第72話 人気の狩場と僕が求める狩場

 翌朝、浄化をかけてからダンジョンへと向かう。

 この朝シャン浄化が最近のお気に入りだ。寝汗をかいてもスッキリ出来て気持ちいい。

 基本的に貴族と金持ちの家ぐらいにしか風呂がないこの世界では、毎日お風呂に入っているより綺麗な僕は浮いているかもしれない。体の隅々まで洗い残しなく綺麗にしてくれるこの浄化のおかげで、ぶっちゃけ日本にいた時よりも綺麗だと思うし。

 でも浄化を止めるなんて、そんな事は今さら出来ない。だって井戸から水を汲んで、それで体を拭いたりするのってかなり大変だからね。特に女性は特に大変そうだ。男性冒険者みたいに井戸の側で裸になってジャバジャバ洗うわけにもいかないしさ。


 銀貨一枚を払ってダンジョンへと入り、地下一階に下りて転移碑から一一階へと飛んだ。

 そしてマップを見ながら、とりあえず階段の方へと目指そうと歩き始めたけど……。

「……なんか、人が多くない?」

 気配を探ろうとしなくても、そこら中から人の気配とランタンの明かりが漏れているのが分かる。

 僕が見た中で、今まで一番人が多かったのはフォレストウルフだけが出る六階だった。次がスライムとエルラビットが出る二階と三階で、その次がスライムだけが出てくる一階だろうか。そしてこの一一階は、それまで一番人が多かった六階よりも人が多いように感じた。

 理由は何となくだけど想像出来る。恐らくドロップアイテムの価値とモンスターの強さのバランスなんだろう。

 例えば二階と三階に関しては肉や毛皮が売れるエルラビットが稼げるモンスターなんだろうけど。エルラビットより強いのに売れるドロップが魔石ぐらいしかないゴブリンが敬遠されるから、ゴブリンとエルラビットが出る四階と五階の人気がない、とかそんな感じではなかろうか。

 この一一階のデザートカウに関しても、資料を見た感じでは大きな角を持つ牛に似たモンスターらしい。なので肉や皮がドロップアイテムとして出て、それが良い値段で売れるのだと思う。


「これは……この階は諦めた方がいいかな」

 はっきり言うと、僕の目的はレベル上げだ。そりゃお金は大事だし、ないと困るし、少しは貯金しておきたいとは思うけど、それよりレベル上げの方が大事なのだ。今は儲かるモンスターより経験値効率の良いモンスターを相手にしたい。でもゲームと違って経験値が分からない以上、優先するのは同ランク帯のモンスターの中で効率良く数を狩れるモンスターになる。つまり、ライバルの多いこの階は相手が何であれ避ける方がいいだろう。

 そう考え、途中何人かの冒険者とすれ違いながら一一階を抜け、一二階へと進んだ。


「えぇ……ここも人が多いぞ」

 一二階に下りて少し進んだ時点で複数の人の気配を感じ、この階も人が多そうな事にすぐ気付く。

 資料から写した紙の束をパラパラとめくり、もう一度、確認する。

 資料によると、この階に出るモンスターはデザートカウとオークになっていた。

 オークは一言で言うと二足歩行の豚という感じのモンスターらしい。力が強く、ゴブリンやコボルトより強いDランクモンスターだ。もしかすると、このオークも肉や皮をドロップするのかもしれない。

 紙の束をめくり、先を確認する。

 一二階から一五階まではデザートカウとオークの組み合わせが続いていた。

「となると、一五階まで人が多いかも」

 どうしようかな、と考えながら階段へと進んだ。


 それにしても。冒険者について、今まではFランクが一番人数が多くてランクが上がるほど人数が減っていくピラミッド型の組織を想像していたけど、ここの人数の多さから考えると、もしかすると冒険者はDランクが一番多いのかもしれない。

 よく考えると僕もFランクは一瞬で抜けたしね。今もまだEランクではあるけど、冒険者登録して数ヶ月と考えたら別におかしくはないと思うし。

 スタンピードの時にランクフルトにいた冒険者の最高ランクがCで、あの時に見たCランクの冒険者の数が一〇人前後だったから、Cランクの冒険者はそれなりに数が少なくて、それ以上になるともっと少なくなるのだろうと思う。


「ンモッ!」

 そんな事を考えていると前方から何かの鳴き声がして、重たそうな足音をドスドスドスと響かせながら何かがこちらに向かって走って来た。音からして……馬? ぐらい?

 ……うわっちょっと、これはヤバそうだぞ!

 焦って紙の束をポケットに突っ込み槍を構えると、暗闇の中から敵のシルエットが浮かび上がってきた。

 見た目は牛そのもので、頭には僕の腕より太く長い角が二本、ぶっ刺してやんぞ! と言わんばかりに、こちらに向いて生えていて。体高は二メートル近くあり、身幅も太くて威圧感が物凄い。

「ちょっ! これは!」

 こんなのに正面から攻撃するなんて無理だろ! 絶対に弾き飛ばされるだけだ!


 デザートカウは、その角で僕をカチ上げようとしているのか、走りながら頭を地面スレスレにまで下げ、こちらに突っ込んで来た。

「くそっ!」

 咄嗟に右へと飛び退きながらデザートカウの首筋に槍で一撃入れ、すぐに引き抜き、地面に転がる。

 そのまま受け身をとってすぐに起き上がり、槍を構えた。

 デザートカウは暗闇へと消えて行く。

 そして暗闇の中でザザザザッと地面をこする音が聞こえたかと思うと、またこちらへと走ってくる重低音の足音が暗闇に響き始めた。

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