一で戦えるのはかなり大きかった。
以前は薬草採集の依頼を受けてみようとした事もあるけど、依頼表を見て、資料室にあった薬草の資料を確認して早々に諦めた。とにかくかなり面倒なのだ。薬草の判別方法から採取方法、採取可能時期、などなど。それらが薬草それぞれによって違っているし、採取するための専用の道具とか、採取した薬草を保管するための道具とか、揃えた方が良いとされる道具も色々とあり、初期段階のハードルも高かった。
何となく薬草採集の依頼を受けて、何となく草をむしって、何となく袋に放り込んで、何となくギルドに提出すればお金が貰えるような甘い話は現実にはありえないという事だろう。
だが今後の事も考えるなら薬草採集も覚えておいた方が良さそうなので、そのうち勉強しておきたい。
そんな事を考えながらダンジョンを進んでいくと、本日、最初のゴブリンと遭遇した。
いつものように「グギャ!グギャ!」言いながらパタパタと走ってくるので、暗くて見えなくても分かりやすい。
「さて、と」
ここでいつもなら走ってきたゴブリンの頭を杖でかち割って終了だ。だけど今日はいつもと違う事を試してみたかった。
おもむろに杖を胸の前まで持ち上げ、杖の先をゴブリンが来るであろう方向へと向ける。
そして力ある言葉を紡ぎ出す。
「光よ、我が敵を撃て」
するとお腹の奥の方、丹田などと呼ばれる場所から何か温かいモノが流れ出し、心臓、腕を通って杖の先へと集結した。
しかしまだ撃たない。まだゴブリンは見えていない。
暗闇をじっと見据えて待つ。待つ。待つ。
「見えた!《ライトボール》」
ゴブリンの輪郭が見えた瞬間、魔法を放つ。
杖から解き放たれた光の玉はゴブリンに向かって真っ直ぐに飛び、ゴブリンの顔面へとぶち当たって軽く爆発する。ゴブリンはラリアットを食らったみたいに頭を支点にくるんと半回転して後頭部から地面に叩きつけられた。
うげっ……。ゴブリンがどうなったのかあまり確認したくない……。
離れた位置からぱっと見た感じでもボロボロなのが分かる。色々と酷い。
「……もしこれが人間だったら」
ふと、そう言葉に出してしまった事で考えてしまった。
言葉というのは不思議なもので、言葉にして発してしまうと意味を持って、力を持って、存在して影響を与えてしまう。まるで呪文の詠唱のようなモノだ。
これからこの世界で人間と戦う事はあるのだろうか?
それはあるはずだ。こういう世界なら盗賊とか戦争とかは珍しくはないはずだ。情勢や治安が安定してる街中で定職を見つけて、街から出ず、ひっそりと暮らさない限り、いつかはそういう時は訪れるだろう。特に冒険者なんて職業をやっていたら尚更そういう状況に出会う確率は上がるはず。
そうなった時、躊躇なく人間を攻撃出来るのだろうか?
どうだろうか……。今はまだわからない。少なくともそういう場面で行動出来ずに死ぬほど馬鹿ではないと思うけど、実際そうなった時に咄嗟に体が動くかどうかは経験してみないと何とも言えない。
現実は常に予想もし得ない事が起こるものだから。
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