★極スタ263話を作る工程をゼロから説明しながら創作の難しい部分を語る

第263話【SS】アルッポの鍛冶屋と町のその後【&ご報告】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885201112/episodes/16817330653135375358


先日、上記のSSを極スタ本編に公開したのだけど。

このSSを書き終えるまでの経緯とか流れとか、その時の自分の考察とか予想とか葛藤とかを全て覚えている今のうちに言語化しておいて創作の難しさについて語ろうと思ったので、これを書いてみた。


前にもどこかで書いた気もするけど、僕が小説を書く中で一番参考になったのは保坂和志先生の小説入門本なんだけど。その中身は小説の書き方の話ではなくて、先生がそれぞれの小説をどのようにして書いたのか。その時にどんなことを考えてどんな流れがあってそう書くことになったのかが書かれていて、それが凄く興味深く参考になったと。

なのでちょっとそういった観点も含めて、僕も書いている時のことを詳細に、その時の考えとかもまとめてみたら面白いかな、と思ってちょっと実験的に書いてみようと思った感じです。


◆◆◆


まず、このSSを書こうと思ったキッカケは、ぶっちゃけると本編を更新して5巻の宣伝をしなければいけない、という部分が少なからずあったのは間違いなく。それにKSP用SSを追加したいと思っていたところもあって。どうせならKSP用のSSと連動させて次章につなげた方が相乗効果もあって面白いと思ったり、当然ながら打算もあって本編にもSSを書くことを決め、2つのSSを同時に書き始めることにした。

これが最初。


そして次章の展開につなげるには『アルッポの町の衰退』と『鉱石』のキーワードを入れたいと思っていたので『アルッポで鉱石関連の商売をしている人』にスポットライトを当てた話に必然的に決定し、この時点で最初の2行3行を書いた。

しかしこの時点では明確なプロットも展開もまだなにもなく、ただ『アルッポの衰退で鉱石が売れなくなって商人が困っている』という『書く必要があった話』だけが決まっていて、実はセリフを書いているのに登場人物が誰かもまだ決まっていなかった。


この時点では『アルッポの衰退で鉱石が売れなくなって商人が困っている』というだけのオチもなにもない話でもいいや、的な感覚が半分ぐらいあったのだけど、そこからもう少し書き進めていた辺りで考え方を改めた。

前章、5巻のラストが、主人公が悪さをしたわけではないにしろ『主人公がダンジョンをクリアしたことでダンジョンの町が衰退した』という終わり方であり、多少は後味が悪いネガティブなイメージを持たれかねない展開にしてしまったのに、ここでSSとはいえ商人側の視点で自分の町が衰退して困っている彼らがクローズアップされてしまって彼らの悲壮さが直接的に見えてしまい表面化してしまうと、より彼らが悲惨に見えてしまって読者に潜在的な悪い印象を与えるのではないかと考えた。


この時点で一旦、書くのを止めて考えた。

このSS自体をボツにしてしまうか、ここから強引にでも明るい方向に持っていってコメディ展開にして多少でも希望が持てる話にするか。

色々と考えた結果、コメディ展開にすることに決定。このタイミングでようやく、この登場人物を5巻でルークが武器を買ったりしていた鍛冶屋の親方にすることに決定した。

どうしてこのタイミングになったのか、という話をすると、少しでも主人公に関わりのあるキャラは多少なりとも読者に思い入れが生まれてしまうため、そのキャラが不幸になる展開を書いてしまうと後味が悪くなってしまう可能性が高く『アルッポの衰退で鉱石が売れなくなって商人が困っている』だけの話に出すのは危険だと判断していたからだ。


ここから本格的にプロットを考えることになる。

展開的に彼らが困る流れは覆せないので、全てが丸く収まるハッピーエンドには出来ない。

元々、この親方を5巻の中でも『売れるモノ』より『自分が好きなモノ』を作るタイプの職人として書いていたため、この場面でも自分の好きなモノを作る展開にした。

ここで最初に思いついたのはベルセルクに出てくるガッツの大剣の話。

うろ覚えだけど、そのベルセルク作中の鍛冶屋が王様から「ドラゴンを倒せる剣を作れ」と依頼され、その無茶な依頼に『(もし扱うことが出来たら)ドラゴンでも倒せるだろ』という皮肉的な意味を込めてバカでかくて重たすぎて誰も持ち上げられない大剣を作って献上したら王様にキレられたっていうモノ。

なので最初はこの親方にバカでかい剣を作らせてみようかと思ったのだけど、それだとマンマすぎるなと思ったのと、こちらの鍛冶屋の親方は変な鈍器ばかり作ってた設定だったので、だったら最後にバカでかいメイスでも作らせたら面白いかも、と考えついた。


アルッポのダンジョンがなくなったことで町の衰退が進み、冒険者がいなくなったことで武具の需要がなくなり金属の需要がなくなって鉱石も売れなくなり、鉱石を売っていた商人が困る。

