第23話 生きる目的と人生の目標

「という訳なんですよハンスさん」

「おめぇは会っていきなり何言ってんだ」


 あれから何だかんだ悩みながらライトボールでゴブリンを狩り、いつも通りに資料室に寄り、宿屋に帰って酒場で見つけたハンスさんに相談している。

「いや、だからですね、僕はこれからどうすればいいのかなって」

「“だから”じゃねぇよ! 余計分からねぇぞ」


 思い返してみると、最初は何も分からない状況からのスタートで、とにかく生きていくための日銭を稼ぐために冒険者という仕事を選んだ。

 いや、選んだと言うより、それしかなかったと言う方が正しい。

 この世界、縁もゆかりもない者がいきなり店に飛び込んで雇ってもらおうとしても難しいだろう。こういう田舎の村だと特にだ。


 人の世界というものは信用で成り立っているのだから。


 現代日本では国や法が人を信用するための土台、後ろ盾となり保証してくれる。

 例えば殺人なり詐欺なり窃盗なり、犯罪を犯せば警察が犯人逮捕に向けて全力で捜査し、捕まえ、罪を問われ、罰が与えられる。そのリスクから人は簡単に罪を犯そうとはしない。それを皆が分かっているから最低限の信用が存在している。

 だから履歴書と面接で赤の他人を簡単に雇えるのだ。


 しかしこの世界はどうだろうか。


 この村を見る限り兵士や警察組織のような存在にはお目にかかっていない。恐らく常設のそういう組織は存在しておらず、村人による自警団のような組織が非常時に結成されるのだろう。つまり自分達の身は自分、もしくは家族や近隣住民の相互協力で守らないといけない。国はあれど最低限の信用も保証してくれないのだ。

 つまりこの世界では、いきなり外から現れたどこの誰だからわからない男では中々信用は得られない。そして信用出来ない人間は誰も雇わない。従業員を探すなら親戚か近隣住民か、その者達に紹介された人にするだろう。こういう小さな村だと特にそういう傾向が強いはずだ。

 結局のところ、この世界に来たばかりの僕が出来る仕事は実力主義で自出も経歴も問われず身一つで始められる冒険者しかなかったのだ。


 話を戻そう。

 最初はそういう理由もあって始めた冒険者だけど、初心者ダンジョンでの成果が安定して金銭的にも精神的にも余裕が出てきて。そして、冒険者を続けていると人と戦う可能性がある事を想像してしまい、色々と先の事を考えてしまった。

 具体的に言うと、このまま冒険者を続けていいのかとか、難しくても何とか定職を探した方が良いのではないかとか、これから何をやるべきなのかとか。説明は難しいけど、何を目的に、何を目標に、どう生きていけばいいのか分からなくなった。

 要するに、これから何をするべきなのか分からなくなったのだ。


 分からなくなって、とりあえずハンスさんに話してみたものの、僕自身も何を聞けばいいのかよく分からない。

 そこからまず分からないのだ。

「……ハンスさんって、何を目標に冒険者をしてるんですか? 冒険者って何が楽しいんですか?」

 何を聞けばいいのか分からないけど、何となく、口から出た質問がこれだった。

 自然と口に出してしまったけど、ちょっと失礼な質問だったかもしれない。

「何をって……。つーかコロコロと話が変わりやがるな、おい。何が何だかわかんねぇよ」

 と言いながらもハンスさんはエールをグビッと飲んで少し考え、そして答えてくれる。

「……まぁ、あれだな。金を稼いで、いい女と遊び、良い得物を手に入れ、うめぇ酒を喰らって、ダンジョンや未開地で名を売る。上手くいきゃあ貴族にだってなれる。それが冒険者ってもんだ」

 そう言いながらハンスさんはグビリとエールを飲んだ。


 うん、なんか想像してた冒険者のイメージ通りだね。

 立身出世して富と名声を手に入れる、ってのは王道というか、何かそんな感じがする。でも物が溢れた現代日本で生まれ育ったからだろうか、僕は富と名声を得て貴族になったりする事には大きな興味が湧かなかった。何と言えばいいのか、そういう事では心が躍らない。何か違う感じがするのだ。


 注文しておいた何かの肉の串焼きをススッとハンスさんの前に滑らせる。

「おう、気が利くじゃねぇか。……そうさな。ダンジョンですげぇもんを見つけた日にゃよう、そりゃあもう首から上にぐわっと血が昇って全身に鳥肌立って、気でも狂ったみたいに叫ぶほど興奮するぜ。それが冒険者の醍醐味ってやつだ」

 ハンスさんは串焼き肉にかぶりつき、エールで流し込んでから続ける。

「まぁ……若ぇ頃わよぅ、アーティファクトを狙ってダンジョンの最下層を目指したり、伝説の古代遺跡を探して森を駆けずり回ったり。……世界を見たくて旅をした事もあったか。……どれも上手くいったとは言えねぇがな。それでもすげぇ楽しかったのは間違いないぜ」

 そう言ってハンスさんは遠い目をした。


 なんだろうか……凄く楽しそうな気がする。

 アーティファクト、伝説の古代遺跡、そして世界を巡る旅。ヤバい! 胸の奥が熱くなる。凄くワクワクするじゃないか!

「ハンスさん! その話、もっと詳しく聞かせて下さいよ! アーティファクトって何なんです? 伝説の古代遺跡ってどこにあるんですか? 他の国ってどんな感じなんです?」

「お、おう……いきなりテンション上がってがっつきだしたな、おい。あー……ちょっと喋りすぎて喉が――」

「マスター! エール追加で!」

「はいよ!」


 こうして夜遅くまでハンスさんから話を聞いたのだった。

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