第265話 ルバンニの町は農業の町

タイトルまんまですが263話を作った時の話を書いてみました。


極スタ263話を作る工程をゼロから説明しながら創作の難しい部分を語る

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885207682/episodes/16817330653333927876



―――――――――



 そうこうしていると、冒険者パーティの内の一人の男が話しかけてきた。


「こいつの素材は俺達がもらうぜ。問題ないよな?」

「えぇ、勿論です」


 実際、彼らが倒したのだから文句は言えない。

 でもせめて情報ぐらいは得ておきたいよね。


「あの、このロックトータスってどんなモンスターなんです?」

「ん?」


 先程の男性冒険者がロックトータスの首をナイフでギコギコしながら振り向いた。

 首狩り族みたいでちょっと怖いよ!


「ザンツ王国は初めてか? こいつはDランクモンスターのロックトータスだ」

「Dですか……」


 予想より低い。

 てっきりCぐらいあるかと思ったんだけど……。やっぱり相性が悪いと格下モンスター相手でもこんなに面倒なことになるのか。


「本来はこんな場所にはめったに出ないんだがよ。今日はツイてやがるぜ!」

「そうなんですね」


 暫く彼らから情報収集した後、解体を続けている彼らと別れて町に向かう道を急いだ。

 彼らの話によると、ロックトータスは本来もっと山側に生息しているモンスターで、甲羅に背負っている岩の中に鉱石や宝石が含まれていることがあり、当たりを引くと儲かるとかなんとか。

 相性的に僕には縁のないモンスターになりそうだけど、上手く狩れる方法があればチャレンジしてみたいかもしれない。

 そうして歩き続けていると、あるところで周囲の木々が全てなくなり、そこから町まで見渡す限り全てが畑一色の世界に変わっていた。

 今まで見てきたどの町にも外に畑はあったけど、ここまで大きいのは初めてかもしれない。


「おぉ、凄いね」

「キュ!」


 ここは農業の町なんだろうか?

 季節的に作物はほとんど刈り取られた後で、どんなモノを作っていたのかは分からないけど、これだけ面積が大きいならかなりの収穫量だろう。

 もし春や夏に訪れたなら凄く良い風景が広がっていたに違いない。


「いいねぇ」


 青い空と土の匂い。たまにすれ違う荷馬車。少し遠くに広がっている灰色の山脈。少し肌寒い風。

 のどかな雰囲気を楽しみながら歩く。

 シオンがピョンピョンとそこらを飛び跳ねたりしながら僕の周囲を走り回っている。

 最近はずっとゾンビやらスケルトンやらと戯れつつ、逆に生あるモノの権力や領土争いに絡むアレコレを見る生活を続けていたし、たまにはこんなのんびりした雰囲気も良いかもしれない……というか、人生にはそういう休息も必要だと思うんだよ、うん。

 しみじみ感じながらのんびり進み、日が傾く前には町の門までたどり着くことが出来た。


「ギルドカードを」

「お疲れ様です」


 冒険者ギルドのカードを提示して中に入る。

 町の中を見た感じの印象は『中規模の町』という感じで、アルッポやアルノルンのような大都市ではないけど農村という感じでもなく、表通りにはそこそこ人や馬車が行き交っていて。店には多くの農産物が並び、豊かな町であることが見て取れた。

 冒険者ギルドを探しながら大通り沿いの店を見て回る。


「ん? ちょっと見たことない野菜もあるな」

「キュゥン」


 シオンが食料品店の店先にある台の上を見ようと何度もジャンプしているので、彼を抱えて肩に乗せた。

 なにか気になるモノでもあったのだろうか。


「美味しそうなモノあった?」

「キュ!」


 シオンが器用に前脚を伸ばした先にあったのは、ピンポン玉より大きいぐらいのサイズでオレンジ色をした丸い果実。

 ん~、形はオレンジに似ているけど違う気もする。


「すみません、これはなんです?」

「これはオランだよ。この辺りじゃ肉なんかの香りつけに使う人が多いね」

「へ~」


 なるほど。見た目と総合して考えるならレモンとか柚子とかそういう感じの使い方なんだろうか。


「シオンはこれが欲しいんだよね?」

「キュ」

「よしっ! じゃあ、これいくらです?」

「ザル山盛りで銀貨二枚のところ、おまけで銀貨一枚銅貨五枚でどうかい?」


 単位がザルなのか……。ちょっと多い気もするけど、まぁいいかな。もし食べ切れなくても冷蔵庫――じゃなくて、アンデッドダンジョンで手に入れた時間停止の箱。名付けて『時止めの箱』があるし、日持ちはするだろう。……というか、本当に時間が停止するなら半永久的に日持ちするはずなんだよね。


「じゃあそれで」

「ありがとね!」


 布袋を渡して食料品店のおばさんにオランを入れてもらう。

 ついでにオススメの宿屋の場所も聞き、そちらの方向に歩きつつ、オランを要求するシオンの攻撃をあしらいながら背負袋の中に入れる。

 新しい町に着いたら冒険者ギルドに行って情報収集をしておきたいけど、今日はもう太陽が沈みそうなのでそれは明日にしようと思う。

 そうして町中のお店の位置をチェックしたり町の雰囲気を確かめたりしながら中央部を目指して歩き、空が少し赤くなってきた頃、宿屋に辿り着いた。

 宿の扉をガチャリと開けた瞬間、他の町の宿とは違う匂いが鼻孔をくすぐる。


「らっしゃい! 一泊夕食付きで銀貨三枚だ」

「とりあえず一泊で」


 思ったより安い。

 建物もしっかりしてそうなのに安いのは田舎だからだろうか?


「こっちです!」

「よろしく」


 お手伝いをしている男の子に二階の部屋に案内される。

 部屋の中はよく手入れされてあり、ベッドに机もあって並以上の部屋に感じた。


「夕食はもう出来ているので、この番号札を持って下に来てください!」

「ありがと」


 男の子が出ていった後、ベッドに腰掛けて背負袋からオランを出す。

 食事の前にデザートだ!


「早速試してみますか!」

「キュ!」


 シオンが『待ちきれないぜ!』ってな感じで叫んだ。

 実は僕も、これまでの経験上シオンが欲しがる食べ物は大体ハズレナシなので、今回もちょっと期待してたりする。

 ベッドの上に袋を置き、中からガサガサといくつかかき出してきて、その中の一つを手に取る。

 シオンは皮ごとかぶりついているけど、やはり文明人としては皮を剥いて食べるべきかと考え、剥こうとするけど難しい。やっぱり小さい柑橘類は異世界でも剥きにくい。こういうところは謎のご都合主義異世界プリズムパワーメークアップでなんとかしてくれたらいいのに……。上手くはいかないものだ。

 なんとか気合で皮を剥いてみると、中から出てきたのは完全に柑橘類のソレ。

 それを恐る恐る口に含んでみる。


「……酸っぱ渋い」

「キュ?」


 柑橘系は柑橘系でもオレンジとかではなく柚子とかカボスとかの系統か。

 マズいってわけでもないけど、そのまま食べるモノじゃないかもね……。

 ……いや、待てよ。じゃあなんでシオンが欲しがったんだ?


