第233話 真・TU無双・猛将伝
そんなこんなで翌日、朝早くから起きて宿を出る。そして宿の裏手に向かった。
宿の裏手には何人かの冒険者が集まっていて、地面からコポコポと湧き出る水を水筒に汲んでいた。
そう、ここには湧き水があり、それが湖に流れ込んでいる。朝、ワインを分けてもらおうとして酒場のマスターに言ったらここのことを教えてもらったのだ。
どうやらこの村ではここの水を生活用水や飲用水としても使っているらしい。
村の場所をここにした理由はこれかもしれないね。
僕も水筒に水を汲み、そして村から出て四階に戻った。
「神聖なる光よ、彷徨える魂を神の元へ《ターンアンデッド》」
四階に入り、近くにいたグールをターンアンデッドで処理。グールのポケットから銀貨をいただき、そしてターンアンデッドの成功について紙に記入した。
念の為、対グールのターンアンデッド成功確率を出してみようと思っている。予想では女神の祝福によってパラメータが上がり、それによって成功確率が上がっていくと考えているけど、確証が欲しい。
それにしても、やっぱり四階のこちら側には人がいない。稀に三階側に向かっていくパーティは確認出来るものの、この五階寄りのこちらで狩りをするパーティはいない。やっぱり五階村に宿泊しながらグールを狩っていてはコストがかかりすぎて儲からないのかもしれない。
しかしグールを狩るなら三階野営地を拠点にするのが正解だからこそ、こちら側に人がいなくて狩り放題になる。これなら人の目を気にする必要もなく、グールはすぐに見付けられる。
「願ったり叶ったり、ってヤツだね」
多少の赤字はどうってことない。今は狩り効率&経験値効率だ!
汚物は消毒だぁ! ヒャッハー!
「神聖なる光よ、彷徨える魂を神の元へ《ターンアンデッド》」
「神聖なる光よ、彷徨える魂を神の元へ《ターンアンデッド》」
「神聖なる光よ、彷徨える魂を神の元へ《ターンアンデッド》」
「神聖なる光よ、彷徨える魂を――」
それから数日間、魔力ポーションを飲んでターンアンデッドを発動するBOTと化し、言葉がロボット口調になりかけるぐらいグールの死体を量産しまくった。
女神の祝福を得ると魔力が増えてターンアンデッドの発動回数が増え、ステータスが上がるからなのか成功確率も少しずつ増えていき効率がよくなっていく。そして女神の祝福も一九回になった。実に素晴らしい連鎖だ。
やっぱり同じ場所で同じ魔法を使い同じ敵を倒し続けていると変化が分かりやすくていい。
そうして魔力ポーションの残りが尽きかけてきたところでアルッポの町に帰ることにした。
朝、五階村から出て四階を抜け、いつものように三階野営地で夜を越す。仕方がないとはいえ、この時間はいつも面倒で仕方がない。もし魔法袋に時間停止効果があれば魔力ポーションを大量購入出来て往復の回数も減らせるのだけど、そんなチート効果は存在しないので定期的にアルッポの町に戻ってくる必要がある。
もしくは、凍結魔法みたいなモノがあれば魔力ポーションを凍らせて保存期間を延ばせるかもしれないし、錬金術を覚えて自分で魔力ポーションを生産するという方法も考えられる。
凍結魔法というか水と風の複合属性として氷魔法が存在していることは確認しているけど、属性的に覚えるのも難しそうだし、覚えられてもまだまだ先だろう。なので一番可能性が高そうなのが自ら錬金術を覚えて魔力ポーションを制作することだ。けど、入門書が金貨三〇枚と高額なのもあるし、本当に僕に扱えるのかも謎だし、覚えられたとしても一朝一夕で身に付くようなモノではないだろうから時間がかかるなら意味がないので躊躇している。
翌日、朝から出発し、三階、二階、一階と抜けてアルッポの町に到着した。
「ん~!」
大きく深呼吸しながら伸びをする。
ダンジョンの中にも自然があって外の世界と変わらないけど、やっぱりダンジョンの中という意識があるからか落ち着かないところがあって、地上に出ると本当に帰ってきたという感じがするのだ。