商人はなんとか鍛冶屋に鉱石を買ってもらいたくて鍛冶屋が喜びそうな武器の案を提供し、親方は弟子の給料にまで手を付けてそれを作る。

それをできる限りコメディタッチで書く。

と、ここまでを考えたが、これだけでもとりあえずコメディ展開には出来るものの、冷静になって見られてしまうと鍛冶屋の状況はより悪化しているはずで、より悲惨に見えてしまう気がした。

暗いストーリーは避けられたものの、実情的にはより暗い世界を書くことになってしまったということ。

となると、これだけではまだ足りなくて、最後にもっと希望を持てる展開を入れないとマズいと思った。


そこで思いついたのは京都の清水寺にある弁慶の錫杖。

観光地にある武蔵坊弁慶が使っていたとされる鉄の巨大な杖。

観光客が一度は持ち上げてみようとするアレだ。

そしてもう一つ思いついたのがデリーの鉄柱。

これはインドのデリーにある鉄の柱。

誰がどんな目的で建てたのか分からない鉄の柱で、鉄なのに錆びずにずっとそこにあり、今では観光地化している。

そんな大昔の謎の物体も、もしかすると最初はしょうもない理由で作られたのかもしれないなと考えたところで大体の展開は決まった。


そこで話の続きとして『○○年後に観光地化してアルッポが復活している』という世界を書くことにした。

そうして鍛冶屋が作ったドラゴンマッシャーという超巨大メイスを広場に設置し、観光地化した。という展開にして未来に希望を与えることにした。


でも、ただ巨大なメイスがそこにあるだけでは観光地にはならないだろうと考え、そのドラゴンマッシャーになんらかの『伝説』が必要だと感じたし、衰退した町で後が無いアルッポの商人達もそう考えるだろうと感じた。ので適当な伝説をでっち上げるだろうと想像し、ダンジョンの戦利品として持ち帰られたはずのドラゴンゾンビのことを思い出した。

ドラゴンゾンビの素材は回収されたはずで、そこそこ後に市場に出回ったはず。となると商人達の印象も強いだろう。

同じドラゴンつながりでそこらの話を上手くつないで、でっち上げていけば伝説を作れるはずと思ったし。ぶっちゃけ世界中の観光地とかでもこんな感じでどっかの商人が商売のために伝説の1つ2つを作成した例はあるんじゃないか、とか想像しながら偽の伝説を考えていった。


そうして生まれたのが『ドラゴンゾンビが使っていたドラゴンマッシャー』という偽の伝説で。それを主人公のルーク視点でドラゴンゾンビが倒されるところを見ている読者は当然それが嘘だと分かるはずで、それはそれでコメディ要素になると考えた。

なのでこれが明るい要素としてストーリーを補強してくれると感じたと。


◆◆◆


ということで、大体は書いていた当時の考えやらを書き出せたと思う。


まとめていくと、このSSを書くために必須だったのは『アルッポの町の衰退』と『鉱石』のテーマを入れることで。そこを入れないなら書く意味があまりなかったと。

しかし、ただでさえ本編では町の終焉までを書いてしまったため、暗い展開にしてしまうと読後感が悪くなってしまい、印象が悪くなってしまいかねないのでラストは未来に希望が持てる展開にする必要があった。

なので、暗くなるキーワードをコメディタッチで書いて出来る限り明るくしつつ未来に希望を与える展開を必死で考えた、というのがこの263話になると。


個人的には『読者がどんな印象を持つか』という部分は毎回必死になって考え想像する部分で、悪い言い方になるかもしれないけど『読者の印象をどうコントロールするか』が難しい問題だと毎回思いながら小説を書いていたりする。


恐らく最初に考えていた『アルッポの衰退で鉱石が売れなくなって商人が困っている』というだけの話を書いていたとすると、読者はただただ町が崩壊して不景気になって困っている人々を見るだけになり、暗い印象を持つだけだったはず。

コメディタッチとはいえ鍛冶屋がドラゴンマッシャーを作るまでの話で終わっていても、そこに救いはないはずで、暗い印象を持たれる可能性があった。

だから最後に復活した町の話につなげることで、上向きの明るい展開を書いて、なんとかポジティブな印象を与えられる展開に出来たのではないかと思う。


細かいところかもしれないけど、読者が受ける印象は上手くコントロールしないと作品が崩壊しかねないので凄く気を使うんですよね。

今回は263話のストーリーの面からの話をしたけど、割りと一文字だけでも印象って変わる場合があったりするんですよね。

例えば、


「おかしくない」

「おかしくはない」


前者は断定系で、後者は少し含みを持たせた言い方。

一文字で印象が変わってしまう。

これ単体で見たらそれは当然なんだけど、こういう細かいところで印象をコントロールした方が良い場面はそこそこあったりするんですよね。


今回のSSにしても、初期の『アルッポの衰退で鉱石が売れなくなって商人が困っている』という話のままだったら、ぶっちゃけ悪い印象を与えるだけになって失敗してたと思うんですよ。

今回はそれに書いている途中で気付けたから良かったけど、気付けなかったら、見落としたら、と考えたら怖いんですよね。

そこが小説を書いててしんどいポイントだったりします。

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