第88話 チーズと槍と一九階
翌日、今日もダンジョンへと向かう事にする。
いつものように全身に浄化をかけ、さっぱりしてから宿を出た。
最近では服を脱ぐ事も着替える事もほとんどない。体も服も洗う必要がないから自然とそうなってしまった。しかし浄化後に出る白い粒は服を着たまま軽くはたいただけでは落ちきらないので、たまに全部の服を脱いで綺麗に払ってやる必要がある。服を脱ぐのはその時ぐらいだ。これだけはどうしようもないね。
ダンジョンに銀貨一枚を払って入り、転移碑まで歩きながら昨日の事を少し思い出す。
昨日はちょっと驚いた。まさかチーズがあるなんてね。
あの時、あまりに僕が凝視するものだから隣の男性に不審がられてしまい、それから色々とありつつも彼から話を聞く事が出来た。彼が言うには、この町ではデザートカウのドロップアイテムである牛乳からチーズを作っているらしい。
しかし、チーズの値段は想像していたよりも遥かに高かった。物によっては拳ほどの大きさでも金貨が飛ぶらしい。でもよく考えるとそれも当然かもしれない。チーズの原料は牛乳で、その牛乳の入手方法はダンジョンからのドロップだ。一人の冒険者が持って帰ってこれる重量に限界がある以上、安いアイテムを冒険者は持ち帰らない。結果的にコストが上がるのだろう。
一六階に到着し、一五階へと向かう多くの冒険者をちらりと確認してから光源の魔法を発動。奥へと進んでいく。
もうこの階層にも慣れてしまった。メイン通路、つまり階段と階段の間の最短ルートは地図を見なくても移動出来る。一六階は転移碑から近い事もあってまだ人が多いため、いつも比較的人の少ない一八階で狩りをしていたからだろう。
そして慣れた事はもう一つ。
「フゴッ!」
前方の暗闇からオークが現れた。
オークはダッシュで一気に間合いを詰め、錆びた剣を振り下ろしてくる。
オークは慎重だったり思い切った攻撃をしてきたり、色々やってきて面白い相手だ。
などと思いつつ、その一撃を一歩左に移動する事で避けながら右手の槍を思いっきりオークの喉へと突き入れ、そのまま押し込んでオークを押し倒した。
暫くするとオークが消えていき、ドロップアイテムが残る。
この階のモンスターに慣れた事、そしてレベルが上がった事で、今は以前とは比べ物にならないほど簡単にオークを倒せるようになった。
やはりレベルアップ――女神の祝福の効果は絶大だ。そしてやはりダンジョンの経験値効率は凄く良い。ダンジョンに入って数分で敵と戦えるのだから、そりゃ稼ぎやすいよね。
そのままモンスターを倒しながら最短ルートでダンジョンを歩き続けて一六階を抜け、そして一七階、一八階も抜け、今は一八階と一九階の間にある階段の一番下の段から一九階を眺めながら水筒から葡萄酒を飲んでいた。
ダンジョンの階と階を結ぶ階段はモンスターが入ってこないセーフゾーンになっている。なのでここは安全なのだ。
ふと視界に入った右手に持つ槍に視線を移す。
この槍もかなり使い込まれてきた。いや、貰ってから半年も経ってないわけで、期間的にはそんなに長くはないのだけど、毎日朝から晩まで使い続けた結果、かなり傷んできている。
定期的に研ぎ直したり調整したりはしているけど、それもそろそろ限界だろう。やはり槍はスケルトンとの相性が悪い。血も涙もないと言われているモンスターでも大体は血も涙も肉もあるわけで、肉を絶ち臓器を傷つければその内倒せるけどスケルトンの場合は本当に言葉通り……いやこの場合、言葉通りというのが適切なのか分からないけど、とにかく血も涙もないし骨以外ない。なので倒すには骨を断つか叩き潰す事になる。
なので、石突で叩き潰したり、錆びた剣を受け止めたりとしていたら、槍がボロボロになっていた。
何か別の武器でも買おうかと考えたけど、別の武器を使っている間に槍を置いておく場所がない。宿屋は内側から閂をかけるような構造の部屋がほとんどなので、日中出かけている間に荷物を置いておくような場所ではないし。背中にくくりつける事も考えたけど、剣ならともかく長い槍だと屈んだり激しく動いた時に壁や地面に引っかかりそうで怖い。
中々ゲームのようにはいかないもんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます