第161話 サブス
ザワザワとしていた周囲の声が止み、皆の視線がこちらに集まってくる。
「Fランクのくせに、この黄金竜の爪に入ろうとしている身の程知らずはお前か!?」
「えっ?……あぁ、そうなるんですかね?」
いきなりの言葉に少々面食らい、半端な返事になってしまった。
しかし黄金竜の爪に入ろうとしているというか、既に入っているはずだし。いやそもそも僕は別に入ろうとはしてなかったのだけど……。
「いいか? 黄金竜の爪は一流の戦士が集まる場所だ。Fランクが来る場所じゃねぇ! 分かったな!?」
そう言いたいことだけ言って、若いドワーフは食堂からスタスタと出ていった。
なんなんだ? 意味が分からない。
そう思いながら答えを求めてサイラスさんの方を見ると、彼は軽く肩をすくめながら教えてくれた。
「あいつはサブス。クラマスの息子だ」
クラマスの息子! つまりケヴィンさんの息子でボロックさんの孫か。
ということは、それなりに権力っぽいモノを持っているのだろうし、伝手とかコネとかもあるんだろうし――
なんとなく状況が見えてきてゲンナリしてくる。凄く面倒くさくなる予感がする。
「ルークはFランク、なんだよな? うちはそこそこ名のあるクランだし、流石にFランクの冒険者を入れることはまずないからな。中にはこのクランに所属していることを誇りに思っているような奴もいる。つまり、良く思わない奴もいるのさ」
「サブス、嫌い」
サイラスさんは横目でチラリと他のテーブルを見て、親指をクイッと差した。
その指を辿って視線を走らせると、そこにはいくつかの好意的ではない目。
なるほど……。まぁ、確かにそう思う人達もいるだろう。名誉や権力が絡む話なら尚更だ。彼らからすれば気持ちの良いモノではないはず。Fランクというまったく実績のない冒険者が有名クランに入るとか、それはもう権力とかコネとかなにかで裏から入ったのだと思われても仕方がない。
って、よく考えるとボロックさんの手紙一枚で入った僕はモロに権力とコネで入ってるのか……。これはアウトすぎて『不当な扱いだ!』とキレることも出来ないぞ……。
「まぁ見た目は若くても冒険者ランクが低くても、スゲー奴はいる。それに――」
と言いよどみ、一呼吸空けて言葉を続ける。
「いや、実力を自力で証明すればいい。そうすれば全員黙るさ」
確かに、そうするしかないんだろうなぁ。
こんな状態はちょっと落ち着かない。あからさまに悪感情を向けられるのは居心地が悪いし、早い内に改善したい。
というか、僕がFランクという情報が既に多くのクランメンバーに把握されているってどういうことなんだ? 個人情報保護法はなくても個人情報は守ってほしいんだけど……。
そこでふと、サイラスさんはこうやって僕と普通に話しているけど、僕のことをどう思っているのか気になり、「サイラスさんは、どう思ってるんですか?」と聞いてみた。
「俺か? そうだな……。俺はクラマスを信じてる。それにFランクでここに入れた新人に興味もある。といった感じか」
そう言ってサイラスさんは木のジョッキをグビッと傾けたのだった。
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