第231話 五階村

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本日の絵は五階の風景。


――――――――――――――――――――――――



 それから昼食を食べたりサーチ・アンド・デストロイしながら歩き、ついに五階への裂け目を見付けた。

 太陽は既に傾きかけている。ここまで八時間はかかったかもしれない。


「……やっとか」

「キュ……」


 これまでの階の裂け目周辺にはそれなりに冒険者がいたけど、ここの裂け目には人がいないし周囲にも人がいない。やっぱりこちら側まで来る冒険者は少ないのだろう。

 流石に僕もシオンも今日ばかりは疲れた。ターンアンデッドで倒せるしマギロケーションで不意打ちは防げるとしても、なんらかのミスでグールと正面から戦うことになってしまうとまだちょっと大変だろうからだ。


「さてさて、五階はどんな場所なのかな……っと」


 少し楽しみにしながら五階への裂け目に入ると、そこに現れたのは湖だった。


「うぉぉぉ!」


 森の中にある大きな湖。湖の周辺には木々が生い茂り、湖の奥には霞がかった巨大な山脈が見える。そして湖畔に佇む木製の壁。あれが五階村なのだろう。

 湖にはかすかに靄がかかり、幻想的ともいえる風景になっていた。


「ダンジョンってなんなのだろう……」


 なんとなく口から漏れる。

 知れば知るほど、この世界は不思議に満ちている。だから楽しいのだけど。

 裂け目から五階村まで、人の足で踏み固められた道を歩いて進む。

 村に近づいていくと壁の上に弓を持った冒険者がいることに気付いた。流石にいきなり撃たれることはないと思うけど、念の為、意識をそちらに割きながら慎重に村の門に近づいていく。

 村の門は大きな木製の門で、今は開け放たれていた。


「金貨一枚だ」

「はい」


 門の横には門番らしき男がいて、そこで金貨を徴収されたので大人しく渡す。これは聞いていた通りなので問題ない。でも、事前に聞いてなかったら躊躇したかもしれない。やっぱり情報は大事だ。

 村の中は大体一〇軒ぐらいの家が建っているだけで今ままで見た村の中でも最小。建物も木製ばかり。これはダンジョンの中に簡易的に建てられてるだけだから仕方がないかな。


「ん?」


 入口の近くにある建物の壁に『ダンジョン産下級ポーション 金貨五枚買取 アルメイル公爵家従士団』と書かれた張り紙があった。

 下級ポーション? 公爵の従士団がここで直接買取をしているのか?

 ダンジョンの情報を纏めた紙を取り出して確認する。

 冒険者ギルドにあったダンジョンの情報は六階までで、とりあえずそこまでは描き写したはず。


「えぇっと……」


 六階に出現するブラッドナイトが下級ポーションを落とすことがある、と。これの買取を公爵の従士団が行っている? それも金貨五枚という大金で? どうして?

 この世界のポーションは使用期限が短めで長期保存には向かないはず。現に僕が使っている魔力ポーションも使用期限は七日程度だと聞いた。

 それにアンデッドが持っているポーションを使っても大丈夫なのか問題とか、そのアンデッドが持っているポーションがいつ作られたのか問題とか色々と問題点があるけど……。しかしここで公爵家がポーションを買い取っているという事実が無意味なわけがない。


「なにか理由があるはず……」


 可能性としては、公爵家にポーションを長期保存可能にする方法がある、とかかな?

 ……いや、だとしたらこんなダンジョンの真ん中でポーションを買い取る必要なんてない。町で錬金術師に作らせたらいいのだから。とすると――


「ダンジョンから入手出来るポーションと錬金術師が作るポーションは別物、か」


 その可能性が一番高い気がする。

 まぁ、今はこれ以上、考えても分からないか。

 頭を切り替え、村を見て回る。

 この村にある建物はほぼ商店で民家がないっぽい。誰もこんな場所に定住したがる人はいないのだろう。

 そしてこの村の中を歩いているほぼ全ての人が強そうな見た目をしている。やはりCランクモンスターが出没するエリアなので低くてもCランク冒険者相当の人材が集まっているのだろう。

 普通の町や村なら買い物に来ている主婦とか遊んでいる子供などの姿を見かけるけど、この村にはそれがない。村というよりむしろ軍事施設というか、軍事拠点的な場所だと感じる。

