第253話 ダンジョン攻略へ
1月1日午前2時20分。今、現在、Twitterスペースで『極スタ253話年越し執筆』生配信中。
質問等ある方はお気軽にスペースに入ってきてください。
https://twitter.com/kokuitikokuichi/status/1476929990667030538
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その紙を改めて確認していく。
最初の紙は六階の情報で、それから七階、八階ときて、最後の紙には九階の情報が残されているようだった。
「九階……なんですか?」
「あいつが確認したモノはな。その先があるかは分からん」
確かに九階の情報はあるものの、情報は途中までしか書かれていない。
つまりその先は自分で確かめるしかないってことか……。
でも、どんなダンジョンでも最初にクリアする人は自力で道を見付けているわけで、ダンジョンを制覇したいならそのリスクは必ず取らなくてはならない。攻略サイトを見ながらクリア出来るのはゲームだけなのだ。
「でも、こんな情報、僕に渡してもいいのですか?」
「あぁ、構わねぇよ。それを誰かに売りたいなら、そうすりゃあいい。勿論、自分で使えるってんなら使えばいいが。……まぁ、それの価値なんざ、もうなくなっちまうかもしれねぇがな」
「……教会ですか?」
「それに公爵家もな」
ダンジョンがなくなってしまえばこんな情報に意味はなくなる。……だから僕に渡してもいい、ってのもあるのかもね。
「ダムドさんは、教会とアルメイル公爵家がダンジョンをクリア出来ると考えてるんですか?」
「分からねぇよ。だが公爵家が本気になったのは間違いねぇからな。もし奴等がダンジョンをクリア出来れば、公爵家は名誉を得て発言力も上げられる。それにダンジョンで上手く兵器系アーティファクトでも手に入ったら、この国の勢力図は……間違いなく書き変わるぜ」
「なるほど」
アルメイル公爵が狙っているのはそれだろう。
個人的に、それは一番避けたい未来だ。
今の流れ的に、アルメイル公爵家はダンジョンをクリアした勢いで戦争を起こそうとしているはず。
相手は恐らくシューメル公爵かグレスポ公爵。
個人的にはグレスポ公爵にはネガティブな感情しかないけど、シューメル公爵――というよりアルノルンにいるはずの皆が巻き込まれそうで嬉しくない。仮に標的がグレスポ公爵だったとしても、グレスポ公爵家が倒れたらこの国のパワーバランスは崩れてしまい、いずれシューメル公爵家も飲み込まれるだろう。それも嬉しくない。
「もし、アルメイル公爵家がダンジョンをクリア出来ず、他の勢力がクリアしたら……。どうなると思います?」
「そうだな……」
ダムドさんは暫く考える素振りを見せた後、言葉を続けた。
「ここはアルメイル公爵家の金庫みたいなモノだしな。クリア出来なきゃただ大損するだけだろうぜ。……もしかすると、他のことなんざ考える余裕はなくなっちまうかもしれねぇぞ」
「……」
つまり、あのポーリにさえダンジョンをクリアさせなければ、戦争は回避出来る可能性が?
いや、そうと言い切るには確証がなさすぎる。……が、ポーリにクリアされてアーティファクトまで確保されると一番最悪な方向に向かうのは間違いない。それは、なんとしてでも阻止したいところだけど……。
「あの、裂け目のダンジョンについて、もう少し教えてもらえますか?」
◆◆◆
翌日。朝から魔力ポーションの注文を入れ、ますます高くなっていく食料品の買い込みを続けた。
物資の一部は宿屋でホーリーディメンション内に移動させ、買えるだけ買っている。
しかし、僕がこれからどうするのか、結論は出せないでいた。
いや、もう九九パーセントは決まっているんだ。だってここまでお膳立てされてしまったら、もう行くしかないじゃないか! ここまで来たらやるっきゃない!
……だけどもう少し……もう少し足りないような気がするのだ。パズルのピースが。もう少しだけ。もう一つだけ。
「それにしても、寒くなってきたな……ん?」
そう考えながらダンジョンの入口の前を通ると、裂け目の前の広場に知った顔を見付けた。
その人物は高そうな装備に身を包み、一台の馬車の隣で立っていた。そしてどうやら、二〇人ほどの冒険者を従えているようだ。
「あの人は……」
確か見覚えがある。確か……あぁ、そうだ。……ということは、彼らはもしかして……。
そう考えていると、彼らは馬車を伴って全員で裂け目に入っていった。
「……だとすると、だ」
これはひょっとすれば、上手くやれば、なんとかなるのか?
偶然見付けた彼らの姿に僅かな光明を見出して、踵を返す。
「とりあえず、冬服……買おうかな」
そう考えて釣り糸を買った服屋に向かう。
「すみません、冬用のマントとかローブとかってありますか?」
「ありますよ。どんなモノが必要ですか?」
そう言われ、出された服を一つずつ見ていく。
一つ目は毛皮のマント。これは現在使っている布のマントより暖かそうだけど、分厚くて重く、動きも少し制限される気がする。でも、今の装備の上からそのまま羽織れるから便利。
二つ目は前開きのローブタイプ。これを着るなら今のローブとは交換になるだろうか?
とりあえず、いくつか試着させてもらって長めの毛皮のマントを選び、それに手袋や靴下なども暖かそうなモノを用意してもらった。
「これでいいかな、っと」
と、思いつつ、隣りにあったとあるアイテムを見て――ピンと来るモノがあった。
「これって……」
なんとなくだけど、これは使えるのでは? と、ちょっと感じた。
いや、分からないけど、買っておけば使えるかもしれない。
「すみません。これも一緒にお願いします」
「はい、分かりました」
そしてまた翌日。今日も食料の買い込みに走り、昼頃にダンジョン前に戻ってくると、そこには聖騎士団が整列していた。
以前見た、聖騎士団の団長らしき人物が吠える。
「これより、この魔王のダンジョンを制覇する!」
それに合わせるように、聖騎士団の中から「オォー!」という声が上がり、群衆の中からも歓声が上がる。
その波はどんどん大きくなって、周囲を飲み込んでいく。
「聖騎士団! 出陣!」
その言葉と共に聖騎士団がダンジョンの中に入っていく。
総勢三〇人ぐらいの騎士が列を成して進軍する様子は圧巻で、群衆が熱狂する理由も分かる気がした。
この娯楽のない世界では、こういったイベントは庶民の娯楽なんだろう。やっぱりパフォーマンス的な要素が強いイベントでもちゃんと意味があるのだ。
「ついに、動いたか」
聖騎士団が動いた。ということは、終わりは近い。
直にポーリ率いる公爵家の軍勢も動くだろう。
僕が決断をするとすればここしかない。
「僕も……腹を決めないといけない、かな」
ダンジョンのクリアを目指すか、目指さないか。決めるとしたらここ。
でも、僕の気持ちは決まっている。
翌日。宿屋から出た後、適当な裏路地に入って魔法袋の中から黒いローブを取り出した。
これは昨日、服屋で買ってきた黒いローブ。錬金術師のローブだ。それを目深にかぶり、全身を隠してダンジョンに向かう。
「さて、やりますか」
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