「シオン、ちょっと待った!」

「キュ?」


 シオンが布袋の中からオランを取り出したところで止める。

 そう。シオンは布袋の中から取り出したのだ。既にベッドの上に転がっているモノではなく、わざわざ袋の中から取り出した。


「そのオラン、ちょっとだけ食べさせて」

「……キュ」


 どう見ても『しょうがないなぁ』ってな感じのシオンからオランをもらい、半分に割って中から実を一つだけ取り出し口に放り込む。


「……うん。まぁ食べられる」

「キュ」


 シオンが催促するので残りの実を渡し、考える。

 シオンが選んだオランは酸味はあるけど甘みも若干あって、渋みも少なく食べられるレベルな感じ。

 まぁ日本のみかん基準で考えるならハズレの酸っぱいみかんだけど。この甘味の少ない世界では十分デザートとして許せるレベルだ。

 さて、オランの味も確認したし、夕食に行こう。


「じゃあご飯にするよ」


 オランを背負袋に戻し、部屋を出て一階に下りた。

 酒場の扉を開けるとムワッと良い香りが広がってくる。

 中には数人の男女の客がいて、カウンターの中には中年男性が一人。

 若干、客が少ない気もするけど、まぁそんな日もあるんだろう。


「らっしゃい!」

「お願いします」


 隅の方の席に座りながら部屋番号が書かれた板を見せる。


「飲み物は?」

「オススメはなんです?」

「そりゃあこの町で作った葡萄酒だな。この国じゃ有名なんだぜ、ルバンニの町の葡萄酒は国一番だってな」

「へー、じゃあそれで」

「銀貨一枚な」


 ちょっとお高い! 他の町の良い葡萄酒の倍ぐらいする……けど、まぁお金はそこそこ持ってるし、生活も安定してきたから食事には多少はお金を使ってもいいと思う。というか、贅沢をするわけじゃなくて、食事の質を上げるために色々とお金をかけてみるのも良いかもしれないよね。例えば日本の料理とかを再現してみるとかさ。

 そう考えていると、地球で食べたいくつかの料理を思い出す。

 カレー、寿司、ラーメン、うどん。もう長い間そういう料理は食べてない。


「思い出すと食べたくなってくるなぁ……」


 そろそろ『とにかく生きること』以外の楽しみを多少は追い求めても大丈夫なぐらいの余裕はあるよね? もう少し、色々と生活の改善のために動いてみようかな。

 などと考えている間に厨房の方でガサゴソ作業をしていたマスターが料理と酒を僕のテーブルの上に置いた。


「出来たぜ」

「おぉ!」


 料理は三つ。スープ、肉、黒パン。だけど黄金色のスープには見たことがない白い野菜と緑の葉野菜が入っているし、皿に並んだ肉も色が薄く今まで見たことがない肉に感じる。それに肉の皿には緑色のペーストが盛られていた。

 今までに見たことがない料理だ。

 銀貨一枚を払って料理に手を付ける。まずは肉から、二股のフォークで口に運んだ。


「うん、悪くない」


 淡白な鶏肉のような味。だが淡白なだけに、少し物足りなさがある。

 次に緑色ペーストを肉に付けて食べてみる。


「これは!」


 ガツンと来る塩気に舌に残る若干の辛味。それから青いハーブのような濃い香りが鼻に来て、それが淡白な肉の味に深みを出している。

 今までに食べたことがない味だ。


「マスター、これってなんです?」

「あぁ、それはユランの肉だ。ソースは俺のオリジナルだから言えねぇな」

「ユラン?」

「この辺りによく出るモンスターさ」


 へー、明日にでもギルドで調べてみようかな。


「キュ!」

「あぁ、ごめんごめん」


 シオンにもユランの肉を食べさせ、僕はスープに手を伸ばす。

 大きめのスプーンで器を軽くかき混ぜてみると、白い根菜と青い葉野菜に玉ねぎに似たオニールなんかが確認出来た。どうやら肉は入っていないようだけど、果たして味は……。

 スープを口に含む。


「これは、いける」


 肉の旨味に野菜の甘み。丁度良い塩味。

 流石は農業の町。素材を活かしたシンプルな料理が旨い。


「この町、いいな……」


 これだけ安い宿屋でこの味なら他にももっと美味しい料理を出す店はあるはず。

 本当はこの町で情報収集しつつ次の町を目指すつもりだったけど、もう少しここに滞在してもいいかもしれない。特に急ぐ用事はないのだしね。

 それから葡萄酒の美味しさにまた驚きつつ料理を楽しみ、この日は一人と一匹、共に満足な顔でベッドに横になれた。

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