第124話 聖獣リオファネルの卵
「神聖なる光よ、彼の者を癒せ《ホーリーライト》」
多少回復した魔力で巨大スライムに焼かれた傷を癒し、腰を上げる。
「はぁ」
大きく息を吐き周囲を見渡してみると、真っ黒に染まっていた洞窟内の全てが浄化されて本来の色を取り戻し、汚れが変化した白い粒が地面に降り積もってまるで南国のビーチのようになっていた。
目の前――巨大スライムがさっきまでいた場所に出来た小さな砂丘をかき分けるように上り、頂上に落ちていた白い魔石――光の魔結晶を拾い上げる。
「この大きさは、やっぱりBぐらいかな? しかし、これも変質したのか」
黒い巨大スライムが落とした魔石は光の魔結晶。しかしあの巨大スライムが光属性とは考えにくい。小さな黒いスライムからは闇の魔結晶が取れたし、巨大スライムの方も本来は闇の魔結晶だったはずだ。
そしてエレムのダンジョンでアンデッドを浄化で倒したらドロップアイテムが変化した。しかしそれはダンジョンという特殊な環境の中だけの話という可能性があったし、アンデッドだけがそうなる可能性もあった。
「でも、それが否定された」
つまりダンジョン以外でも、アンデッド以外でも、浄化で倒せるモンスターなら魔石は変質する可能性があるのだろう。
光の魔結晶を魔法袋に入れ、白い粒の山をかき分けていく。マギロケーションがこの下に何かの反応を捉えていた。
「って……」
“リオファネルの卵”
“聖獣リオファネルの卵”
頭の中に浮かぶ言葉。
そこにあったのは真っ白い卵。
横幅一〇センチ、縦幅二〇センチ程だろうか。見た事はないけどダチョウの卵と同じぐらい? かもしれない。
卵を手に持ち、目の前まで持ち上げてみる。
「これって……生きて、る?」
ここにあるという事は、あの黒い巨大スライムの中にあったという事だろう。あの中に手を突っ込んで溶かされかけた僕としては、卵が消化されず形を保っていられた事がまず信じられないのだけど。
すると、僕の言葉に答えるかのように、卵がトクンと何かの波動のようなモノを弱々しく発した。
「……これは、生きてるって事? でいいのかな?」
思わず卵に聞いてみるけど、今度は何の反応も返ってこない。
「う~ん……神聖なる光よ、彼の者を癒せ《ホーリーライト》」
聖なる光が卵に降り注いで卵の中に吸収された。
その弱々しさが気になって卵に回復魔法を使ってみたけど、これでよかったのだろうか? いや、それ以前に、リゼが言っていた助けを求めている子ってのはこの卵の事でいいのだろうか? リゼを呼び出して聞いてみたいけど、今はそれだけの魔力が残っていない。
「しかしこの卵、どうしよう……」
巨大スライムから開放したし、このままでいいのだろうか? 親を探し出して卵を返してあげないといけないのだろうか? 卵を孵化させる必要があるのだろうか? 孵化させるなら温める必要があるのだろうか? この卵をどう扱えばいいのか判断出来ない。
「う~ん……まぁとりあえず放置は出来ないかな」
なんてったって聖獣らしいしね。放置して、はいさようなら、は流石にマズい気がする。
魔法袋から外套を出して地面に敷き、中央に卵を置いて飴玉を包むようにクルクルと巻いて、それを輪っかのように結んで首から掛けておいた。とりあえずの応急処置だ。町に着いても孵化しなかったら専用の鞄でも買おうか。
卵の今後について考えながら白い道を歩き、神殿の入り口へと向かう。
柱に刻まれた模様。外壁に描かれた人や動物の彫刻。浄化によって表に現れたそれらを眺めながら神殿の前まで進むと、出入り口が完全に崩れているのがはっきりと確認出来た。
「これは、ダメだな……」
完全に塞がれていて奥には戻れそうにない。時間をかければ瓦礫の撤去は可能かもしれないけど、下手にいじると余計に崩れて巻き込まれそうで怖い。それに――
「その時間がない、か」
食べ物はそこそこ余裕があるけど、水がどうにもならない。葡萄酒の残りはあと数日分ぐらいだろうか。
「結局、先に進むしかないんだよね」
後ろを振り返り、洞窟の奥へと続く道の先を眺めた。
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