 Dランクでソロなのに強引にここに来た僕はかなりイレギュラーなのだと思う。

 村の施設は、宿屋、雑貨店、鍛冶屋、そして冒険者ギルドの出張所と、冒険者にとって必要最低限のモノは揃っているようだ。

 とりあえず冒険者ギルドの出張所だけは確認しておく必要があると考え、中に入ってみる。

 外から見ると一般的な冒険者ギルドとは違ってサイズがかなり小さい。けどちゃんと冒険者ギルドと書かれているので間違いないだろう。

 木製の扉を開けると目の前にカウンターがあり、その中に髭面のオッサンがいた。


「……」

「おう」


 声を掛けられたのでそちらに近づいていく。


「すみません。受付嬢さんっています?」

「いるぜ。俺だ」


 いやいやいや、そうじゃなくて……。こう、もっとあるじゃない? 普通の冒険者ギルドにいるようなさ~。


「こんなダンジョンの中に好んで来たがる受付嬢なんているわけねぇだろ。嫌なら帰んな」

「嫌とは言ってませんよ、嫌とは」


 冒険者ギルドの受付嬢は大体は女性がやることが多い。それもちゃんと教育を受けている女性だ。こんなオッサンが受付をやっている冒険者ギルドは初めて見た。もしかすると冒険者ギルド業界の左遷先なのかもしれない。


「で、ここのギルドはアルッポのギルドと同じ機能があるんですか?」

「なわけねぇだろ。魔石といくつかのアイテムの買取はやってるがな」

「ランクアップはやってます?」

「やってねぇな。ここはCランクエリアなんだからよ、Dランクなんざまず来ねぇっての。そもそもアルッポでもCランクまでしか上げられねぇんだぞ」


 じゃあもうここに魔石を売る意味などないのでは?

 まぁ地上に戻らなくても換金出来る意味は大きいのか。

 いや、それよりも……。


「アルッポの冒険者ギルドってCランクまでしか上げられないのですか?」

「……色々あんだよ、事情ってヤツが」

「事情とは?」

「……普通はどこの国にも一つ、Bランクに昇格させられる冒険者ギルドがあるんだがよ……。この国はどこにそれを置くかが難しいんだよ」

「あぁ……」


 つまりアレか。この国は三つの公爵家によって運営されているからトップがいない。どの公爵家も自分の領地に利権を呼び込みたいし、それ以上に他の公爵家の領地に権力を渡したくない。どこかの公爵家の領地にBランクに昇格させられる特別な冒険者ギルドを設置したとしたら、冒険者ギルドがその公爵家を後援するような意味に取られかねない。とかそんな感じか。政治的な話はとにかくややこしいから面倒だけど、その辺りを知ってないと危ない場面があるから本当に怖いよね。

 やっぱり地域ごとに政治とかの情報も集めていかないと、目立つ動きをした時に思わぬ場所から攻撃されちゃいそうだし気を付けないと。

 受付嬢(男)に礼を言って冒険者ギルドを後にする。

 空は太陽が横になり、周囲が段々と暗くなってきた。

 村の門からは狩りに出ていた冒険者達が続々と戻ってきている。彼らの一部は村の端の方にある空き地にテントを設営し始めている。

 お金の節約だろうか? 村への入場料で金貨一枚で宿屋代まで取られたら出費は凄いことになるしね。


「おっと」


 そんなことをしている場合じゃない。早く宿を取らないと満室になってしまうとヤバい。昨日は寝てないし、今日はちゃんと宿で寝ないと流石に危険な香りがする。

 そうして宿屋のマークのある建物に向かった。

 この村にある宿屋は一軒だけで、ここを逃すと他はない。外から見た感じ町にある宿屋なんかより大きく見えるので、それなりの人数を収容出来そうだ。

 宿の扉をガチャリと開けると中から肉が焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。

 なんの肉なのか分からないけど旨そうだ!

 扉から左奥にある酒場をチラチラ確認しながら正面のカウンターに向かう。


「一泊いくらです?」

「夕食付きで金貨一枚だな」


 おぉっふ……めっちゃ高い……。以前、アルノルンで泊まった高そうな宿屋と同じ価格帯だ。

 これはアレだな。山の山頂の自販機が高い現象と同じヤツだ。この感じだと、この村の物価はメチャクチャ高い気がする。まぁ、様々な物資をここまで届けなきゃいけないはずだし、高いのは仕方がないか。

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