五階村にいる冒険者の多くはほとんど半定住みたいな感じだし、他の冒険者はそこまで気にしてないのかもしれないけど。
裂け目から冒険者ギルドに直行しカウンターで魔石を換金する。
「はい、それでは全ての魔石を合わせて金貨一八枚と銅貨六枚ですね」
「ありがとうございます」
これにグールらが持っていた硬貨をプラスすると大体金貨三〇枚いかないぐらい。魔力ポーション合わせて諸経費で金貨六〇枚ぐらい使ってるので差し引き金貨三〇枚程度の赤字になる。が、まぁ許容範囲だ。ある程度、強くなってきたらターンアンデッドを使わなくても勝てるようになってくるだろうし、そうなれば赤字も解消する。
財政黒字化計画は完璧だ。抜かりない。
「凄いですね! このペースでいけばすぐにCランクですよ」
「頑張りますよ!」
などと会話しつつ酒場の方に足を向けるとダムドさんがいた。
「どうも。最近どうです?」
「変わりねぇさ。お前はどうなんだ?」
ダムドさんの向かいの席に座ってウエイトレスさんにエールと肉を注文する。
「最近は五階村を拠点に狩りをしてますよ」
「どうりで最近見なかったわけだ。しかしもう五階村に行くようになるとはよ。えれぇ出世じゃねぇか」
「そうでもないですよ」
運ばれてきたエールをグビッと飲む。
「ところで最近、こちらで変わったことはないですか?」
「変わったことねぇ……っと、その前になにか忘れてねぇか?」
「……お姉さん、エール一つ」
そうだった。これがルールだったね。
「それじゃあいただくぜ!」
ダムドさんは運ばれてきたエールをゴクゴクと飲み干し、言葉を続ける。
「ぷはー! 旨い! 他人の金で飲むエールは最高だぜ! まぁ……最近は特に大きな出来事はねぇんだがよ」
「ないんかい!」
人にエール奢らせといてそれか!
思わずツッコんじゃったわ!
「まぁ聞けよ。確かに大きな出来事はねぇがよ、なにもねぇとは言ってねぇぜ」
なるほど、なにかはあるわけね。
目で続きを促してみる。
「最近、この町に入ってくる人の数が増えた」
「……それで?」
「それだけだ」
「それだけかい!」
なにこのベタな漫才みたいな流れ。
「いや、冒険者が増えてるんじゃねぇんだ。商人や公爵の従士が増えてる。それに教会の聖騎士もだぜ」
「……それって珍しいのですか?」
「それら全てが同時に増えるのは珍しいな。……まぁ、偶然かもしれねぇが」
なにかあるのかもしれないし、なにもないかもしれない。
現時点ではよく分からないけど、変化があったということだけは心に留めておこう。
「そういえば、公爵様で思い出しましたが、例の公爵様の五男、どうなってます?」
「……あぁ、さてね。最近、噂は聞かないが、あのボンボンの取り巻きはウロチョロと動き回ってるって話だぜ」
こちらも謎、か。まぁ彼についてはどうでもいいっちゃどうでもいいのだけど。
「そういやお前、最近ダンジョンの一階で子供、見たか?」
「子供って、川の近くでマッドトードを解体してた子供達ですか?」
「あぁ」
そういえばさっき帰ってきた時にチラッと確認したけど姿は見なかった気がする。
「いえ、今日は見なかったですね」
「そうか……」
ダムドさんはそう言ってエールを一口呷る。
「あの中にアドルって子供がいるんだがよ、その父親には昔ちょっとばかし世話になってな。ヤツはいい冒険者だったが、依頼の最中に消えちまってそれまでだ」
「……」
「それからはその息子のことを少し気にかけるようにはしてるんだがよ」
「……そう、ですか」
少ししんみりとした空気になる。
なんとも言えないし、恐らく僕がなんとか出来る話でもないだろう。
「今度、家までちょっと見に行ってみるかな」
そう言ってダムドさんはエールをグイッと飲み干した。
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