第232話 大賀さんの訪問
金貨一枚を払って部屋を取り、宿の二階に上がる。
部屋はよくある安宿と同じタイプ。二畳あるかないかぐらいの狭い部屋。窓は木窓。部屋記号が書かれた木の板を貰い、その板を使い内側から閂をする、外側からは鍵が掛けられないシンプルなシステムだ。
部屋に入って一息吐く。
「疲れた~」
「キュ~」
一人と一匹でベッドにゴロンと寝転がる。
「寝心地はそれなりだね」
シーツをめくってみると薄い敷布団のようなモノがあった。これがマットレス替わりなのだろう。以前、金貨一枚からの宿屋に泊まった時はフカフカのベッドで最高の目覚めだったけど、そういったベッドは高級店だけで、基本は乾燥した植物を敷き詰めたベッドになる。こういう薄い敷布団タイプはミドルクラスの宿からだ。恐らくだけど、この周辺にベッドに敷けるような植物がなかったのだろう。
暫く休憩し、シオンを連れて一階に降りると、宿屋に併設された酒場は既に冒険者で溢れていた。
カウンターでマスターに鍵を見せ、お椀に入ったスープとスライスされた黒パンを受け取る。そして出されたスープをズズッと飲んでみる。
「……」
可もなく不可もなく。旨くもなく不味くもなく。塩はそれなりに効いているけど香辛料やハーブなどがまったく効いてない。肉の味と塩が全て、という感じ。
続いてスープに入っている肉を食べてみると、こちらは比較的食べられる味だった。というより鶏肉みたいに蛋白で癖がないから食べやすい感じ。とりあえずこの肉がゴロゴロと入っているところだけは評価出来るかな。
「……」
と、考えていたらキュピーンと気付いてしまった。
この村は全体的に物資が不足している。しかし物資が不足しているのにこのスープの肉だけは大量に入っている。なのでこの肉はこの周辺で確保された可能性が高い。つまり――
「アシッドフロッグだな……」
僕の中の名探偵がそう主張している。
冒険者ギルドの資料によると、この五階に出没するモンスターはオーガとアシッドフロッグのみ。どちらもCランクだ。オーガは流石に食べないだろうし、そうなると残るはアシッドフロッグしかない。
名前からして嫌な感じがしてたけど……まぁ悪くないからいいかな。
それから肉をシオンに分けたり、岩のように固くなっている黒パンをスープに浸しながら食べていった。
しかし……ここの冒険者達の雰囲気が明らかに違う。町の酒場とは全然違うのだ。全員が良さそうな装備を身に着けている。流石はCランク以上しか存在しない村。凄く肩身が狭いというか、場違い感があるというか、混じりにくい感がある。
なので夕食は早めに切り上げて部屋に戻り、疲れているのもあって早めに眠ることにした。
◆◆◆
「……」
部屋の外、廊下を走る何人かの足音で目が覚める。
開けてある木窓から差し込んでいるのは月の光。どう見てもまだ夜だ。
足音の主達は階段を下りて扉から外に出ていった。
「……なんだ?」
起き上がって木窓から外を覗いてみるも、裏の畑と町を囲む壁しか見えない。
そうしていると外がどんどん騒がしくなり、多くの人々が村の中で動いている音が聞こえた。
「様子を見に行った……方がいいのか、どうか」
微妙なところだ。けど、ランクフルトでのスタンピードを思い出してしまう。
「その力は全てを掌握する魔導。開け神聖なる
マギロケーションで周囲を把握すると、町にいた大多数の人間が門の近くに集まっていることが確認出来た。
これは状況だけでも確認しておいた方が良い気がする。
準備をした後、宿から出ていくと肉眼でも冒険者を確認出来た。冒険者の頭上には光源の魔法の光が浮かび、門の横には篝火が焚かれていて周囲を照らしている。冒険者達はしっかり武装し、臨戦態勢が整っていた。
「来たぞ!」
壁の上の作られた櫓にいる男が外を見ながらそう叫んだ。
「何体だ!?」
「一〇……一、二、三、四……二〇はいる!」
誰かの声に櫓の上の男が返す。
これは、襲撃か? 三階の野営地でも夜にモンスターの大群の襲撃があったけど、ここでもあるのか!
ひっそりと近づいていき、冒険者達の最後尾付近に陣取る。
「よしっ! 射程距離に入ったら上から数を減らせ! その後に門を開いて打って出る! それでいいな?」
「おうっ!」
「それで決まりだ!」
「おぉ!」
自分達を鼓舞するように冒険者達は声を上げた。
よく見ると彼らを仕切っているのは冒険者ギルドの受付のおっちゃんだ。やっぱりここでも冒険者ギルドが冒険者を統率するのだろうか?
そう考えていると櫓の上から矢が放たれ始め、壁の外から雄叫びのような叫びが聞こえた。
「オォォォオオオオオオオ!」
次の瞬間、村の門が大きくドンッと揺れた。
「門を壊されると面倒だ! 門を開け! 行くぞ!」
「おぉぉぉ!」
門の左右の男達が閂を跳ね上げた瞬間、門が左右から勢いよく開き、その向こう側に巨人が見えた。
「これがオーガか……」
身長は二メートル前後。緑色の肌で額に角が一本生えていて、服は腰蓑だけ。多くのオーガが棍棒を持ってイキリ立っている。
「来やがったな! オーガ共!」
「行け! やっちまえ!」
「おぉっ!」
そして両者が門を挟んで激突。
前線に並んだ盾持ち冒険者が盾を掲げながら突撃し、オーガをふっ飛ばした後、槍をオーガの喉元に刺し込んだ。
それに続いて他の冒険者達も殺到しオーガを押し返していく。
一体のオーガが巨大な棍棒を振りかぶり冒険者に振り下ろす。が、その冒険者はスルリと避けて難を逃れる。次の瞬間、ドンッという音と共に地面が爆ぜた。
「……う~ん、これはダメだ」
見ているだけでも今の僕には厳しい相手だと分かる。勝てるか勝てないかでいうなら勝てるのだろうけど、リスクは大きいし複数の相手はまだ厳しい。出来れば戦いたくはない相手だ。
同じCランクのグールを普通に狩れているのはターンアンデッドがあるからで、ターンアンデッドの効かないアンデッド外モンスターはまだ難しいのだ。
そうこうしている内にオーガの数が減っていき、最後の数体が逃げ出して戦いが終わりを告げた。
「おしっ! ご苦労! さっさと解体しちまうぞ」
冒険者達が慣れた手付きでオーガを処理していく。
どうやら彼らにとってはオーガの襲撃は慣れたモノのようだ。
しかしあれだけのオーガの大群の襲撃があって被害がほぼゼロというのは、はやりこの村にいる冒険者のレベルは凄く高いのだろうね。
でもやっぱりこんな場所に野営とか無理だね。そりゃ皆、高くてもこの村に入るよね。夜中、あんな大群に襲われたらひとたまりもないし。
「恐ろしい場所だ」
そう思いつつ、宿に戻って二度寝した。
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